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「入口は、どんなところにもある」アイヌ文化から見える、私たちの暮らしを見直すヒントとは

  • 2026.3.13

Sitakkeでは、自分が住む地域の魅力や課題を「自分の言葉」で発信したい人に向けたライターワークショップを開催しました。

研究者や観光業、地域で活動する人など、ふだん文章を書く仕事をしていない参加者たちが、取材から制作までに挑戦しています。

今回は、アイヌ文化を通じて北海道の自然の魅力を多くの人に伝えるため、美幌博物館の学芸員の城坂結実さんと、ピポロアイヌ文化協会会長の河本真由子さんのお二人へのインタビューを行いました。

前半の記事では、城坂さんが自然の魅力を伝えたいと思ったきっかけや、河本さんが、自身のルーツを知ることで再確認したアイヌの文化という経験についてお話しました。

ここからは、他ワークショップメンバーの記事をお届けします。

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厳しい冬を生き抜く食と衣の知恵

Sitakke読者のみなさん、こんにちは。網走市在住の鈴木千波です。執筆業ビギナーのため拙い文章ではありますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

温暖化などさまざまな環境課題が見える今、身近な暮らしを改めて考えたい。

自然との関わりのなかで受け継がれてきたアイヌの知恵や文化、そして今も続く実践にふれることがそのきっかけになりそうだと感じました。

ここからは、取材の中で伺った、「北海道の厳しい冬の自然を生き抜くアイヌの知恵」についてお話します。

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左から、美幌博物館の学芸員:城坂結実さん、ピポロアイヌ文化協会会長:河本真由子さん

アイヌの人々の食生活は、狩猟や漁猟、採集、農耕といった、北海道の自然から得られる資源によって支えられてきました。

しかし、冬になると一面が雪に覆われ、農作業はほとんどできなくなります。
厳しい季節を乗り切るため、さまざまな方法で保存食をつくる工夫が生まれました。

そのひとつが、じゃがいもを使った常備食。
冬のあいだ雪の下で凍りつき、日中のわずかな陽気でほどけ、夜の冷え込みでまた凍る…こうして凍結と解凍を繰り返しながら発酵させてつくります。

冬の厳しい寒さそのものを、調理の工程として活用している知恵について、「日本全国誰でも食べるものだと思っていた」と、河本さんは微笑みながら教えてくれました。

河本さんによると、寒い季節に欠かせない栄養として油も大切にされていたといいます。

アザラシなどの海獣から得られる脂を、同じくその腸で作った容器に入れて保管する工夫もあったそうです。低温下で体を保つにはエネルギーが必要で、脂質は命を支える栄養でした。

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北海道の樹木「オヒョウ」の皮からつくられた衣服アットゥㇱ。(美幌博物館写真)

衣の面でも、身近な素材が暮らしの道具になります。オヒョウの木の皮から作る樹皮衣「アットゥㇱ」は、水に強く丈夫な衣服です。

ほかにも、アイヌの人々はシカやアザラシの毛皮を重ねて防寒し、靴は、防水性の高いサケの皮で作り生活していたといいます。

動物や植物がもつ性質を、そのまま生活の技術へ変換してきた暮らしの知恵が見えます。

こうした暮らしのあり方からは、自然条件と切り離されない、むしろ自然条件とともに生きる姿がみえてきます。

これらの知恵は過去の文化ではなく、近年増えている異常気象や気象災害のなかで、 これからの北海道の暮らしを考えるうえでもヒントになるのでは ないかと、今回の取材を通して感じました。

また、私が暮らす網走市には、道立北方民族博物館など北方民族の文化を学べる施設もあります。
今回の取材をきっかけに、身近にこうした学びの場があることをあらためて実感しました。

学芸員と語り手が学びをつなぐ

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Sitakke読者のみなさんこんにちは。北海道留萌市在住の片山史麻といいます。
一地方公務員として、過疎化問題などの課題から 「地方からの発信力」 に興味を持ち、ワークショップに参加しました。

