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マツダの赤を「試乗なし」で購入した26歳女性→9年後、走行9万kmになった今でも“絶対に手放さない”ワケ

  • 2026.2.16

 

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出典元:PIXTA(画像はイメージです)

人生の中でも大きな買い物の一つであるクルマ選び。「絶対に失敗したくない」という思いから、スペックや条件を最優先に考える方は多いのではないでしょうか。しかし、理屈を超えた「直感」こそが、時には最高の相棒を引き寄せることもあります。

今回は、条件重視でクルマを探していたある女性が、夕暮れ時のソウルレッドのボディカラーに一目惚れし、試乗なしで即決したエピソードをご紹介します。

納車から9年が経ち、9万kmを超えて部分的な修理という手間が増えても、彼女がマツダ・アクセラを手放さない理由とは何なのでしょうか。「スペックよりも大切なクルマとの付き合い方」を紐解いていきます。

クルマ選びの基準は?

クルマ選びの相談を受ける際、多くの方は燃費や乗車人数といった「条件」を最初に挙げられます。もちろん、長く付き合う上で実用性は無視できませんし、数値を比較検討することは失敗しないための定石といえるでしょう。しかし、数多くのオーナー取材をしていると、時として「理屈抜きの出会い」こそが、その後のカーライフを何倍も豊かにするケースに遭遇することがあります。

私が知るある女性(Aさん・35歳)のエピソードは、まさにその好例かもしれません。

彼女は、9年前の免許を取り立ての頃にクルマを探していた際、一般的なクルマ選びのセオリーからすると、少し大胆すぎる買い方をしました。それは「試乗もせず、見た目だけで即決する」という、かなり冒険的な決断でした。けれど彼女は今もそのクルマに乗り続け、深い愛着を抱いています。なぜ彼女はその一台を選び、そして今も乗り続けているのでしょうか。

条件重視で探していた彼女が、理屈を捨てた「夕暮れの出会い」

当時26歳だった彼女がクルマに求めていたのは、極めて現実的な機能でした。趣味の道具を載せるための荷室の広さと、友人を乗せるための4ドア。この条件さえ満たせば車種にこだわりはなく、あくまで「便利な移動ツール」として探していたそうです。

ある初夏の日曜日、彼女は朝から中古車店やディーラーを何軒も回りました。条件に合うステーションワゴンやハッチバックはいくつも見つかったものの、契約書にサインする気にはなれなかったといいます。展示場に並ぶ実用的なクルマたちを前にしても「便利そうですね」という感想しか湧かず、自分の生活にそれらが加わるイメージがどうしても描けなかったからなのかもしれません。

徒労感だけが募り、今日はもう諦めて帰ろう。そう思いかけた夕暮れ時、ふと目に入った「マツダ」の店舗に吸い寄せられるように立ち寄ったことが、すべての運命を変えました。広い展示場の一角で、西日を浴びて輝く一台のクルマがあったからです。

それはマツダの「ソウルレッドプレミアムメタリック」を纏ったアクセラスポーツでした。店員の話では、それはディーラーのショールームに飾られていた「展示車上がり」の個体で、新車と見紛うほどの極上車だったといいます。夕陽を受けて燃えるようなハイライトと、影になる部分の深く沈み込むような赤。そのコントラストは、今まで見てきたどのクルマとも異質な存在感を放っていました。彼女はその色と佇まいに目を奪われ、吸い込まれるように運転席の革シートへ身を沈めました。

その瞬間、彼女の中で「クルマ選びの条件」という概念が吹き飛んでしまったそうです。エンジンをかけることも、走らせてみることもせず、彼女は店員に向かって「これをください」と告げました。あまりの即決ぶりに店員さえも驚いたそうですが、彼女に迷いはありませんでした。それは商談というよりも、恋に落ちた瞬間のような、抗えない引力による決断だったのでしょう。

乗るほどに深まる愛着。「道具」が「日常の一部」になるまで

いわゆる「衝動買い」に近い形での納車でしたが、その後のカーライフに後悔は訪れませんでした。納車されたアクセラは、彼女の想定通りに実用的な「道具」として活躍を始めます。週末のスーパーでのまとめ買い、駅までの家族の送迎、あるいは近所のカフェへの移動。特別な遠出ばかりではありませんが、アクセラは彼女の毎日の移動を支える、頼もしい存在となっていきました。

