1. トップ
  2. 処置を終え戻ろうとすると→患者が顔を見て「必死に笑いをこらして」 その後、患者が放った一言に「心が解きほぐされた」

処置を終え戻ろうとすると→患者が顔を見て「必死に笑いをこらして」 その後、患者が放った一言に「心が解きほぐされた」

  • 2025.11.30
undefined
出典:photoAC(写真はイメージです)

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

医療の現場は常に緊張感に満ちており、特に新人時代は「完璧でいなければ」「ミスは許されない」というプレッシャーの中で、自分を硬く締め付けてしまいがちです。

私自身もそうでした。仕事に追われ、肩に力を入れすぎていた私が、ある日、患者さんから思いきり笑われました。

その恥ずかしい体験こそが、私の看護観に優しさと柔軟さをもたらしてくれたのです。

「先生、顔にガーゼついてますよ」と笑われた瞬間

昼下がりの穏やかな病棟。検温や点滴、処置を終え、カルテの記入のためにナースステーションに戻ろうとしていたときのことです。

隣のベッドの患者さんが、私の顔を見て、必死に笑いをこらえているのが見えました。

「先生、顔にガーゼついてますよ」

驚いて頬に手を当てると、マスクのひもに小さなガーゼがくっついていました。いつついたものなのかもわかりません。

顔から火が出るほど恥ずかしくなり、慌ててガーゼを外す私を見て、患者さんはお腹を抱えて笑い出しました。

「うわ、ほんとですね。恥ずかしい…!」

私も思わずそう言うと、病室全体にクスクスと笑い声が広がり、一瞬にして空気がやわらかくなりました。

完璧を求めすぎていた、心の硬さ

その頃の私は、入職して3年目。技術的には慣れてきたものの、心は常に「失敗してはいけない」「誰にも注意されてはいけない」という硬い鎧をまとっていました。

患者さんと話すときも、言葉を選ぶのに必死で、どこか形式的で距離のある受け答えになっていたと思います。

だからこそ、ガーゼをつけたまま患者さんの前に立っていた自分が情けなく、目を伏せたくなる思いでした。しかし、その笑い声に包まれながら、ふと気づいたことがあったのです。

完璧であろうと身構えている私よりも、今の「人間らしい、うっかりした私」の方が、患者さんにはずっと親しみを感じてもらえているのかもしれない、と。

「看護師さんも人間なんだねぇ」

笑いながらそう言ってくださった他の患者さんの言葉が、私の凝り固まった胸を少しだけ解きほぐしてくれました。

「ゆるみ」が信頼の空気を作る

その日を境に、私は患者さんと接するときに「きちんとしなければ」という考えを少し手放し、「ちゃんと向き合おう」と意識を切り替えました。

患者さんが冗談を言えば、素直に笑って返す。

うっかりミスをすれば、「すみません」と素直に伝える。

そんな小さなゆるみや、人間的な素直さが、少しずつ病室に温かい信頼の空気を生んでいきました。

あの時笑ってくれた患者さんが退院の日を迎えたとき

「先生の顔見て笑ってたら、なんか気持ちが楽になったよ」と言ってくださいました。

その言葉は、私の中でずっと大切な宝物になっています。看護の中では、治療や管理のような言葉が多く並びますが、ただ笑い合うだけでも、患者さんの心を確かに支える力があるのだと痛感しました。

笑いは、人としての温度を取り戻す瞬間

あの「ガーゼ事件」を通して、私が学んだのは、笑いは弱さを見せることでもありますが、その弱さがあるからこそ、人は人を信頼できるということです。

看護の現場では、ミスを防ぐための緊張感は絶対に必要です。

しかし緊張だけでは、心も体も息苦しくなってしまいます。

患者さんと交わす温かい笑いは、私たちがプロであると同時に、人としての温度を取り戻すための大切な瞬間なのだと思います。

今でも、処置を終えたあとにマスクの端をそっと指で触ります。

「ガーゼは、ついていないよね」

そのたびに、あの日の笑い声を思い出します。患者さんに笑われた日、私は少しだけ完璧という名の鎧を手放しました。

そしてその瞬間から、やっと「その人に寄り添う看護師」として、一歩踏み出せたような気がしています。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】