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【田中麗奈さんインタビュー】「いまも、自分のトリセツを作るためのデータを集めている最中です」

  • 2025.5.14

映画『ソワレ』や『茶飲友達』の外山文治監督による短編集『東京予報―映画監督外山文治短編作品集』が公開されます。そのなかの一篇、『名前、呼んでほしい』に田中麗奈さんが出演。不倫を解消しようと心に決めた女性が、彼と最後の1日を過ごす大人のラブストーリー。ヒロインの沙穂を演じた田中さんに映画のこと、俳優業への思いを聞きました。

曖昧な空気、時間の流れに想像を膨らませて

夕方前の曖昧な時間。ベッドの上で彼に背を向けてシーツにくるまり、目線を宙に浮かせる沙穂。家庭を持つ彼女は、同じく家庭を持つ涼太と恋人関係にあった。ある日、沙穂は「1日だけ、夫婦になる? それが終わったらもう会わない」と提案。ふたりは遠い街で、夫婦として過ごす――。

映画『名前、呼んでほしい』のオファーを受けた田中麗奈さんは、外山文治監督の『茶飲友達』を、公開当時に劇場で観ていたこともあって、「まさかお話をいただけるなんて!」と驚いたそう。

「そこから映画『ソワレ』や他の短編も拝見して、女性をキレイに撮ってくださる監督という印象がありました。今回の脚本を読ませていただいて、余白があって、言葉がなくてもふたりの間に通う時間や想い、テレパシーのように通じ合う感覚をいろいろと想像させられました。大人向けですが、その色っぽさに品がある、質感が美しい脚本だなと」

映画の冒頭、沙穂を演じる田中さんの曖昧な表情から、彼女が浮ついた恋に酔った女性でも、幸せな主婦でもなさそうで。これからどんな物語が始まるのか、強烈に惹かれます。

「あのシーン、脚本には‟スーパーの袋から出た長ネギを見ている”と書かれていて。男性とベッドにいながらその袋を見ているという時点で、きっといろいろなことを考えているんだろうなって。もしかしたら夕飯の献立のこと? 家に帰って俊敏に動けるよう、あれやってこれやってと段取りを考えてる?……とか」

短い撮影期間で作り上げた濃密な作品

不倫相手の涼太を演じたのは遠藤雄弥さん。撮影中は「ふたりで映画の話ばかりをしていました」と田中さん。そうして脚本に書かれていない部分を想像し、監督やスタッフを交えてディスカッションしながら作品作りは進みました。

「ふたりはどれくらいの頻度で会っているのか? このシーンは何時くらいの出来事? と想像していきました。スーパーの袋を持っていたのは彼に早く会いたいから? できるだけ長い時間一緒にいるために、夕飯の買い物を先に済ませた? もしかしたら、自分が主婦であることを忘れないためにスーパーの袋をホテルに持ってきたのかも……とも思えたり。わざと遠くのスーパーに行ったのかもしれないし、いかようにも想像できます。とはいえ、正解を決めなくていい気もします」

「沙穂佐穂は‟こういう人”と言い表しにくいくらい普通の人」と田中さん。別れを決意した彼女は、最後に「名前を呼んでほしい」と涼太にお願いします。

「‟××ちゃんのお母さん”とか‟〇〇さんの奥さん”と呼ばれる日々のなか、自分というものの存在が少し薄れてしまう。そんな風に自分を見失いそうなときに涼太と出会ったのかも。自分の名前、私という個人で人と出会うことが、彼女にはなかなかなかったのかな?って、どれも想像でしかありませんけど……。私の場合はお仕事で、‟田中麗奈”として接してくれる方たちと長い付き合いがあって、家庭とはまた違う世界があります。自分にとってはそのバランスがいいし、救われているところがある気がします」

夫がいて、まだ幼い娘がいて。どうにもならない想いを抱えながら主婦として日常を積み重ねる姿と、涼太の前ではかわいらしさをまといながら心の揺れと孤独を抱える。あやういバランスで生きる沙穂を、田中さんは繊細に演じます。

