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ランウェイに現れたアート──2027年春夏、デザイナーはアーティストから何を見つけた?

  • 2026.10.2
Hearst Owned

2027年春夏のファッションウィークも、残すところあと少し。ニューヨーク、ロンドン、ミラノを経て、現在開催中のパリまで各都市のランウェイを追っていると、今季もアートとファッションの刺激的な出合いが見えてくる。アーティストの作品をショー空間に迎えたり、創作の姿勢や人生そのものを服へと映し出したり、ときには一枚の絵画をめぐる物語からコレクションが生まれたり。2027年春夏、デザイナーたちはアートから何を受け取り、どんな新しい表現へとつなげたのか。今季注目したい、アートと響き合うコレクションをピックアップ。

フェンディ×ルチアーノ・ファブロ

FENDI

フェンディのクリエイティブ・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリが見つめたのは、服と身体、そして自分と他者との関係。ショーの中心には、ルチアーノ・ファブロの鏡を用いた作品から着想した巨大なボックスが出現した。

ファブロは、1960年代後半にイタリアで生まれた芸術運動「アルテ・ポーヴェラ」を代表するアーティストのひとり。鏡やガラス、金属、大理石など多様な素材をとおして、空間や知覚、鑑賞者と作品との関係を探究した。モデルが鏡の空間を歩くとその姿は幾重にも反射し、向かいに座る観客までもが視界に入り込む。コレクションでは、ブラやショーツ、スリップといった身体に近いアイテムを起点に、シルクやレース、刺繍、ファーなどを自由にレイヤード。身体を覆うためだけではない服と、見る者を巻き込むアートが響き合った。

ボッテガ・ヴェネタ×イリヤ・ゴールドマン・グビン

Bottega Veneta
Bottega Veneta

2027年春夏、ルイーズ・トロッター率いるボッテガ・ヴェネタのショーでは、ベルリンを拠点に活動するアーティスト、イリヤ・ゴールドマン・グビンが会場のゲストのためのスツールを制作。彫刻やインスタレーションをとおして、素材と身体、その痕跡を探るグビン。

今回の椅子は、段ボールを身体で抱きしめるように押し潰し、その形をもとに制作したものだという。人の手や身体の痕跡を残す彫刻的な椅子は、卓越したクラフトマンシップを核とするボッテガ・ヴェネタの世界とも呼応。ショーでは、レザーやニット、流動的なドレスなど、素材そのものの表情を引き出したルックが次々と登場し、服から会場まで、手で形づくることの豊かさが貫かれた。

バーバリー×セリア・バートウェル

Burberry

2027年春夏のバーバリーでダニエル・リーがタッグを組んだのは、英国を代表するテキスタイルデザイナー、セリア・バートウェル。1960〜70年代のロンドンでオジー・クラークとともに一時代を築き、花や植物、人物を自由な線と色彩で描いたプリントで知られる存在だ。デイヴィッド・ホックニーとも親交が深く、代表作のひとつ《Mr and Mrs Clark and Percy》をはじめ、彼が繰り返し描いたモデルとしても美術史にその姿を残している。

会場となったのは、バートウェル自身もかつて教鞭を執ったロンドン芸術大学のチェルシー・カレッジ・オブ・アーツ。白く削ぎ落とされた空間に木製のベンチが並ぶなか、彼女のアーカイブから選ばれた花や顔のモチーフがドレスやシャツを彩り、バーバリーを象徴するチェックもバートウェルの手描きによって再解釈された。英国の伝統に、奔放でボヘミアンなムードを吹き込み、見慣れたメゾンのコードに新たな表情を生み出した。

アクネ ストゥディオズ×ファイグ・アフメッド

Acne Studios

アクネ ストゥディオズのショーを彩ったのは、アゼルバイジャン出身の現代美術家ファイグ・アフメッドによる、伝統的な絨毯が記憶とともに溶け出していくようなセット。アフメドは、アゼルバイジャンの伝統的な絨毯の文様を歪ませ、崩し、ときに空間へと拡張することで、伝統と変容、知覚や記憶を探ってきたアーティストだ。

Acne Studios
Acne Studios

その作品を背景に、クリエイティブ・ディレクターのジョニー・ヨハンソンが描いたのは、歴史的な装いとデニムが交差する新たなスタイル。宮廷のドレスコードは解体され、タフタや色褪せたブロケード、経年変化を思わせるレザーに、ジーンズやバイカーパンツをミックス。デニムには引き裂かれたルネサンス絵画の断片までが現れる。過去の記憶をそのまま保存するのではなく、崩し、組み替え、現代へと解き放つ──アフメッドの作品とコレクションが鮮やかに呼応した。

