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染五郎、辰之助ロンドンへ!会見レポート|海外公演への意気込みや歌舞伎への熱い思いを語る

  • 2026.8.27
©松竹

2026年は浅草歌舞伎での大役に始まり、『ハムレット』を見事に演じきった市川染五郎さん。そして、5月の『團菊祭五月大歌舞伎』で三代目として尾上辰之助を襲名した尾上辰之助さん。若き歌舞伎俳優2人が、2027年には初の海外公演を行うことが発表されました。

東京・日本外国特派員協会(FCCJ)で行われた記者会見では、海外メディアの記者から思いがけない質問が相次ぎました。それに答えるなかで見えてきたのは、過去に学び、いまを生き、未来に歌舞伎を伝えていく真摯な二人の姿勢でした。

若き二人が語る、いまこそ歌舞伎を国外に発信する意義

染五郎さん「歌舞伎は400年以上前に生まれまして、そこから色々な時代の人、移り行く文化、感覚、価値観、そういうものを吸収しながら現代に至ったものです。演劇というだけでなく、日本人そのものが積み重ねてきたものが歌舞伎だと思いますし、その時代を映してきた鏡のようなものだとも思っています。その美意識を海外の方に知っていただくというのはとても重要なことだと思いますし、一方で日本の方にももっと歌舞伎を知っていただきたいという思いがあります。今回こうやって国外に発信する機会をいただけたということで、外から内に向けても何か結果を残すことができたら嬉しいなと思っております」

辰之助さん「映画『国宝』や様々な新作歌舞伎、配信などでいわゆる“ブーム”とも言われますが、まだ実際に歌舞伎を観たことがない方は大勢いらっしゃると思いますので、まずは実際に観ていただきたい。やはり歌舞伎という芸術は実際に生で感じていただける雰囲気や空気感が魅力です。それを伝えられる海外公演は本当にありがたい機会です。この流れをブームで終わらせることなく、我々が受け取り、次世代につないでいく、そうやって代々つながれていくものだと思いますので、ぜひそれを『サドラーズウェルズ劇場』の皆様に知っていただきたいです」

©松竹

熱く語る二人に、海外の記者ならではのリアルな質問が寄せられました。まず飛び出したのは、「歌舞伎の化粧は厚く、顔が全部隠れてしまいます。であれば、お二人のようなハンサムな人でなくても歌舞伎俳優はできるのでしょうか?」という質問。

染五郎さんが「歌舞伎俳優はみんなかっこいいです!」と場を和ませると、辰之助さんも「歌舞伎の化粧というのは、長い歴史のなかで先人の方々がずっと研究してどんどん進化している、素敵な文化」と語ります。 そして染五郎さんは、江戸時代の芝居小屋の例を挙げました。

染五郎さん「諸説ありますが、当時の芝居小屋は現代のように照明がなくて暗く、ろうそくの明かりのなかで歌舞伎をしていたようで、暗い中でも少しでも顔が見えるようにと白塗りが生まれたと言われています。でも当然いまは明るい照明があるわけで、それでも歌舞伎独特の文化や美しさとして白塗り(の化粧)は残っています。そういうことが白塗り以外にもたくさんありまして、こうやって歌舞伎が生まれたころの原点に戻って、なぜその表現がうまれたのか繙くのも、いま現在、歌舞伎を観る面白さのひとつではないかと思っています」

ロンドンの歴史ある劇場で、あえて古典舞踊を上演する理由とは

二人が公演を行うサドラーズウェルズ劇場。 View Pictures / Getty Images

二人が公演を行うのはロンドンに所在する、ダンスシアターとして世界的に知られる「サドラーズウェルズ劇場」です。1972年に英国で初めて歌舞伎公演が行われたというゆかりの深い劇場で、今回が8度目の歌舞伎公演となります。上演されるのは『藤娘』『雪の石橋』『男女道成寺』の3本です。

