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震災への復興祈願を託した仏像がついに公開。「松本明慶工房」の3代にわたる作品づくりとは

  • 2026.3.5
写真提供=松本明慶工房

東日本大震災の犠牲者追悼と復興祈願のための仏像、「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」が、2026年3月11日に東京・増上寺にて披露されます。その制作を手掛けたのは、親子3代にわたって仏像を彫る「松本明慶工房」。2011年3月11日に起きた東日本大震災からの復興を願って、同年5月に制作を開始し、このたび15年のときを経て完成に至りました。

日本最大規模を誇る「松本明慶工房」とは?

「松本明慶工房」は、運慶と快慶を輩出した鎌倉期の仏師集団・慶派の流れを汲む松本明慶(まつもとみょうけい)さん(80歳)が率いる日本最大規模の仏像制作工房。明慶さんを初代として、息子の松本明観(まつもとみょうかん)さん(58歳)が2代目、孫の松本宗観(まつもとしゅうかん)さん(28歳)が3代目と続き、3代全員が仏師の最高位「大仏師(だいぶっし)」の称号を有しています。そもそも大仏師とは、各宗派の大本山・総本山から高度な技や仏師としての人間性を認められて名乗ることができる称号。広く見渡しても全国で数えられるほどの人数しかいない、稀少かつ格式高い位です。「松本明慶工房」の核となる明慶さん、明観さん、宗観さんはこれまでのいくつかの仕事でその功績が認められ、それぞれ「大仏師」の称号を複数の寺院から許されています。

25歳で史上最年少の「大仏師」となった宗観さんは「中学の卒業アルバムに、師匠(明慶さん)が『達観に至れ』と書き記してくれました。その言葉はいまも心に残っています。達観とは何か……その答えを見つけるのが私に課された命題。現状に甘んじることなく、日々己を磨きながら、その真意を問い続けていきたいと思います」と話します。

右から、2代目・松本明観さん、初代・松本明慶さん、3代目・松本宗観さん。 写真提供=松本明慶工房

“超写実的”な木彫作品から、白檀の大仏まで

リアリティのある印象的な顔立ち、風になびくような衣の柔らかな表現、躍動感に溢れたポーズ……「松本明慶工房」の作品を特徴づけるのは、写実性です。その写実性は仏像以外の作品でも遺憾なく発揮されています。 “超写実彫刻”と呼ばれる作品群はその代表格。蛙やとんぼ、蝉、てんとう虫といった身近な生命を題材に、仏教的な意味が込められた彫刻です。

“無事カエル”や”福カエル”など、縁起のよい生物としても知られるカエルを表現した《青竹にカエル》。 写真提供=松本明慶工房
古より澄んだ声で邪気を払うと伝えられる蝉を表現した《桜に蝉》。 写真提供=松本明慶工房

また、香木の大仏もこちらの工房ならではといえる作品。「父は昔から材木集めに熱心でした。この先500年は足りるのではないかというほどに、膨大な量を保管しています。発注を受けたら思い描く仏像に最も相応しい資材をその中から吟味し、一本の木に命を吹き込んでいきます。なかには伽羅や沈香、白檀といった希少な香木も」。広島県大願寺の不動明王と滋賀県観音正寺の千手観音像は、白檀の大仏として話題を呼びました。

白檀で作られた大仏《不動明王像》。現在は広島県大願寺に納められている。 写真提供=松本明慶工房
白檀で作られた大仏《千手観音像》。現在は滋賀県観音正寺に納められている。 写真提供=松本明慶工房

制作期間15年。約4000人の祈りを未来へつなぐ仏像

阪神・淡路大震災を経験し、東北にも多くの仏像を納めてきた明慶さんにとって、東日本大震災における甚大な被害は、決して他人事ではなかったといいます。未曾有の事態に言葉を失いながらも、「仏師として、いま何ができるのか」と自問した末、犠牲者の鎮魂と被災地復興への祈りを込めて「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」の制作を決意しました。取り掛かったのは震災から間もない2011年5月のこと。いまではその姿形がはっきりとしていますが、もとは直径1メートル、全長4メートルに及ぶ一本の楠の大木。その丸太をV字形に割り、凹に「合掌童子」を、凸に「復興観音菩薩」を構想しながら一刀一刀彫り進めました。

木材として選ばれたのは、直径1メートル、全長4メートルに及ぶ一本の楠。 写真提供=松本明慶工房
明慶さんが《復興観音菩薩》を彫り起こす様子。 写真提供=松本明慶工房

ともに制作にあたった明観さんは「復興とは、新しい命が芽生え、その地に根を張り、やがて次の命へとつながっていくことではないでしょうか」と話します。132体にも及ぶ合掌童子が並ぶ光景はまさに壮観。さらに本作は、松本明慶工房のみならず、約4000人以上が一刀を入れた特別な仏像でもあります。「制作を進めるなかで、被災された方をはじめ、より多くの方々に祈りを託していただきたいという思いが強くなりました。そこで始めたのが『一刀三礼運動』です」と明観さん。一刀三礼とは、”仏師は一刀彫るごとに3度合掌し念じ入るような心構えで造仏に打ち込め”という造仏の教え。それに倣い、未完の像を携えて全国各地を訪れ、その土地で出会った方に一刀を入れていただく取り組みを行いました。

「いつの間にか、15年が経っていました。学生だった宗観も制作に加わり、親子3代の共作となったことを嬉しく思います。思い入れ深い作品となりました」と明観さんは振り返ります。

2026年3月11日、東日本大震災の物故者追悼法要を行う浄土宗大本山・増上寺にて、お披露目が予定されています。幾千もの祈りを込めた「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」は、この先何百年、何千年という時を越えて、静かに、そして力強く、未来へと思いをつないでいきます。

《復興観音菩薩》と《合掌童子像群》。132体の合掌童子が、観音菩薩を囲むように祈りを捧げている。 写真提供=松本明慶工房

「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」が披露される「東日本大震災物故者追悼法要」はこちら

日時:2026年3月11日(水)14時30分~
場所:大本山増上寺の大殿本堂
※一般観覧可能。
tel.03-3432-1431
Google mapで確認
東京都港区芝公園4-7-35

※3月8日(日)〜10日(火)には、大本山増上寺の安国殿にて「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」が先行でお披露目される。こちらも一般観覧可能。

※法要後は、下記の日程で京都の松本明慶佛像彫刻美術館にて公開予定。
日程:4月11日(土)、12日(日)、8月8日(土)、9日(日)

ほかの会場でも見ることができます!「松本明慶工房」巡回展情報

※巡回展でも「復興観音菩薩」と「合掌童子像群」を公開予定。

【大宮】
西武そごう 大宮店(7階 催事場)
会期:2026年3月19日(木)〜3月24日(火)
時間:10時〜19時(最終日16時まで)
入場料:無料

【金沢】
金沢エムザ(8階 催事場)
会期:2026年6月13日(土)〜6月21日(日)
時間:10時〜18時30分(最終日17時まで)
入場料:未定

【銀座】
松屋銀座店(8階 催事場)
会期:2026年7月8日(水)〜7月13日(月)
時間:11時〜20時(7月12日(日)は19時30分まで/最終日17時まで)
入場料:未定

【郡山】
うすい百貨店(10階 催事場)
会期:2026年11月11日(水)〜11月16日(月)
時間:10時〜19時(最終日17時まで)
入場料:未定

編集・文=沼田凜々子(婦人画報編集部)

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