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「バレてます」ベッドの下に“チョコの空き袋”…隠れて食べた患者を、看護師があえて叱らなかったワケ

  • 2025.12.17
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

患者さんが「これは絶対バレてない」と思って隠していることほど、なぜかこちらにはすぐ伝わってしまうものです。

ゴミ箱の奥に押し込まれたお菓子の袋や、やたら丁寧すぎる部屋の片付け。

その一つひとつが、まるで「ここ見ないで」と言っているみたいで、むしろ目立ってしまうことも少なくありません。

今回お話しするのは、そんな甘い誘惑を必死に隠していた、ある患者さんのエピソードです。

「完璧に隠したつもり」の空き袋が示すこと

私が受け持っていたAさんは、持病のために厳しい食事制限が必要な方でした。特に血糖値のコントロールが大切で、ご本人も食事にはいつも気を配っていました。

血糖コントロールがとても大切で、食事にはいつも気をつけていました。

「もう甘いものはやめます」「ちゃんと守りますから」そう言ってくれる、まじめでやさしい方です。

ところがある日、Aさんのお部屋に入ったときのこと。ベッドの下から、ひょっこりと見覚えのあるチョコレートの空き袋が顔を出していたのです。

その瞬間、Aさんは私の視線に気づいたのか、サッとロッカーの前に立ちはだかりました。そして急にスイッチが入ったように、いつもより何倍も丁寧に部屋の片付けを始めたのです。

その姿がもう、「絶対に見られたくないものがあります」と全身で語っていました。

きっとAさんの中では、「完璧に隠したつもり」だったのだと思います。しかしこういうときほど、不思議なくらい分かってしまうのが看護師という仕事です。

 バレてしまうのは、空き袋ではなく身体のサイン

私たちは、ゴミ袋の中を探しているわけではありません。もっとごまかしのきかない体のサインを、自然と見ています。

普段の食事内容では説明できない血糖値の上がり方。検査前の日だけ、少しそわそわしている様子。ふと近づいたときに感じる、甘い匂い。お菓子の話になると、急に話題を変えるその視線。

そうした小さな変化が、空き袋よりもずっと正直に、「今日はちょっと食べちゃったな」と教えてくれるのです。

 責めない。バレているけど指摘しない理由

それでも、私たちはAさんを責めませんでした。

「また食べたでしょ?」

そう言えば簡単ですし、事実でもあります。

しかし、それを言ってしまった、Aさんはもっと上手に隠すようになるだけです。そして、自分を責めてますます苦しくなってしまう。

Aさんが隠していたのは、チョコレートだけではありませんでした。「食べたい」という気持ちと、「治さなきゃ」という気持ち。

その間で揺れている、どうしようもない人間らしい葛藤そのものだったのです。

だから私は、こんなふうに声をかけました。

「最近、検査の数字が少しだけ上がってきましたね。何かしんどいこと、ありませんか?」

するとAさんは、少し黙ったあと、小さな声でこう言いました。

「ほんの一口だけなんです。ダメって分かってるのに、我慢できなくて…」

それは悪いことの告白というより、長く1人で抱えてきたしんどさを、そっと差し出してくれた瞬間でした。

「甘いものって、我慢しすぎると余計につらくなりますよね。完全にゼロにしなくても、安全な楽しみ方、一緒に考えてみましょうか」

そう伝えると、Aさんは少しだけ、ほっとした顔をしました。

隠しごとはただの悪さではなく、助けを求めるサイン

患者さんの隠し事は、ただの悪さではありません。

そこには必ず、「つらい」「苦しい」「助けてほしい」というサインが混じっています。

空き袋は、失敗の証拠ではなく、「今のままじゃしんどいんです」という心のSOSなのだと、私は思っています。

患者さんは、「バレないように」と必死になります。でも実は、もう最初から気づいていることも多い。それでもあえて追い詰めないのは、その人の気持ちを守りたいからです。

バレているからこそ、そっと声をかけることができる。責めないからこそ、本音がこぼれる。医療の現場には、そんな筒抜けのやさしさが、今日も静かに流れています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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