市川染五郎 2020年12月国立劇場『雪の石橋』(サドラーズウェルズ劇場 2027年1月30・31日「ロンドン歌舞伎舞踊公演」) ©松竹

「歌舞伎はロンドンの人にとって馴染みのないもの。そこで歌舞伎を上演することに対する不安はないのでしょうか?」という質問には……

辰之助さん「もちろん歌舞伎をご存じない方がたくさんいらっしゃると思いますが、そういう方にこそ観ていただきたいです。今回の演目はいずれも舞踊で、言葉や理屈抜きで楽しめる演目にしております。ですから、この公演を成功させて、より多くのお客様に歌舞伎を知っていただくことが私たちの使命だと思っています」

染五郎さん「辰之助君が言うとおり、今回の演目は前知識がなくても楽しめるものではないかと思います。今回の演目は、海外の方はもちろん、日本の方でも歌舞伎と聞いてイメージされるようなビジュアルや音楽のもの。歌舞伎の様式美を借りながらですが、役者自身の肉体表現としての美しさのようなものでお客様に感動していただかなくてはならない。そういうハードルも感じていますので、歌舞伎の本質の部分の美しさをきっちり体現できるよう、準備を進めていきたいと思います」

尾上辰之助 2026年1月浅草公会堂『男女道成寺』(サドラーズウェルズ劇場 2027年1月30・31日「ロンドン歌舞伎舞踊公演」) ©松竹

記者たちの関心は、歌舞伎の伝統を変えることの是非をどう考えているか……というところに及びました。今回のロンドン公演に関して、新作ではなく古典をもっていくことについて問われると、辰之助さんはこう言い切りました。

辰之助さん「この演目で海外公演を行うというのは、我々一同が古典の歌舞伎の力を信じているからです。素晴らしい芸術というものは、国籍や人種を超越するものだと思っています。ですので、この歌舞伎に伝わる古典的な演目で、どれだけのものを我々が残せるのか、挑戦でもあります」

染五郎さん「日本人の根底にあって共鳴するような美が詰まった歌舞伎のなかでも、それが特に詰まった作品を今回はロンドンにもっていくわけなので、どんな部分が海外の方に響くのか、まだこれから作っていく段階です」

さらに、近年話題を集めるアニメやゲームといった異業種とのコラボレーション(新作歌舞伎)などに触れ、古典と新作のあり方、歌舞伎の持つ本質的な強みへと話は広がっていきます。

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染五郎さん「歌舞伎の魅力はとても柔軟性があること。新作を作る場合でも、古典歌舞伎の本質的な様式美や演出手法を随所に盛り込み、それを歌舞伎役者が体現する。そうすることで、たとえ一見では歌舞伎とは関係のないような作品とコラボレーションしたとしても、しっかりと“歌舞伎”になる。それこそが歌舞伎の強みであり、古典と新作の両立において大切なことだと思っています」

一方、辰之助さんからはこんな熱い言葉が。

辰之助さん 「残していかなければならない古典作品はもちろんたくさんありますが、その古典というのも、昔の時代に生まれた『新作』だったんです。いま僕たちが作っている新作も、一回限りで終わりと思って作っていません。現代にたくさんの新作ができることで、いま生まれた作品が、少しでも未来に残っていってくれたらと思っています」

古典を守ることといまの時代に新たな表現を生み出すことは対立するものではなく、地続きの歴史。歌舞伎のバトンを、自分たちの代でさらに未来へつないでいくという力強い思いを感じます。

デジタル時代の歌舞伎について、二人がいま考えること

染五郎さんは21歳、辰之助さんは20歳。歌舞伎という400年の歴史をもつ伝統文化の世界にいながら、デジタルネイティブでもあるお二人が、SNS、ソーシャルメディアをどう捉え、使っているのかという興味深い質問が投げかけられました。

