1. トップ
  2. 【市川染五郎】高麗屋三代目、“宿命”のハムレットに挑む

【市川染五郎】高麗屋三代目、“宿命”のハムレットに挑む

  • 2026.3.4
撮影=矢吹健巳(W)

祖父・松本白鸚、父・松本幸四郎も染五郎時代に演じたハムレットに、21歳を迎える当代染五郎さんが挑みます。訪れたのは、古今東西の演劇の記憶が息づく演劇博物館。

英国と日本の伝統が交差する場所で、どんな思いを巡らせたのでしょうか──。

演劇の殿堂でシェイクスピアの息吹と歌舞伎の歴史に触れる

早稲田大学演劇博物館を訪れた染五郎さん。演劇を取り巻く人たちの情熱が息づく廊下で思うことは……。 ジャケット/1,320,000円 シャツ319,000円[参考価格] パンツ/187,000円(すべてヴァレンティノ) 靴/278,300円[参考価格](ヴァレンティノ ガラヴァーニ)[すべてヴァレンティノ] 撮影=矢吹健巳(W)

坪内逍遙の古希と、シェイクスピア全集の翻訳完成の偉業を記念して、英国「フォーチュン座」を模して建てられた演劇博物館。100万点以上の演劇関連資料のコレクションを誇り、2028年に100周年を迎える。発起人は渋沢栄一を代表とする28人。歌舞伎俳優も名を連ねている。

DATA
開館時間/10時~17時(火・金曜~19時)
不定休
Google mapで確認
東京都新宿区西早稲田1-6-1
tel.03-5286-1829

早稲田大学演劇博物館


撮影=矢吹健巳(W)
撮影=矢吹健巳(W)

Totus Mundus Agit Histrionem ──

“全世界は劇場なり”というラテン語が正面舞台に掲げられている演劇博物館。あらゆるジャンルが混ざり合うことから“演劇の万華鏡”とも称される。その光のひとつのように自然に溶け込み、圧倒的な美しさで周りを魅了する染五郎さん。

扉をくぐり、上るたびに軋むクラシックな階段で佇む染五郎さんからは、まさに物語が立ち上がってくるよう。どんなハムレットとして現れるのか、きっと先人たちも楽しみにしているはず。

いちかわそめごろう◯2005年3月27日生まれ。松本幸四郎の長男。祖父は松本白鸚。2007年6月歌舞伎座『俠客春雨傘(きょうかくはるさめがさ)』の高麗屋齋吉で初お目見得。2009年6月歌舞伎座『門出祝寿連獅子(かどんでいおうことぶきれんじし)』の童後に孫獅子の精で、四代目松本金太郎を名乗り初舞台。2018年1・2月歌舞伎座『勧進帳』源義経などで八代目市川染五郎を襲名。

高麗屋のシェイクスピア。世にも珍しい三代のハムレット

文=児玉竜一 [早稲田大学演劇博物館 館長]


『ハムレット』、『マクベス』、『オセロ』、『リア王』を、シェイクスピア四大悲劇と呼ぶ。四役すべてを演じるためには、青年期から円熟期まで、常に第一線にある演技力と集客力が求められる。日本での達成は二代目松本白鸚と、平幹二朗のみ。

13歳でハムレットの朗読を披露した市川染五郎が、満を持して21歳のハムレットに挑む。祖父の二代目白鸚は17歳の時にテレビでハムレットを演じ、当時の最年少記録を作った。父の十代目松本幸四郎は14歳でその最年少記録を破った。

高麗屋といえば、そもそも染五郎の高祖父七代目幸四郎は、日本初の歌劇『露営の夢』に主演し、オセロも演じた。海外の絵葉書収集が趣味で、アメリカのモダンダンスの一座に歌舞伎舞踊を教えた時のフィルムが、ニューヨーク公共図書館に残っている。

息子の八代目幸四郎(初代白鸚=染五郎の曽祖父)もオセロを演じ、アメリカ人俳優に『勧進帳』の弁慶を教えた。そのことが二代目白鸚がブロードウェイで『ラ・マンチャの男』に出演する助けとなった。十代目幸四郎は、歌舞伎に翻案した『ハムレット』※で、ロンドンの舞台に立った。逸話の国際性に目がくらむような一家なのだ。

祖父白鸚は、「役者は、なんでもできる必要はない。しかし、求められれば、なんでも応えられなくてはいけない」と言う。21歳の染五郎のハムレットがどのようなものになるか、まだわからないが、彼の人生の大きな一里塚になることは間違いがない。息を詰めて待つ初日という、芝居好きにはこたえられない瞬間が、もうすぐ訪れる。

※歌舞伎版ハムレット『葉武列土倭錦絵』とは

1886年に仮名垣魯文(かながきろぶん)によって書かれた翻案物を、河竹登志夫監修、織田絋二脚本・演出により現代によみがえらせ、1991年に開催されたロンドンでの「ジャパンフェスティバル」で上演された。その後、東京グローブ座やサンシャイン劇場で再演。幸四郎さんが葉叢丸(はむらまる)と実刈屋姫(みかりやひめ)──ハムレットとオフィーリアを勤めた。二役勤めることは、白鸚さんの案だったそう。

染五郎さんが開いているのは祖父・白鸚さんが30歳のときに演じた『ハムレット』のプログラム。 撮影=矢吹健巳(W)

こだまりゅういち◯1967年兵庫県生まれ。早稲田大学演劇博物館館長、歌舞伎学会会長。専門は歌舞伎研究と評論。編書に『能楽・文楽・歌舞伎 日本の伝統芸能への誘い』(教育芸術社)、共編著に『カブキ・ハンドブック』(新書館)、『映画のなかの古典芸能』(森話社)など。小説の『国宝』では監修を、映画では時代考証を務めた。

舞台『ハムレット』 とは

父である国王の急死、そして母ガートルード(柚香光)の再婚と叔父クローディアス(石黒賢)の王位継承に苦悩するデンマーク王子・ハムレット(市川染五郎)。ある夜、父の亡霊から「死の原因は叔父による毒殺だった」と告げられた彼は、復讐のために狂気を装い、真実を暴こうと試みる。しかし、その決断は恋人オフィーリア(當真あみ)や周囲の人々を巻き込み、予測不能な悲劇の連鎖へと加速していく──。

シェイクスピア不朽の傑作を、世界的な演出家デヴィッド・ルヴォーが現代的な視点で再構築。

作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/松岡和子
演出/デヴィッド・ルヴォー
出演/市川染五郎 當真あみ 石川凌雅 横山賀三 梶原 善 柚香 光 石黒 賢 ほか

【東京】
5月9日(土)~5月30日(土)
会場/日生劇場
チケット/S席 14,000円 A席 9,000円(全席指定)
問い合わせ/松竹 tel.03-5550-1685

【大阪】
6月5日(金)~6月14日(日)
会場/SkyシアターMBS
チケット/S席 14,000円 A席 9,000円(全席指定)
問い合わせ/梅田芸術劇場 tel.06-6377-3800

【愛知】
6月20日(土)~6月21日(日)
会場/名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)
チケット/全席指定 14,000円
問い合わせ/メ~テレ事業 tel.052-331-9966

撮影=矢吹健巳(W) ヘア&メイク=桂川あずさ スタイリング=中西ナオ 協力=早稲田大学演劇博物館 取材・文=大木夏子 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年4月号より

〇選りすぐりの記事を毎週お届け。

元記事で読む
の記事をもっとみる