1. トップ
  2. レシピ
  3. 「ゴボウ」食べ過ぎが深刻な症状招く?吸収が妨げられる栄養素も…正しい食べ方を専門医に聞く

「ゴボウ」食べ過ぎが深刻な症状招く?吸収が妨げられる栄養素も…正しい食べ方を専門医に聞く

  • 2025.12.30
ゴボウを食べ過ぎた場合に生じるリスクとは?
ゴボウを食べ過ぎた場合に生じるリスクとは?

ゴボウは、食物繊維が豊富で腸の調子を整え、血糖値の上昇を抑えるなど、健康効果が高い食材として知られています。おせち料理や雑煮などに使われることがあり、ゴボウは年末年始に食べる機会が多い野菜と言えます。

一方、日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック(東京都中央区)院長で消化器内科医の石岡充彬さんによると、ゴボウは摂取方法や体質によっては、おなかの張りや便秘の悪化を招くこともあるといいます。「体に良い」と思って続けている習慣が、知らないうちに逆効果になることもあるということです。ゴボウを食生活に正しく取り入れるためのポイントについて、石岡さんに聞きました。

ゴボウの過剰摂取が鉄分や亜鉛の吸収を阻害

Q.そもそも、ゴボウにはどのような栄養素が含まれているのでしょうか。ゴボウを食べるメリットも含めて、教えてください。

石岡さん「秋田出身の私にとって、郷土料理『きりたんぽ鍋』に欠かせないのがゴボウです。この“泥臭さ”とも言える独特の香りと風味が、鶏のだしを引き立て、鍋全体をまとめる縁の下の力持ちとしての役割を果たします。

ゴボウは、100グラム当たり約65キロカロリーと低カロリーながら、栄養の詰まった野菜です。主な特徴は、何といっても『食物繊維の多さ』です。文部科学省の食品成分表によると、100グラム当たり約5.7グラムの食物繊維が含まれ、不溶性食物繊維が約3.4グラム、水溶性食物繊維が約2.3グラムです。

不溶性食物繊維は腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を促し、便のかさを増やすことで排便を助けます。一方、水溶性食物繊維としてイヌリンが多く含まれています。これは腸内でビフィズス菌などの善玉菌の『えさ』となり、腸内環境を整えるプレバイオティクスとして働きます。実際、イヌリンは糖尿病予防や脂質代謝改善にも寄与すると報告されており、腸から全身の代謝を支える成分と言えます。

また、ゴボウにはクロロゲン酸やフェルラ酸といったポリフェノールが含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用が報告されています。これらの成分は腸粘膜を守り、慢性炎症の予防にもつながると考えられています。さらに、カリウムやカルシウムといったミネラルも豊富で、むくみの改善や血圧の安定にも寄与します。つまり、ゴボウは単なる“便通の味方”にとどまらず、『腸内環境の改善』『生活習慣病予防』『抗酸化ケア』を兼ね備えた多機能野菜です。

特に日本の食文化の中では、煮物や鍋、きんぴらなど調理の自由度が高く、毎日少しずつ取り入れやすい点も魅力。胃腸に優しく、持続的に健康を支える『地味だけれど頼れる存在』と言えるでしょう」

Q.ゴボウを食べ過ぎた場合、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。例えば、どのような症状を引き起こすのでしょうか。

石岡さん「私が実際に診療をしていると、便秘やおなかの張りを訴える人の中には、健康のために食物繊維を意識して取っている人が多くいらっしゃいます。ゴボウをはじめとする食物繊維が多い食材は一見良さそうに思えますが、腸の動き方や体質によっては、かえって症状を悪化させることがあります。

ゴボウに多い不溶性食物繊維は、腸を刺激して便通を促す一方、腸内で水分を吸収して膨らみます。腸の動きが活発な人には良い刺激になりますが、もともと腸がゆっくり動く『大腸通過遅延型便秘』の人では、便の量が増え過ぎて逆に詰まりやすくなり、排便困難や腹部膨満感を招くことがあります。

また、ゴボウに含まれるフルクタンという発酵性食物繊維は、腸内でガスを発生しやすい特徴があります。過敏性腸症候群(IBS)の人は、このフルクタンが腸の知覚過敏を刺激し、腹部膨満やガスの発生、下痢、腹痛といった症状を引き起こすことがあります。