キャロリーナ ヘレラ×アンディ・ウォーホル

Carolina Herrera

創設45周年を迎えたキャロリーナ ヘレラ。クリエイティブ・ディレクターのウェス・ゴードンは、メゾンが誕生したニューヨークへと視線を戻し、アンディ・ウォーホルが創設者キャロリーナ・ヘレラを描いたポートレイトをコレクションに登場させた。20世紀美術を代表するポップ・アートの旗手ウォーホルとヘレラは、1980年代のニューヨークの社交界をともに彩った友人同士。この肖像画を手に入れる際、ヘレラは夫から贈られたヴァン クリーフ&アーペルのバッグと交換したという逸話も残る。

ウォーホルが撮影したポラロイドをもとに生まれた肖像画は、今回初めてファッションアイテムへの使用が許可され、刺繍を施したミニドレスや「ジャクリーン」バッグへと姿を変えた。約3万本の黄色いチューリップで彩られた会場も含め、メゾンの原点であるニューヨークとそこに息づいたクリエイティブな交流を現在へとつなぐコレクションとなった。

シモーン・ロシャ×カラヴァッジョ

SIMONE ROCHA
SIMONE ROCHA

シモーン・ロシャが出発点としたのは、バロック絵画の巨匠カラヴァッジョと、一枚の絵をめぐる数奇な物語だった。ドラマティックな明暗表現と圧倒的な写実性で西洋絵画に大きな影響を与えたカラヴァッジョ。その激烈な人生もまた、決闘や逃亡に彩られていた。

カラヴァッジョ《キリストの捕縛(The Taking of Christ)》(1602) カンヴァスに油彩 アイルランド国立美術館所蔵。ユダの接吻を合図に、キリストが兵士たちに捕えられる瞬間を、闇を切り裂くような光と劇的な明暗で描いた。長らく失われた作品と考えられていたが、1990年、ダブリンのイエズス会施設の食堂で再発見された。 Hearst Owned

そんな画家が1602年に描いた《キリストの捕縛》は、長らく失われた作品と考えられ、ダブリンのイエズス会施設の食堂に別の画家の作品として50年以上もかけられていたが、1990年に真作と判明する。ロシャが惹かれたのは、そんな「非凡なものが日常のなかに潜んでいる」という物語。深いブルーのベルベットや黒いレザー、手仕事でつくられた薔薇、身体を包むタフタなどを重ね、豪奢さと日常性、神聖さと親密さという相反する感覚をひとつのワードローブに閉じ込めた。

エミリア・ウィックステッド×リー・クラズナー

Emilia Wickstead
リー・クラズナー《Combat》(1965) カンヴァスに油彩 179×410.4㎝ ビクトリア国立美術館(メルボルン)蔵 © 2026 Pollock-Krasner Foundation / Artists Rights Society (ARS), New York

エミリア・ウィックステッドがミューズに選んだのは、抽象表現主義を代表する画家リー・クラズナー。ジャクソン・ポロックの妻として語られることも多いが、自らの表現を絶えず壊し、つくり直しながら、独自の絵画世界を切り開いたアーティストだ。

今季は、彼女の絵画を思わせるベージュやピンク、イエローを織り込んだ軽やかなツイードをはじめ、デイジーや葉を描いたプリント、ほつれを残したエッジ、流れるようなシフォンなどが登場。端正なシルエットに、どこか自由で即興的な表情を忍ばせた。さらにストライプシャツやニット、エプロンドレスなど、制作に向かうクラズナーの姿を想像させるアイテムも。作品そのものを引用するのではなく、自然を愛し、変化を恐れず創作を続けた彼女の精神を、現代のワードローブへと映し出した。

ロクサンダ×フランソワーズ・グロッセン

Roksanda

2027年春夏のロクサンダがインスピレーションのひとつとしたのは、スイス生まれのテキスタイルアーティスト、フランソワーズ・グロッセン。1960年代以降、伝統的な織物の枠組みから離れ、ロープやファイバーを編み、結び、垂らすことで、空間へと広がる彫刻的な作品を生み出してきた先駆的な存在だ。その影響は、今季のコレクションにも鮮やかに現れる。

バッグから長い糸の束が流れ落ち、ロープがジャケットやドレスの身体を包み、柔らかな素材が彫刻のようなボリュームを描く。建築的なフォルムと鮮烈な色彩で知られるロクサンダの服にグロッセンの自由なファイバー表現が重なり、衣服と彫刻の境界を行き来するようなシルエットが生まれた。

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