1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「クマの命を無駄にしない」自宅近くにクマが出た札幌市民が始めた、命をつなぐ“ヒグマレザープロジェクト”

「クマの命を無駄にしない」自宅近くにクマが出た札幌市民が始めた、命をつなぐ“ヒグマレザープロジェクト”

  • 2025.10.16

全国各地で、クマの出没や被害が相次いでいます。
それに伴って、人の暮らしや命を守るため、多くのクマが駆除されています。

「駆除された命を無駄にしない、循環型の仕組みを作りたい」。
北海道・札幌で、ヒグマの革を有効活用するための、クラウドファンディングが始まっています。

連載「クマさん、ここまでよ」

※冒頭の画像は9月19日、防犯カメラで撮影されたクマ(北海道松前町)(画像提供:北海道警察)

失われた命を、価値あるかたちに

Sitakke

札幌市中央区円山西町で、皮革製品の製造や販売を行っている「KEETS」。
店内には、ペンケースや名刺入れ、バッグやランドセルなど、多彩な革製品が並びます。

Sitakke

主に牛革を使っていますが、エゾシカの革を使った製品づくりにも取り組んできました。
「やむを得ず捕獲・駆除された野生鳥獣の尊い命を、一頭でも、一部でも無駄にしたくない」という思いからです。

Sitakke
後藤晃さん

代表の後藤晃さんは、「革って副産物なんです。革をとるために命をとっているのではなくて、人は肉を食べるために動物の命をいただいていますよね。そうしたら、皮が余ってしまう。この世に命のあった生きものですから、捨てるくらいなら、有効活用したい。やむを得ず駆除されたエゾシカやヒグマの命も、無駄にしたくない」と話します。## 自宅のすぐ近くにクマ

Sitakke
KEETSアトリエショップ

2022年12月31日、大みそか。
KEETSのある円山西町では、児童相談所などの敷地で、クマが目撃されました。その後クマは敷地の中を歩き、柵を越えて住宅地のほうへ移動したと見られています。

Sitakke
2022年12月31日、クマが目撃された現場。KEETSのすぐ横の道

後藤さんはそのとき、日課のランニングに出かけようとしていました。
いつものコースに入ろうとしたそのとき、近くのマンションから、住民が窓を開けて、「クマいる!」「そっち行ったらダメ!」と後藤さんに叫んだといいます。

少しタイミングが違えば、クマと出会ってしまっていたかもしれない…。
クマとの距離が近づきすぎていることを痛感したできごとでした。

Sitakke
2022年12月31日、雪の上に残されたクマの足跡

自分だからできること

円山西町ではその後、町内会が主体的に動き、クマについての勉強会や、対策を話し合うワークショップを開催してきました。

実際に、きょう2025年10月16日、円山西町ではクマの目撃がありました。
ですがその前から、町内会は最近の札幌市内の出没状況を見て、「自分たちのまちにも、ひとごとではない」と考え、注意を呼びかけたり、登校の見守り活動をしたりしていました。
さらに、それぞれがスマートフォンから地域の情報を得られる「デジタル掲示板」への参加を呼びかけ、出没時にすぐに情報共有できる体制づくりにも取り組んできました。

いざ地域内で目撃されたきょう、住民自らが自治体のお知らせよりも早く出没を知らせ、「家から出ないで」と声をかけ合いました。
日ごろから意識と備えをしていたからこそ、いざというときに命を守る動きができるということを実感する一日でした。

Sitakke

札幌市は、クマと人が住む場所の境界線を作り、「すみ分け」をすることを目指しています。
多くのクマは人を恐れ、避けて暮らしていますが、一部のクマは、さまざまな要因で住宅地に繰り返し現れたり、人に危害を加えたりするようになります。
そうした「問題個体」は、やむを得ず駆除することがあります。

後藤さんも住民のひとりとして、町内会の勉強会に参加し、知識や考えを深めてきました。そして、クマが身近な円山西町に住み、革製品を扱う仕事をしている、自分だからできることを考えました。

