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アラン・デュカス、その尽きない情熱の源にあるもの【FAB FIVE】

  • 2025.8.8
『アラン・デュカス、美食と情熱の人生』の口絵に使用された一枚。左からフレデリック・ロメール、ジャン = ピエール・ルー、アラン・デュカス、シルヴァン・ポルテ。Photo_ Courtesy of Alain Ducasse
『アラン・デュカス、美食と情熱の人生』の口絵に使用された一枚。左からフレデリック・ロメール、ジャン = ピエール・ルー、アラン・デュカス、シルヴァン・ポルテ。Photo: Courtesy of Alain Ducasse

アラン・デュカスの近著『Une vie de goûts etde passions』の日本語訳『アラン・デュカス、美食と情熱の人生』(田中裕子監訳 西山明子訳/早川書房)が7月、発刊された。料理人としてのルーツ、キャリアの中で経験したさまざまな出来事、ジョエル・ロブションをはじめとする料理人との関わり、日本への想いなど、かなり包括的な内容だ。7月に来日したデュカスに話を聞いた。

このタイミングで本書を記すに至った経緯を尋ねると「これまでの経験を踏まえ、哲学を共有し、これから何をするかを伝えたかった」との答えが。成し遂げた偉業を並べれば枚挙にいとまがないシェフであることは今さら説明するまでもないが、言葉の通り、読後の意識は「未来」に向かう。

特に印象に残るのは、若い世代の料理人についての言及だ。「たくさんの若い才能が、経験を豊かに積み重ね、ふさわしい活躍の舞台に立てるよう導くことが、私たち世代の責務だと考えます」

1999年、パリ郊外で設立した教育機関を、2020年、イル・ド・フランス地域のムードンに「エコール・デュカス」として刷新している。「70を超える国から志にあふれたあらゆる人々が集まり、年間約750人が巣立っていく。今の時代、教育者もまた進化、成長を続けなくてはなりません」

教育に加え、料理人や生産者らが業種を越えて交流できる「コレージュ・キュリネール・ド・フランス」の設立に尽力したことでも知られる。さらに最終章では、驚くべき新たな挑戦についても記されている。フランス料理という文化を磨き上げ、次代へ託す。その強い意志が伝わってくる。

ザ・リッツカールトン東京にて開催されたコレージュ・キュリネール・デュ・ジャポン主催のガラディナーへの出席も兼ねて、著書の刊行時期に重なる7月に来日したアラン・デュカス。Photo_ Pierre Monetta
ザ・リッツカールトン東京にて開催されたコレージュ・キュリネール・デュ・ジャポン主催のガラディナーへの出席も兼ねて、著書の刊行時期に重なる7月に来日したアラン・デュカス。Photo: Pierre Monetta

1 新著はさまざまな挑戦を続ける人にとって大事な本になると思います。ご自身のバイブルは?

19世紀の美食家、ルシアン・タンドレが記した『La table au pays de Brillat-Savarin』(未訳)でしょうか。本業は弁護士で稀代のエピキュリアン、今で言うところの“フーディー”であったルシアンが、食の哲学やいくつかのレシピはもちろん、食卓での会話の重要性、食の社会性にまで言及した一冊。「食べることは、エスプリに栄養を与えること」という言葉を胸に刻んでいます。

2 著書でも言及される「マニュファクチュール」(手作業でものを加工する)が体現されていると感じるプロダクトは?

「半世紀前のグッチのバッグの精緻さは本当に素晴らしい」とデュカス氏。写真は1983年、パリにオープンしたグッチの店舗。Photo_ Laurent MAOUS / Gamma-Rapho via Getty Images
「半世紀前のグッチのバッグの精緻さは本当に素晴らしい」とデュカス氏。写真は1983年、パリにオープンしたグッチの店舗。Photo: Laurent MAOUS / Gamma-Rapho via Getty Images

女性のハンドバッグの美しさに魅せられ、昔のグッチシャネルエルメスなど100点以上をコレクションしています。時代やメゾン独自の特徴があり、素材の組み合わせなど各々に見るべき点がある。資料としての価値もありそうなので、いつかお披露目できたらいいですね。

3 「料理人でなければ建築家になりたかった」そうですね。今、心惹かれる建築は?

デュカス氏が尊敬する建築家の一人に挙げたジャン・プルーヴェ設計による《メゾントロピカル》。ロンドンのテートモダンにて展示された。Photo_ Carlos Jasso / Bloomberg via Getty Images
デュカス氏が尊敬する建築家の一人に挙げたジャン・プルーヴェ設計による《メゾントロピカル》。ロンドンのテートモダンにて展示された。Photo: Carlos Jasso / Bloomberg via Getty Images

建築と料理には共通点があります。土台となる構造とそれを裏づける思想があり、職人の技術と表現があって完成するわけですから。現在、1930年代にジャン・プルーヴェらによってパリ郊外に建てられた歴史的建造物、メゾン・デュ・プープルを受け継ぎ、これまでにない食の拠点を作っているところです。

4 世界中を旅する生活を続けておられますが、どこに行く際も必ず持ち歩くものは?

ヴァンドーム広場近くに店を構えるジュエラー、ロレンツ・バウマーのキーホルダーです。貝殻をモチーフにしたホワイトゴールド製で、彼が店を開いた際に頼んで作ってもらったものです。見た目も美しく、触れていると心が落ち着きます。

5 来日された際、必ず足を運ぶ場所は?

京都の社寺で、先日も妙心寺春光院という小さな寺を訪れたばかり。深い静寂に包まれた神聖な空間で、木材の表情から畳縁の模様にまで心を奪われました。ヒノキの香りと混じり合う、湿気を含んだイグサの香りも素晴らしかったです。

Editor: Yaka Matsumoto Text: Kei Sasaki

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