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震災後の福島の暮らしを知る構想。川内有緒「バリケードの奥に物語がある」

  • 2026.2.23

ノンフィクション作家の川内有緒さんと映画監督の三好大輔さんが中心となって進めたロッコク・キッチン・プロジェクト。そこから、ドキュメンタリー映画と食やキッチンをめぐるエッセイ集、そして本書『ロッコク・キッチン』が生まれた。

浜通りの人々の暮らしを知る構想(プロジェクト)。出会いと食べものが何かを心に灯す

川内さんは、現代美術家といわき市の実業家の絆とアートプロジェクトを追って『空をゆく巨人』を出版(開高健ノンフィクション賞受賞)。その本の舞台がいわき市ということもあり、福島の南側には数え切れないほど行っていた。もっと北にも行ってみようと思い立ったのは、震災から6年経った2017年。

「大熊町や双葉町を最初に通り過ぎたときの印象は〈時を止めたような町〉。けれど何度も通ううちに、崩れかけたままで家や商店街が放置されている一方、急激に変化していく地域が広がり、混在していく様に驚きました。避難指示が解除されたばかりの地区などを車で走りながら、ここに暮らす人たちは、何を食べて、どう生きているのかを知りたいという気持ちが離れなくなりました」

国道6号線、通称ロッコクは、福島の海岸沿いを貫く幹線道路だ。道路の脇には、震災で打撃を受けた福島第一原子力発電所や、除染作業で出た土を運び込む〈中間貯蔵施設〉がいまもある。だが負の面だけでなく、その地域周辺で、再び、かけがえのない日常を紡いでいる人たちがいることも見えてくる。人や暮らしの強さを信じる川内さんの眼差しを通して、地域の人々の温かさやリアルに触れ、さまざまな思いが湧く。

「エッセイを募集することから始めて、書いてくれた人を訪ねてお話を聞くという形を取りました」

インド人の元留学生スワスティカさん、「おれたちの伝承館」館長の中筋さん、夜だけ開く本屋を営む武内さん…他にも、さまざまな人たちの暮らしがスケッチされている。

「途中でエッセイを書かなかった人ともいろいろ出会うようになり、少し路線変更。その日出会えた偶然、その日お話を聞けたその僥倖をすべて込めて書こうと決めました」

いまも戻りたくても戻れない人もいるし、気軽にやってくる人もいる。

「それがごっちゃになって、新しい生活史が生まれていることを肯定したいんです。バリケードの奥に物語がある。この本をきっかけにいつか福島に行ってもらえたらうれしい」

川内有緒

かわうち・ありお ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。映画監督・三好大輔氏との共同監督作品『ロッコク・キッチン』がミニシアター「ポレポレ東中野」で公開中。全国順次公開。

information

川内有緒『ロッコク・キッチン』

雑誌連載に倍以上の量を加筆、修正した本書はBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。講談社 2090円 本書内に登場するエッセイ本の取扱書店や通販情報は、映画の公式サイトに。

写真・土佐麻理子(川内さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2484号(2026年2月18日発売)より

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