「駆除された命を、暮らしに息づく革製品へと変えたい」。
「その小さな循環を、次の命につなげたい」。

そう考え、ヒグマの革製品を作るためのクラウドファンディングに挑戦しています。
集まった資金は、製品の製造のほか、町内会のクマ対策にも充てるといいます。

「ひとごとじゃない問題で、本当に身近にヒグマがいた。このまちに住んでいて、こういう仕事をしている自分が、やらない手はない」

ヒグマの革ならではの魅力

Sitakke

後藤さんは、まず知人に紹介してもらい、道内のハンターから1頭のクマの革を仕入れました。

Sitakke

光沢があり、高級感があります。
後藤さんは、「表面の凹凸の深さがクマならでは。野性味が魅力」だと話します。

Sitakke

左がヒグマの革、右がエゾシカの革を使ったブックカバーです。
見た目からも凹凸の違い、光沢の違いがわかります。
触ってみると、エゾシカの革はやわらかくなめらかで、ヒグマの革はしっかりとした質感で、力強さを感じました。

Sitakke
KEETSプレスリリースより

クラウドファンディングに向けて作ったのは、「ヒグマの爪型チャーム」と「ループキーホルダー」。1000円台から応援購入できます。

ヒグマの革製品を作る壁

Sitakke

魅力のあるヒグマの革ですが、仕入れに壁があると、後藤さんは話します。

「革をなめして加工する大規模な工場が、北海道内にはないんです。エゾシカの革についても、本来は北海道の資源なのに、東京の会社を経由するので高くなってしまうし、仕入れたときにはどこで駆除された命なのかがわからない状態で来てしまう」

後藤さんは、エゾシカやヒグマの革を使った製品を作ることだけでなく、「トレーサビリティ」、その命の背景がわかる状態で製品を流通する仕組みを作ることを目標にしています。

どの地域で生きた、どんな個体だったのか。
性別や年齢まで、「命の背景を曖昧にせず、きちんと伝えることが、次の命を活かすことにつながる」と考えているといいます。

Sitakke

そのためには、北海道内のハンターから直接仕入れる体制が必要だといいます。どこで駆除された個体なのかをわかった上で、冷凍して個別に東京のなめし会社に郵送し、また同じ革を仕入れる仕組みです。

ただ、ハンターが駆除した直後に、きれいに解体して、皮が劣化しないように手間をかける必要があります。それだけのコストをかけて協力してくれるハンターを見つけることが大きな課題です。
ヒグマの革製品の価値が認められ、需要を高めることで、協力してくれるハンターにも収益を配分し、負担が少ない形を目指したいといいます。

簡単ではない道のりだからこそ、少しずつでも応援を必要としているのです。

「北海道の大事な資源が、ビジネスにだけされるのではなく、少しずつ仕組みを変えることで、命をつなぐ取り組みを広げていきたい」

Sitakke

駆除された命を、無駄にしないために。
そして、次の出没や被害を防ぐための、地域のクマ対策の資金に。

地域の一員として「自分だからできること」に挑戦する後藤さんの思いには、多くの反響があり、クラウドファンディングスタート初日から、第1段階の目標の200%を達成しました。

ただ、現在仕入れているクマの革は、応援購入した人への発送分でほとんど使い切る想定で、次の仕入れや製造のために、現在は100万円を目標にして、呼びかけを続けています。

クラウドファンディングは、10月30日まで行われます。
詳細はKEETSホームページからご確認ください。

後藤さんがクラウドファンディングを始めるまでの思いは、前編の記事でくわしくお伝えしています。

KEETS

Sitakke

住所:北海道札幌市中央区円山西町1丁目3-7
営業時間:午前10時~午後5時
定休日:水曜 ※不定休あり

連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:Sitakke編集部IKU
撮影:Haru(KEETS店内の写真)

※掲載の内容は取材時(2022年12月~2025年9月)の情報に基づきます。

元記事で読む
の記事をもっとみる