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「自分の文化に敬意を表したかった」──パレスチナ人デザイナーがふたつのブライダルルックに込めた故郷への想い

  • 2025.6.18

ふたつのブライダルルックに込めた、故郷パレスチナを想う気持ち

イギリスに拠点を置くパレスチナ人デザイナーのリーナ・ソベイが夫のトムと婚約したとき、彼女はマンチェスターで開く「ニッカ(宗教儀式)」でふたつのルックを着たいと考えた。ソベイは自身のアトリエからこう話す。「自分のルーツに敬意を表し、伝統的なドレスを選びたいと思いました。それから、より現代的なテイストを加えたルックも着たいと思ったんです」

ヨルダンから取り寄せた民族衣装のトーブとお揃いのヴェールを挙式で着用することを決めた後、ソベイはレセプションのためのセカンドルックに取りかかった。着たいと思うものを絞り込むのはそう簡単ではなかったそうで、最終的に行き着いたのは、自身のレーベルのシグネチャーであるコルセットとそれに合わせたティアードスカートだった。「私にとって大切だったのは、自分のブランドと私の好きなスタイルを反映させることでした。ヴィクトリア朝時代の歴史的な要素をたくさん取り入れた、ガーリーでセクシーなスタイルです」と彼女は説明する。「自分らしさも、自分の文化や伝統も、すべてを組み合わせるためにベストな方法を探しました」

コルセットには「タトリーズ」と呼ばれるパレスチナの伝統的なクロスステッチがあしらわれている。
コルセットには「タトリーズ」と呼ばれるパレスチナの伝統的なクロスステッチがあしらわれている。

デザイナーのこだわりのひとつは、「タトリーズ」と呼ばれるパレスチナの伝統的なクロスステッチをデザインに取り入れることだった。「このクロスステッチは、私たちの文化の一部として本当に長い間受け継がれてきたものなのです」と彼女は説明する。「パレスチナの昔の服を見ると、必ずタトリーズが描かれています。そして、それぞれのモチーフに意味があります。パレスチナのクロスステッチを見れば、その女性がどこを旅してきたのか、どこでそのクロスステッチをあしらってもらったのか、どこで育ったのかといったことを知ることができるんです。物語があるんですよね」

パレスチナ・イスラエル戦争が開戦したのは2023年10月7日。しかしそのずっと前から続くパレスチナ人の強制移住を

幼い頃にガザからマンチェスターに移り住んだソベイにとって、この工芸を守ることは極めて重要なこと。2023年10月7日より前から、今もなお深刻な状況下に置かれている故郷パレスチナを想えば、なおさらだ。「(タトリーズは)多くの女性がお金を稼ぐために作っていたものです」と彼女は言う。「ナクバ(1948年のイスラエル建国時に約75万人にも及ぶパレスチナ人が難民化させられた出来事)が起こったとき、織物や糸を輸入するのが困難だったため、多くの人々にとって大きな収入源だったんです」

ヨルダンから取り寄せた伝統的な刺繍のトーブとお揃いのヴェールを合わせたルック。夫のトムはケフィエを纏った。
ヨルダンから取り寄せた伝統的な刺繍のトーブとお揃いのヴェールを合わせたルック。夫のトムはケフィエを纏った。

さまざまな色やモチーフを試しているうちに、ソベイは純白のルックを作りたくないと感じたそうで、代わりに赤い糸を使って刺繍を施すことにした。「赤が目についたんです。伝統的にタトリーズの多くは赤色なので、完璧な選択でした」とソベイ。デザインの中心に据えた生命の樹のモチーフについては、「精神的な強さや安定性を表すもので、パレスチナの風景を形作る木々の不屈の精神を反映しています」と説明する。また、彼女にはガザに残っている家族がいることを考えると、このモチーフは「希望の象徴」としてさらに深い意味を持つ。「本当に困難なときが続いています。この不安な気持ちと悲しみを表現する言葉が見つかりません。言葉にするのが本当に難しいです」

式の日、トムはパレスチナの伝統的なスカーフであるケフィエを羽織った。故郷が危機的な状況にあるなかで、トムとの結婚は希望を与えてくれたとソベイは言う。「挙式日の写真の一枚一枚に、私たちの精神力と抵抗力がファッションを通じて表現されてます。私たちにとって最も重要だったのは、自分の文化をたたえることだったのです」

Text: Emily Chan Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUE.CO.UK

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