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中村莟玉(かんぎょく)さんインタビュー「歌舞伎への憧れ、初心を忘れないことです」

  • 2026.1.7
撮影=荒木大甫

2013年の初出演以来、「新春浅草歌舞伎」は常連である中村莟玉(かんぎょく)さん。26年は華やかな舞踊で女形の魅力をたっぷりと堪能させてくれます。まず注目したいのが『藤娘』。いくつかのやり方があるなかで、莟玉さんが挑むのは養祖父である昭和の名優・六世中村歌右衛門ゆかりのアプローチです。

「藤間流六世宗家勘十郎先生の振付で養祖父が1952年に歌舞伎座で初披露したものです。お話をいただき非常にありがたく意義のあることだと思いましたが、手の込んだ凝った振りがついているため、いまの自分にできるだろうかと思いました。そこで(六世宗家の後継者で現勘十郎さんの母である)勘祖先生にご相談したところ、あっさり『できっこないわよ』と(笑)」

それは、だからこそやる意味があるということでもありました。そしてこのやり方をちゃんと残してほしいという言葉をいただいたそうです。

「初演の折はいわゆる初日特定狂言で、始まる前の幕間が1時間もかかってしまったそうなんです。おおらかな時代であったにせよ、より完全なものをお見せしたいという探求心、プロとしてのプライドあってのことだと思います。それは公演中に前半と後半の衣裳を入れ替えていることからもわかります」

初日特定狂言とは、昼夜二部制の公演で初日に限りいくつかを抜粋して1日がかりの一部制で上演された演目のことです。歌舞伎座や南座でかつて行われていた上演形態でした。

「自分にとって大きなチャレンジであると同時に、養祖父がそこまでこだわってつくりあげたものを残すことは歌舞伎にとって非常に大事なこと。それを自分がさせていただけるのですから、ものすごく嬉しく光栄です」

もうひとつの舞踊は尾上左近さんとの共演となる『男女道成寺(めおとどうじょうじ)』で、有名な『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』をふたりで踊るアレンジバージョンです。

「浅草の公演では常に自分がいちばん下の弟だったのですが、初めて歳下の左近さんと踊ります。『刀剣乱舞』でもご一緒した左近さんは気心も知れていますしとても楽しみです。それぞれがもつキャラクターがいい感じでマッチするのではないでしょうか」

「新春浅草歌舞伎」は若手歌舞伎俳優の登竜門として知られていますが、莟玉さんは「まさに浅草に育てていただいた」と感謝の念を表します。

「莟玉と名を改める前の中村梅丸という名を多くの皆さんに知っていただけたのも浅草で大きなお役を勤める機会をいただけたからこそ。そしてこの公演は、その前の年に自分がどれだけ頑張ったかを試される場でもあります」

令和7年3月歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵』「四段目」力弥を演じる莟玉さん。 ©松竹

莟玉さんにとって、2025年何より得難い経験だったのは、『仮名手本忠臣蔵 四段目』で大星力弥を勤めたことでした。しかもダブルキャスト上演のA、B両方のプログラムで、です。

「ひとつの公演でおふたりの判官様、由良助様と真直に接することができ、本当に贅沢な時間でした。その分だけプレッシャーも大きく胃腸炎になってしまい、自分の弱さも痛感しました」

その自覚あってこそ到達できる境地はあるはずです。さて、幼いころに歌舞伎に魅せられこの道を志した莟玉さんにとっての歌舞伎の真髄とは?

「母に連れられ歌舞伎座に通っていたあのころのウキウキした気持ち、歌舞伎への憧れ、初心を忘れないことです」

なかむらかんぎょく○1996年生まれ。2004年中村梅玉に入門。翌年の初舞台を経て、06年、梅玉の部屋子となり中村梅丸を名のる。19年梅玉の養子となり初代中村莟玉と改名。愛らしい容姿と情のある演技で女形として活躍する一方、凜々しい立役も魅力的。

中村莟玉さん公式サイト

[今月の見どころ]

成駒屋の芸と心を受け継ぎ、「潮来出島(いたこでじま)」で踊る『藤娘』

莟玉さんが、これまでの浅草の公演で最大級に緊張したのは「お年玉〈年始〉ご挨拶」に初めて出演したときだそう。出番までの時間が短く素顔では間に合わないため、口上の裃(かみしも)ですることになり、梅玉さんの裃をお借りしたとのこと。

新春浅草歌舞伎『藤娘』より藤娘。 ©松竹

当時はまだ養子入りする前で「養父が口上に出演する際にいつも支度のお手伝いをしていた裃に袖を通したときは、ぐっと来るものがありました」。その梅玉さんの養父が『藤娘』の挿入曲を元来の「潮来出島」にして新たな工夫を加えた成駒屋・六世歌右衛門さんです。

今回の撮影も、伝統を受け継ぐ祇園銀杏の紋付で撮影に臨んだ莟玉さん。偉大な先人に思いを馳せ、その芸と心を受け継いで踊る莟玉さんによる成駒屋ゆかりの藤娘、見逃せません!

[今月のおすすめ]

【浅草公会堂】新春浅草歌舞伎

橋之助さんら新世代メンバーによる2年目の公演。第1部は、染五郎さんら出演の『梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)』、鶴松さん、左近さんによる舞踊『相生獅子(あいおいじし)』、莟玉さんの舞踊『藤娘』、第2部は橋之助さん、男寅さんら出演の『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』、左近さん、鶴松さんらによる舞踊『男女道成寺』などお正月らしい多彩な演目が揃います。

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2026年1月2日(金)~26日(月)(第1部11時〜、第2部15時〜)※9日、19日は休演。12日は第1部、13日は第2部が休演。

演目/
【第1部】お年玉〈年始ご挨拶〉『梶原平三誉石切』
『相生獅子』『藤娘』
【第2部】お年玉〈年始ご挨拶〉『傾城反魂香』
『男女道成寺』

出演/中村橋之助、市川男寅、中村莟玉、
市川染五郎、尾上左近、中村鶴松ほか

料金/3,000円〜9,500円

問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)
公演詳細はこちら

撮影=荒木大甫 取材・文=清水まり 構成=新居典子 協力=松竹 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

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