染五郎さん「歌舞伎は基本的に舞台演劇です。ということはお客様自身が公演を知って、チケットを取って、ご自身で劇場に来て観ていただかないといけないわけです。こちらがいくら歌舞伎の魅力を発信しようとしても来ていただかないとお伝えできない部分があると思うのです。日本でも歌舞伎に行く機会やきっかけがないという声をたくさん聞きます。SNSで発信することで、意図せず歌舞伎の情報が出てきて興味をもっていただくこともあるでしょうし、一つの入り口として、とても効果的だと思っています」

辰之助さん「昔は、演目を観るお客様というのがたくさんいらっしゃったと思うのですが、いまは、SNSや歌舞伎以外のお仕事を含めて役者を知っていただき、その役者が出ているから歌舞伎を観に行くといってくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。歌舞伎を知っていただくのはもちろんですが、役者個人を知っていただくツール、細かい入り口だと考えています」

©松竹

外国人記者からはさらに、「歌舞伎は家系やファミリーのイメージが強いが、外部から入ることはできるのか」という、伝統芸能における「家」に切り込むような質問も飛び出しました。

染五郎さんは「血縁だけでやっていると思われがちですが、国立劇場の養成所などで学び、一般家庭から歌舞伎俳優としてスタートを切る方も大勢いらっしゃいます」と説明。辰之助さんは「ぜひ養成所に!」と和ませつつ、こんなコメントも。

辰之助さん「歌舞伎の家に生まれた人間と、そうでない人間で、歌舞伎に対する情熱の差はありません。もちろん接してきた時間の長さに違いはあるかもしれませんが、みんな歌舞伎が好きで、情熱を持って集まっています。一丸となって仲間であり、切磋琢磨するライバルとして、ワンチームでこの業界を盛り上げていきたいです」

「世界」はゴールか。ひたすらに役者として自分を磨く二人の答えは?

K-POPでは「BTS」、映像の世界では「SHOGUN」がヒットを飛ばす真田広之さんと、アジアのスターがグローバルで輝く現在、二人はグローバルでの成功を目指しますか?という質問には、以下のような頼もしい回答が。

染五郎さん「そこをゴールに据えているかといわれると、決してネガティブな意味ではなく、必ずしもそうではないと思います。ですが歌舞伎は役者を観る演劇。まず役者を知っていただいて、そこから歌舞伎に入っていただくことも大切です。そういう意味で、歌舞伎以外にもいろいろと挑戦させていただいているのですが、自分を知っていただいて、それが歌舞伎に足を運んでいただく入り口になればという思いで挑戦させていただいています。何がきっかけになるかわかりませんので、国内外問わず、役者として求めていただけるのであれば、色々な場で挑戦したいと思っています」

辰之助さん「求められればどこにでも行ってお芝居をする、まずはその求められる役者になることだと思っています。役者は一生修行の身だと思っていますので、ある意味あまりそういったゴールは定めずに修行していきたいと思います」

若き二人が舞う「ロンドン歌舞伎舞踊公演」の詳細はこちら。

「ロンドン歌舞伎舞踊公演」

View Pictures / Getty Images

会場/サドラーズウェルズ劇場(イギリス・ロンドン)
日時/2027年1月30日(土)19時開演(予定)、31日(日)14時開演(予定)
演目/
『藤娘』藤の精=尾上辰之助
『雪の石橋』獅子の精=市川染五郎
『男女道成寺』白拍子桜子 実は 狂言師左近=市川染五郎 白拍子花子=尾上辰之助

過去にサドラーズウェルズ劇場で行われた歌舞伎公演

第1回(1972年)『仮名手本忠臣蔵』、『隅田川』


第2回(1977年)『義経千本桜』、『黒塚』


第3回(1981年)『俊寛』、『黒塚』、『連獅子』


第4回(1987年)『義経千本桜』

第5回(2001年)『釣女』、『曾根崎心中』


第6回(2006年)『藤娘』、『かさね』


第7回(2010年)『義経千本桜』

写真提供=松竹 編集・文=本田リサ(婦人画報編集部)

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