1. トップ
  2. 次世代スターがご案内! 歌舞伎のとびら【vol.11 尾上右近さん】

次世代スターがご案内! 歌舞伎のとびら【vol.11 尾上右近さん】

  • 2026.10.31
©松竹



江戸時代に起きた「赤穂事件」を題材とする、歌舞伎三大名作のひとつ『仮名手本忠臣蔵』。270年以上にわたり受け継がれてきた壮大な人間ドラマの魅力を、尾上右近さんに伺いました。

実在の人物、お役、先人、そして歌舞伎に捧げる気持ち

「歌舞伎は伝統とエンタメを併せもった演劇ですが、なかでもこれ以上に緩急のピリッとした作品はないと思います」と右近さんが語るように、仇討ちを軸に、その陰で翻弄される人々の運命が濃密に描かれる『仮名手本忠臣蔵』。

「武士の物語でありながら、武士からにじみ出る人間味が際立つ作品。だからこそ、江戸の庶民の胸に響いたのだと思いますし、いつの時代も歌舞伎は観客の心に寄り添う演劇なのだと感じます」

幕開きの「大序」はとても厳か。

「実在した人物を演じる際、鎮魂の精神をもって勤めますが、その最たるものです。モデルとなった人物だけでなく、お役を演じてきた先人、作品自体、そして歌舞伎に捧げる気持ち。

開演30分前には出演俳優が自分の位置につき、静かに待機しているんです。己と向き合い、日常と離れていく大切な時間。ひとりひとりの気持ちが集って大きな風船のように膨らんでいき、義太夫の声が風船を刺す針となり、その空気がゆっくりと劇場に広がっていく感覚です」

曽祖父六代目菊五郎の写真集を見て憧れていたという塩冶判官。「高貴でありながら、人間味溢れる判官様。曽祖父への憧れを実感する写真集が、演じる資料に変わっていく不思議な気持ちがあります」 ©松竹

歌舞伎でしか味わえない瞬間を届けたい

11月の歌舞伎座で、塩冶判官とおかるに挑む右近さん。

「塩冶判官といえば(七代目尾上)梅幸のおじさん。これは歌舞伎界の共通認識で、僕もそう感じています。それぐらいお役と役者が同一化しています。判官様はおおらかでふくよかで、誠実な殿様。

ただ、一国の長としての自覚がパワハラによって崩れてしまう。このとき判官様は33歳なんですよね。同世代なので、責任感の中に未熟さがあるのも痛いほどわかります」

「四段目」の切腹は、歌舞伎でも屈指の緊迫した場面。

「客席からは見えない舞台袖まで、裃姿の家臣たちが並び主君の最期を見守っているんです。これぞ、歌舞伎! お客さまに歌舞伎でしか味わえない瞬間をたくさん届けられたらと思っています」

早野勘平は自主公演も含め2度演じていますが、おかるは初役。

「のほほんとした女性ですが、勘平のため身を売る強さもある。勘平という武士がひとりの男として死んでいく幸せを感じられたのは、おかるがいたからです。勘平を演じた際、『お国のため』という言葉の奥で、本心をつづった手紙には『お母さんのため』と遺していた特攻隊員に思いをはせていました。勘平が最期に幸せだったと思えるおかるになりたいです」

女方の大役おかる。「主君の大事に居合わせず、死を覚悟する勘平を説得し、自分の故郷に連れて帰る度胸と母性を備えた女性だと思います」 ©松竹


清元の家に生まれた右近さん。

「『道行旅路の花聟』では、いつか栄寿太夫としても出演してみたいですね。華やかで、清元の魅力も感じられる舞踊です。歌舞伎は人に例えるとスーパーマンだと思うんです。真面目なことやコメディ、アクションや恋愛、なんでもできる。皆さんに、歌舞伎の色々な面を楽しんでいただきたいです!」

案内人こぼれ話

地歌舞伎の熱気と花火夏の終わりの幸せな時間

9月、岐阜・東白川村の地歌舞伎に出演し、その熱気に「すごく感動しました」と話す右近さん。「終演後は花火! 夏の終わりに駆け込みで夏や自然を感じる思い出を作れて嬉しかったです。かけがえのない時間でした」 ©UKON ONOE

公演情報

©松竹

辛苦を越え仇討ちを果たす赤穂浪士の忠義とその周りの人々の物語を紡ぐ傑作『仮名手本忠臣蔵』の通し上演。昼の部では開演10分前より口上人形による配役の読み上げが行われます。ぜひ早めに着席し、古式ゆかしい演出もご堪能ください。

【歌舞伎座】吉例顔見世大歌舞伎
2026年11月1~25日 *9・17日は休演
昼の部 11時開演、夜の部 16時半開演
通し狂言『仮名手本忠臣蔵』
昼の部/「大序」「三段目」「四段目」浄瑠璃「道行旅路の花聟」
夜の部/「五段目」「六段目」「七段目」「十一段目」
出演:松本幸四郎、尾上松緑、八代目尾上菊五郎、中村七之助、
中村時蔵、尾上右近、中村隼人、市川染五郎、尾上辰之助、
中村錦之助、中村扇雀、中村鴈治郎、坂東彌十郎、中村萬壽、
中村梅玉ほか
●チケットホン松竹 tel. 0570-000-489

尾上右近さん

PROFILE 1992年5月28日生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。2000年4月歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台。'05年1月新橋演舞場『人情噺文七元結』のお久などで二代目尾上右近を襲名。'18年に七代目清元栄寿太夫を襲名し、清元との二刀流で活躍している。

Realization : NATSUKO OHKI
25ans(ヴァンサンカン)12月号掲載(2026年10月28日発売)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