さらに、ゴボウは皮ごと調理することが多いため、加熱が不十分だと繊維が硬く、胃で消化しきれずに残ることもあります。これが慢性的な腹部の張りや食後の不快感の原因になることもあります。そのため、胃腸が弱い人や高齢者では、細くささがきにして柔らかく煮るなど、調理法を工夫することが大切です。

消化器内科医の立場から見て、便秘のタイプによっても、食物繊維の取り方は異なります。排便リズムが乱れやすい人は、まず量を半分に減らし、水分摂取を意識してみましょう。『食物繊維=たくさん取れば良い』ではなく、『自分の腸の動きに合ったバランス』が健康維持の鍵です」

Q.ゴボウの1日の摂取目安量について、教えてください。

石岡さん「ゴボウは健康的な食材ですが、摂取量のバランスを保つことが大切です。日本人の1日の食物繊維摂取目標(厚生労働省)は、成人男性21グラム以上、女性18グラム以上です。ゴボウ100グラム当たり約5.7グラムの食物繊維が含まれているため、ゴボウの理想的な摂取量の目安は1日50~100グラム(3分の1~1本程度)です。

臨床的に見ると、便通が良い人や活動的な人は100グラム前後でも問題ありませんが、便秘傾向の人や腹部が張りやすい人は50グラム前後(きんぴら一皿程度)にとどめるのが無難です。

また、摂取する際は『一度に食べる』よりも、『朝昼晩に少しずつ分ける』方が腸への刺激が穏やかです。過去の報告では、ゴボウ茶を2週間摂取した被験者は、排便回数の増加がみられたというデータもあります。

ただし、過剰摂取による副作用として、鉄や亜鉛などの吸収阻害やガスの増加が指摘されており、『多過ぎる繊維』はむしろ腸内環境を乱す可能性もあります。妊娠中の女性は鉄分の必要量が増える時期です。食物繊維は大切ですが、過剰摂取でミネラルの吸収を妨げないよう、バランスの良い食事を心掛けましょう。大切なのは、日常に無理なく取り入れ、腸の声を聞きながら調整すること。週に数回、食事の中に自然に溶け込むくらいの頻度が最も健康的です」

ゴボウと相性が良い食材は?

Q.ゴボウと一緒に組み合わせた方がよい食材、避けた方がよい食材について、それぞれ教えてください。

石岡さん「ゴボウの魅力を引き出すのは『組み合わせ』と『調理法』です。お勧めは、腸への刺激を和らげつつ栄養を補完できる食材との組み合わせです。ゴボウと相性がよい食材、相性が悪い食材はそれぞれ次の通りです」

【相性の良い食材】・鶏肉たんぱく質が腸粘膜を修復し、ゴボウの繊維と一緒に取ると便通改善に効果的です。秋田の「きりたんぽ鍋」が理想的な例です。ゴボウの香りが鶏の脂をほどよく吸い、消化を助ける働きもあります。

・オリーブオイル・ごま油油脂がポリフェノールの吸収を助け、胃腸をコーティングして刺激を和らげます。

・みそや納豆、ヨーグルトなどの発酵食品ゴボウに含まれるイヌリンとの相乗効果で腸内細菌を増やし、整腸作用を高めます。

・海藻類、果物水溶性食物繊維を補うことで、腸の通過がスムーズになります。

【避けたい組み合わせ】・キャベツ、豆類など不溶性食物繊維の多い食材を大量に同時摂取便のかさが増え過ぎ、便秘や腹部膨満を招く恐れがあります。

・揚げ物や脂っこい料理消化に時間がかかり、胃もたれの原因になります。

・唐辛子やニンニクなどの刺激物腸粘膜を刺激しやすく、過敏性腸症候群の人は症状悪化の可能性があります。

【調理と摂取のポイント】ゴボウは細くささがきにし、柔らかく煮るのが基本です。炒める場合も強火でなく中火でじっくり火を通すと、繊維が柔らかく消化しやすくなります。また、食後にさゆやみそ汁などの温かい飲み物を取ることで、腸内の水分保持を助け、繊維の働きが活発になります。

ゴボウは、秋田のきりたんぽ鍋に象徴されるように、食文化の中で理にかなった形で取り入れられてきた食材です。香り高く、土の風味を生かしながら、腸に優しく、だしのうまみを引き立てる、まさに「伝統が科学を先取りしていた」ような存在です。

食物繊維は“腸のサプリメント”のように思われがちですが、取り方を誤ると逆効果になることもあります。腸の声を聞きながら、日常に無理なく取り入れられる食べ方を続けていきましょう。

オトナンサー編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる