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「新幹線から降りずに目的地へ行けたら…」 誰もが願う在来線への“直通運転”が日本で広がらないワケ

  • 2026.3.12
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

新幹線に乗っていて、目的地の駅に到着した際、「このまま在来線に乗り入れてくれたら、乗り換えなくて済むのに」と考えたことはありませんか?

たとえば2022年9月に開業した西九州新幹線の武雄温泉駅では、新幹線と在来線特急を同じホームで乗り換える「対面乗り換え」が導入されています。利便性は確保されているものの、やはり直通の利便性には及びません。

なぜ、日本ではこれほどまでに新幹線と在来線の直通(新在直通)が広がらないのでしょうか。そこには、単なるレールの幅(軌間)の問題だけではない複雑な事情が絡み合っています。

世界では「当たり前」の新在直通

実は、海外に目を向けると高速鉄道と在来線の直通運転は珍しいことではありません。

ヨーロッパ(フランスのTGV、ドイツのICEなど)では高速新線と既存の在来線が同じレール幅(1,435mmの標準軌)のことが多く、都心部では在来線を走ってターミナル駅に乗り入れ、郊外では高速専用線を高速走行する運用が一般的です。

アジアに目を向けても、中国・韓国では、日本よりも後に高速鉄道整備が始まりましたが、高速鉄道も既存の在来線も標準軌で車両の規格もほぼ同じため、広く新在直通が行われて急速にネットワークが拡大しています。

一方、日本の場合は、明治時代に導入された在来線のレール幅(1,067mmの狭軌)と、戦後に誕生した新幹線のレール幅(1,435mmの標準軌)が異なり、車両の大きさも新幹線の方が大きく、規格が全く異なるという根本的なハードルがあるのです。

ミニ新幹線の功罪

日本で新在直通を実現している数少ない例が、山形新幹線と秋田新幹線で、これらは「ミニ新幹線」と呼ばれています。

山形新幹線と秋田新幹線では、在来線のレールの幅を新幹線に合わせて広げる「改軌」という大規模な工事を行うことで新在直通を実現しました。乗り換えなしで東京と直結できるメリットは大きいものの、レール幅を変更する間、長期間列車を止めなければなりません。

また、レール幅は変更されたものの、トンネルや駅のホームなどは在来線規格のままなので、それに合わせるため、車両が通常の新幹線より一回り小さいものを用意しなくてはなりません。

さらに改軌された奥羽本線などの一部区間では、レール幅が変更されたために貨物列車や他の路線へ直通する在来線車両が走れなくなってしまい、鉄道の長所の一つである広域の在来線ネットワークが分断されてしまいました。

期待された「フリーゲージトレイン」の挫折

レールの幅を変えるのが大変なら、「車両側の車輪の幅を変えてしまおう」という発想で開発されたのが「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」です。車両側の車輪の幅を変えようという発想は古くからあり、在来線が標準軌より広い軌間(1,668mmの広軌)のスペインでは他国との直通列車で導入されていて、最近では軌間可変機能を持つ高速鉄道車両まで登場しました。

日本でも開発がすすめられ、当初は長崎新幹線(西九州新幹線)などへの導入が期待されていましたが、技術的な困難から開発は事実上中断されました。

日本でフリーゲージトレインが実現しなかった要因として、車輪の幅を変える複雑な機構を備えるため、台車が非常に重くなってしまい、速度が出せないことや線路設備への影響が大きいことがありました。また、特殊な構造ゆえに、部品の摩耗が激しく、維持費が通常の新幹線の数倍に膨れ上がることが判明したことも要因として挙げられます。

さらに、日本の新幹線は、車両の性能を極限まで揃えて単純化することで、世界でも類を見ない超過密ダイヤを実現しています。重くて遅いフリーゲージトレインをその中に混ぜて走らせることは、運行管理の面からも非常に難易度が高かったのです。

北海道・函館市での検討

こうした中、いま注目を集めているのが北海道です。現在、北海道新幹線は新函館北斗駅止まりですが、在来線を三線軌条(レールを3本敷く方式)に変更して標準軌のレールを追加し、ここから約18km離れた函館駅へ新幹線を直接乗り入れさせる計画が浮上しています。

このプロジェクトは、現在、函館市が独自に調査を行って実現に向けてJR北海道等へ要望・検討を行っている段階で、JR側が正式に事業化を決定したわけではありません。費用対効果の調査や施設の維持管理方法など、解決すべき課題は多く残されています。しかし、実現すれば、かつてのミニ新幹線以来の画期的な「新在直通」となります。

新在直通の夢

「新在直通」は利用者にとっては大きなメリットがありますが、日本では実現には施設の改造、車両開発、そして効率的な運行システムとの整合性という高い壁が存在します。

しかし、人口減少社会において、いかに効率的で利便性の高い公共交通網を維持するかは喫緊の課題です。技術の進歩や自治体の熱意によって、この壁が今後どのように突破されていくのか、引き続き注目が集まります。


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、鉄道業界を15年以上経験。鉄道部門だけでなく、関連事業部門のタクシーやバス、小売りなどを幅広く経験。現在はWebライターとしても活躍し、広報を担当した経験からコラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで幅広く活躍中。


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