単なる移動手段であれば、慣れるにつれて飽きがくることもあるでしょう。しかし彼女の場合、スーパーの駐車場に戻るたびに新鮮な驚きがあったそうです。無数のクルマが並ぶ中で、自分のクルマだけが独特の深みある赤を放っている。その姿を見るたびに「あの夕方の直感は間違いじゃなかった」と、所有する喜びが込み上げてくると語ってくれました。

走行距離計の数字が増えていくことは、クルマの価値が下がることを意味するのが一般的です。けれど彼女にとってその数字は、自分が過ごした「時間の堆積」そのものでした。助手席に置いた買い物袋の重みや、後部座席で笑い合った友人たちの声。そうした日常の些細な記憶が、塗装の艶と同じようにクルマへと染み込んでいく。いつしかアクセラは、単なる道具から「日常の景色の一部」へと昇華していったのです。

スペックは後からついてくる。「良い音」の正体に気づいた夜

理屈よりも感性を優先した彼女の選択が正しかったことを証明する出来事は、意外なタイミングで訪れました。ある雨の夜、迎えの待ち時間に車内でふと普段は聴かないジャンルの音楽を流したときのことです。

車内を満たした音の良さに、彼女は思わず息を呑みました。激しい雨音が屋根を叩いているにもかかわらず、ボーカルの歌声は透き通るようにクリアで、ベースの低音は心地よく身体を震わせます。「私のクルマ、こんなに音が良かったっけ?」と驚き、後になって調べてみて初めて理由が判明しました。

彼女が購入した個体には「BOSEサウンドシステム」が搭載されていたのです。さらに革シートなどの装備から、それが当時の上級グレードであったことも知りました。展示車上がりの車両だったため、メーカーオプションや上級装備がふんだんに盛り込まれていたのでしょう。カタログスペックを熟読して「BOSEがついているから」と選んだのではありません。良いなと思って選んだものが、実は作り手のこだわりが詰まった「本物」だったのです。知識よりも先に体験でその価値を知ったことで、愛車への信頼はより強固なものになりました。

9万kmの壁と「部品待ち」。それでも買い替えない理由

大きなトラブルもなく、愛車との良好な関係が続いた9年間でしたが、機械である以上、経年劣化は避けられません。走行距離が9万kmに近づく頃、サスペンション周りからの微かな異音や、エンジンの振動といった「老い」が顔を出し始めました。

ディーラーで点検を受けた際、メカニックから告げられたのは修理費用のことだけではありません。「一部の部品は取り寄せになり、納期がかかります」という、古いクルマならではの現実でした。修理が終わるまでの間、代車の手配やスケジュールの再調整など、生活のリズムが乱されるストレスが彼女を襲います。

周囲からは「もうすぐ10万kmだし、車検を機に買い替えたら?」という声も聞こえてきます。最新のクルマなら燃費も良く、故障のリスクも低いでしょう。合理的に考えれば、乗り換えが正解であることは彼女自身も理解していました。実際、修理期間中に借りた最新の軽自動車は、小回りが利き、機能満載で非常に便利だったそうです。

それでも、彼女は修理を選びました。

決め手となったのは、最新の代車に乗っているときに感じた、拭いきれない「違和感」でした。確かに移動は快適で、何も不自由はありません。けれど、それはまるで「他人の服」を借りて着ているような、どこか落ち着かない感覚だったといいます。ハンドルを握っていても、そこに自分の居場所がないような寂しさ。その時初めて、彼女は不便さやコストを超えた「愛着」の正体に気づいたのです。

効率だけでは測れない「相棒」との距離感

「実家の母が、古くなった家具を直して使い続けていた気持ちがわかります」

彼女はそう微笑みます。修理から戻ったアクセラの重厚なドア音や、少しへたった革シートの感触は、最新の代車にはない、実家のような安心感だったそうです。

燃費や安全性能などのスペックはもちろん大切です。しかし、9年という歳月を共有した「相棒」との距離感は、数字では測れない唯一無二の価値なのかもしれません。

もしあなたが今、クルマ選びで迷路に迷い込んでいるのなら、一度カタログを閉じてみるのも良いかもしれません。そして彼女のように、理屈を抜きにして「直感」に従ってみる。あの日、夕陽に照らされた赤いクルマを選んだ彼女が、9年後の今も笑顔でハンドルを握っているように、あなたにもかけがえのない出会いが待っているかもしれないのです。



ライター:根岸 昌輝
自動車メーカーおよび自動車サブスク系ITベンチャーで、エンジニアリング、マーケティング、商品導入に携わった経験を持つ。
現在は自動車関連のライターとして活動し、新車、技術解説、モデル比較、業界動向分析など、業界経験に基づいた視点での解説を行っている。


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