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「食」でたどる震災の記憶、書籍『ロッコク・キッチン』を携えて福島浜通りへ

  • 2026.2.28

2026年1月18日、特急ひたちから降り立ったのは福島県富岡町の玄関口、富岡駅。バスで目的地までの移動に通った主な道は国道6号線。通称「ロッコク」です。初めてなのになんだか懐かしい場所に来たような気持ちに一瞬なったのは、ノンフィクション作家、川内有緒さんの著書「ロッコク・キッチン」(講談社/2025)を携えていたからかもしれません。

福島浜通り地区の人は何を食べているんだろう?

「ロッコク・キッチン」は、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後の浜通り地区で生きる人々の姿や暮らしに「食」を切り口に迫った作品。原発事故から14年が経ち、「みんな、なに食べて、どう生きてるんだろ?」という素朴な思いをきっかけに、著者の川内さんが数名のスタッフと共に国道六号線(ロッコク)を旅してつづった、ノンフィクションエッセイです(同名のドキュメンタリー映画が全国各地で公開中)。

川内さんたちは、沿道の住民から食を巡るエッセイを募集し、その書き手らを訪ねます。双葉町の避難指示が解除されて最初に町に戻り、母がかつて営業していた店「ペンギン」を復活させた敦子さんの熱々の「カツサンド」、浪江町に移住して働くインド出身の女性スワスティカさんの「チャイ」、昼間は原発作業員として働き、夜は本屋を営む武内さんの「クラムチャウダー」など、いまロッコク沿いに住まうひとたちの暮らしや思いが丁寧に記録されています。

食べることは生きること。食べものを真ん中に食卓を囲んだ時、こころが開いて、その前よりも心の距離が近づくという時が確かにあります。立ち上るあたたかな湯気に、ふと重たい口が開くことも。

ここに集められたのは、川内さんたちが、彼らと一緒に同じものを食べ、飲み、語り合ったからこそ、ポロリと零れ落ちてきた言葉たちなのだと思いました。

登場人物の土地に対する愛着、震災に対する想いの深さや方向もいろいろで、共通しているのは、いまそこで暮らしを編んでいるということ。

「東日本大震災」「被災地」という言葉は、なんだかくくりが大きすぎて。時に、その土地に日々起きていることや、そこに生きる人たちの声を見えなくさせてしまうけれど。

そこには、住まう人の数だけ日々の暮らしの物語があって、想いがあって。向き合っている現実も地域への想いも様々なグラデーションがある。そんな当たり前の、でもすぐに見えなくなってしまう現実があることを、この本はそっと教えてくれます。

私のロッコク・キッチン

私も2026年1月、震災や原発事故の教訓を現地で学ぶ「ホープツーリズムモニターツアー」の参加者として富岡町、大熊町、双葉町、相馬市、南相馬市をめぐり、その中で、ロッコクを北上してきました。ロッコクを行き来して、印象に残った「私のロッコク・キッチン」は、福島県唯一の潟湖(せきこ)がある、風光明媚な相馬市の松川浦で食べた「復活の浜焼き」です。

松川浦は東日本大震災で大きな津波被害を受け、2021年2月、2022年3月にも福島県沖を震源とする震度6強の地震に見舞われ、そのたびに立ち上がってきた場所です。震災前には、松川浦の旅館や飲食店の前で、炭火で焼かれた地元の魚介類「浜焼き」が売られ、人々がその浜焼きを頬張りながら通りをそぞろ歩く姿が日常だったと言います。「復活の浜焼き」は、震災で失われてしまった浜焼きを、地元の旅館の若旦那で構成される「松川浦ガイドの会」が、「あの味、あの文化を後世に残したい」との思いから蘇らせたものです。

福島県沖(常磐沖)で水揚げされる脂の乗った高品質な魚介類は「常磐もの」と呼ばれ、むかしから高い評価を受けてきましたが、震災で操業自粛や出荷制限を強いられ、長く苦難の時間を過ごしてきたと言います。

松川浦と浜焼きについて、たくさんの笑いを交えながら明るくお話し下さった若旦那さん方の大きな笑顔とあたたかい言葉の向こう側に、越えてきたものの大きさがにじみ出ているようで。地に足をつけて、前を向く姿は最高にかっこよくて。たくさんの人の想いと共に、ほかほかと焼きあがった浜焼きは最高においしくて。なんだかとても幸せな味がしました。

同じこの国で同じ時代を生きるものとして

全町民に避難指示が出された富岡町、大熊町、双葉町、浪江町と東京はロッコクでつながっています。

原発。電力。復興。

主語が大きくなっていくと、なんだか自分とは遠い問題のように感じてしまうかもしれません。さらに、15年の年月が経つということで、もうすべて「過去のこと」で、すっかり元通りになったのだと思っている人もいるかもしれません。

日々の暮らしは連続していて止まることはないから、日々を越えていくことにいっぱい、いっぱいという人もいるかもしれません。

でもラジオのチューニングを合わせるように、少しだけ遠くに意識を向けてみると、そこにも自分と同じように、いろいろな想いを抱えながら日々を編む人たちのことが見えてきます。

「ロッコク・キッチン」は、福島から遠く離れた場所にいる人たちのチューニングを、日常の風景を通して、福島浜通りにそっとつないでくれます。

福島浜通りのことが気になりながら、まだ足を運べずにいるという方は、まずは、この本を手に取ってみては。するすると赤い糸が結ばれて、気がついたらいつのまにかロッコクに降り立っている未来がやってくるかもしれません。

そうして、自分の足で歩いて、見て、聞いて、感じて、味わったのなら。それをまた誰かに、自分の言葉で伝えてみて欲しいなと、思います。

ずっと「東日本大震災」や「原発」というのぞき窓からしか見えていなかった、私の中の浜通りに、現地で出会った皆さんと、このエッセイに登場した人とごはんの数の分だけ灯りがともって、そこにある暮らしが立体感を持って見えてきた。

そんな気がしています。ぜひ、あなたの中の浜通りにも光をともしてみませんか。

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映画「ロッコク・キッチンは全国各地で公開中

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<執筆者プロフィル>
水野佳
保健師 / オートキャンプ歴9年
学生時代にはバックパックを担いでフィールドワークや旅に出かけ、バングラデシュでの井戸掘りなども経験。旅やアウトドアでの知識や経験を防災活動に繋げる。産業保健師として企業勤務時に、救命講習やBCPなどの企画・運営にも関わった経験も持つ。

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