「撮影期間は短かったのですが、とても不思議な時間でした。ずっと集中していたので、夢のように終わってしまった感じです。自分だけど、自分ではないような日々。ただただ、外山作品の一部になれたことが嬉しかったです」

26分の短編ながら、濃密な時間の流れを感じさせる映画が完成しました。

「撮影前に外山監督から、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』のお話が出て。完成した映画を観たときに、ちょっとそのことを思い出しました。大人の映画、ですよね。しかも短編で、ふたりの関係が佳境を迎えたところから切り取っている。ひとつの作品として、とても色濃いものができあがったと思います」

これまでの世代とは違う50代を生きなければいけないのかも

溌剌としていてフレッシュ、何歳になってもそんな空気をまとう田中さん。デビュー27年と聞くと驚いてしまいます。

「もう少しで30年なんてもう……軽く人に言えなくなっちゃいました。‟何年か忘れちゃったな~”なんて、ごまかし始めました」と笑う田中さん。いま、演じることにどのような想いを抱くのでしょうか。

「たぶんもっとライトに考えた方がいいんじゃないかと、最近なんとなく思うんです。私は自分のなかに、言葉にできない繊細なものがうごめいている、そういう感覚があるタイプで。それが活きる役も、邪魔になる役もあるはずだから、自分をどう調整してくかだなって。得意不得意を分析したりして、自分のトリセツを作るためのデータを集めている最中なんだと思います。デビュー30年が見えてきたいまもそう。しかもその中身はアップデートしていかなきゃいけない」

そうした試行錯誤を続けるにはきっと、健やかな心身が不可欠であるはず。食事、運動、趣味やインプットの時間……。なかでも大事なものはと尋ねると、「運動でしょうか」と田中さん。

「歩くとか走るとか、有酸素運動はやっぱりいいですね。脳に酸素を入れる感じが。いちばん面倒ですけどね。一時は漢方薬を取り入れたりしましたが、今はもう水でしょう!という感じ。私のなかで究極の水ブームです(笑)。午前中に1.5リットルぐらい飲めたらいいんですけど、飲めるだけ飲む。するとデトックス効果なのか、たくさん飲んだ次の日は肌が柔らかくなり、トーンも明るくなる気がします。あと自転車もよく乗りますよ。そうして夜は、カッ!と寝ると(笑)」

そんな風に健やかな田中さんですが、視野に入っているはずの50代をどのように迎えようと思っているのでしょうか?

「今はとにかく時代が動いているのを感じますし、十年後の社会も想像できません。生活や子育て、仕事のためにも、広く社会を見なければいけない時代だなと。これまでの世代とは違う50代を生きなければいけないのかもしれません」

これまでの経験を活かしたり、年齢を重ねて想像する力が増したり。すべてが滋養となり得るのが、俳優という仕事でもあります。

「作品ごとに撮影場所も撮影の中身も異なり、働く時間も曜日も不定期な職業で。予測できないところがたくさんあります。そういう生活をずっとしてきたので、この先もおそらく同じように日々を過ごしていくのだろうと思うんです。仕事とプライベートと、そのバランスの取り方もそのときどきで違います。家族に理解してもらいながら、これからもなんとかやっていけたらいいなと思っています」

映画『名前、呼んでほしい』 「東京予報―映画監督外山文治短編作品集―」収録

カーディガン¥31,900、キャミソール ¥36,300、スカート¥29,700/すべてミューラ オブヨシオクボ(︎03-3794-4037)、ネックレス(上)¥45,100/マッソーズ アンド マッソーズ、ネックレス(下)¥28,600/ともにシャノンボンド(ギャルリー・ヴィー 丸の内店︎03-5224-8677)、リング¥20,900、¥33,000/CAKI、3連リング¥19,000/enn.(すべてロードス03-6416-1995 )

撮影/鈴木千佳 スタイリスト/岩田麻希 ヘアメイク/八鍬麻紀 取材・文/浅見祥子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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