ここまで、美幌博物館の学芸員の城坂さんと、ピポロアイヌ文化協会会長の河本さんのお話から、自然への向き合い方をたどってきました。

そのなかで、改めて考えさせられたのが「アイヌ文化」は私の身近に、暮らしのなかにあるという気づきです。

城坂さんが「北海道の自然を知るなら、アイヌ文化を知るのが面白い」と話していた言葉をきっかけに、私の住む土地についての見え方が少し変わりました。

地名から見える暮らしのおもしろさについてもお話してもらいましたが、現在、私が暮らしている留萌市も、アイヌ語で「汐が奥深く入る川」を意味する「ルルモッペ」が語源とも言われています(※1)。

世界三大波濤に数えられる海の激しい波の印象が強く、これまで留萌川を強く意識することはありませんでしたが、名前の意味を知った瞬間、当時の暮らしでは川が生活の軸だったのだろうかと想像が膨らみました。

今歩いている場所に、川を大切にしながら暮らしていた気配が重なるようで、目の前の自然をいちど見つめ直してみようという気持ちになります。

また、河本さんからは、知識として学ぶ前から、自然の美しさや大切にしたいという感覚が体験として残っており、その心の根っこに文化があると気づくことも多いというお話がありました。

アイヌ文化は今まさに北海道で暮らす私たちの生活のなかにも根づき、気づきを与えてくれるのかもしれません。

アイヌ文化を遠い存在として眺めるのではなく、自然と長く向き合ってきた知恵として捉え直すことで、今自然との距離感に悩む私たちにとっても、向き合い方を考えるロールモデルになるのではないかと感じました。

「じぶんごと」としてのネイチャーポジティブ

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北海道の自然(イメージ):pixta

北海道立総合研究機構林業試験場の速水将人です。

今回の取材前半記事を通して、「自然」や「環境」に興味がない人にと
っても、さまざまな「きっかけ」の入口があるということを実感しました。

アイヌ文化は、動物・植物などさまざまないきものの「生き方」を深く理解して、自分たちの暮らしに結びつけてきた知恵の積み重ねだと言えます。

身近な自然とどう付き合い、利用しているのかを知ることは、今とこれからの自然との関
わり方を考える手がかりにもなります。

近年は、自然を守るだけでなく、生態系を回復させながらより良い状態へと導いていこう
という「ネイチャーポジティブ」という考え方も注目されています。

一方で、暑さや虫への苦手意識に加え、ヒグマやマダニへの不安も重なり、野外で自然に
触れる機会そのものが減りつつあります。

「自然」「環境保護」といった言葉を聞くと、どうしても「難しそう…」といった印象を
持ってしまう人も多いのではないでしょうか。
でも、アイヌ文化を知ることがきっかけで、北海道の自分の身近な自然について気がつく
ことがどんどん増えていったら、多くの人がもっと楽しく感じるきっかけになるのではな
いでしょうか。

「自然を守る」という言葉を、日々の自分の生活の感覚へ引き戻していく。
その積み重ねが、次の世代に渡せる手応えになります。

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北海道の樹木「ツルウメモドキ」や「シナノキ」からつくられた「タㇻ」と呼ばれる紐。

では、アイヌ文化や自然に今まであまり関心がなかったという人に向けて、お2人は「まずは自分が興味を持てるものを探してみてほしい」と話します。

例えば、博物館に足を運んでみて、綿々と続くアイヌの文化に触れることもひとつ。
「ゴールデンカムイ」のような作品をきっかけに関心を持つことも、ひとつの入口かもしれません。

地名の由来に惹かれる人もいれば、保存食の作り方や衣服の素材に興味を持つ人もいます。
どこから見始めても、そこにあるのは自然とともに暮らしている「生活」です。

小さな気づきが重なると、自然は遠いテーマではなく、手触りのある出来事になります。

気になった一点を入口にすると、次に調べたいことが自然に増えていきます。
アイヌ文化の視点をひとつ添えるだけで、いつもの北海道の景色が少し違って見え始める「きっかけ」になるかもしれません。

※この取材は、Sitakkeが主催するワークショップの一環で行っています。

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※1 出典:山田秀三(1984)北海道の地名、北海道新聞社

取材・文:ワークショップ参加の鈴木千波さん・片山史麻さん・速水将人さん
編集:Sitakke編集部YASU子

※掲載の内容は、取材時(2026年1月)に基づきます。

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