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DeNAベイスターズ、過去8年の選手インタビューが一冊に。今季ブレイクした勝又温史が、打者転向を決めた当時の自分へ「諦めないでくれて、本当にありがとう」【書評】

  • 2026.9.28
ハマ街ダイアリー 2018-2026 石塚隆/文藝春秋
ハマ街ダイアリー 2018-2026 石塚隆/文藝春秋

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横浜DeNAベイスターズの8年強に及ぶ選手インタビュー集である『ハマ街ダイアリー 2018-2026』(石塚隆/文藝春秋)。タイトルを目にして思い返すのは、当然ながら映画化もされた吉田秋生の名作コミック『海街diary』である。

『海街diary』は、鎌倉で暮らす4人の異母姉妹の、深まっていく家族の絆を描くストーリー。転生も国家的な陰謀もなければゾンビもいない。淡々と、しかしこまやかに描かれる姉妹と行き交う人々の日常と心情。それは、ささやかだからこそ、特別ではなくても同じような日々を精一杯に生きている読み手の共感を呼ぶ。緻密に描かれた舞台である鎌倉の街の風景も、作品に彩りとリアリティを与えていた。『ハマ街ダイアリー』の著者は、長年ベイスターズの取材を続けるフリーライター。神奈川県出身で現在は鎌倉在住というから、このタイトルが付けられたのは偶然ではあるまい。

プロ野球選手のインタビュー集に、なぜ少女漫画誌で人気を博した、多分に文学的なコミック作品をオマージュするようなタイトルが冠されているのか。それは本書の成り立ちと連綿と続くインタビューを読んでいくうちに腑に落ちていく。

『ハマ街ダイアリー』は、この書籍のために付けられたタイトルではない。もともとスポーツ総合雑誌『Number』のウェブメディア『Number Web』で人気を集める著者のベイスターズの選手を中心としたインタビュー連載のタイトルである。始まりは2018年というから、実に9年も続く長期連載。本書には、その中から厳選された45人のインタビューがまとめられている。

9年にわたる取材で、同じ選手でも環境や心境の変化がよく分かる

これだけの期間、同じチームの取材を続けていれば、当然ながら同じ選手の取材でも、取り巻く環境や選手本人の立場、心境、言葉にも変化が出る。たとえば2019年、2020年、2022年、2023年と四度登場する右腕投手・三嶋一輝。プロ入りから苦労を経て生き場所を確立した時期から、難病に襲われ、復帰するまで丁寧に言葉が紡がれている。一人の選手の変わったこと、変わらないものがリアルに伝わってくるのは、一度に振り返ってもらうのではなく、長年にわたりターニングポイントごとにリアルタイムで取材を行った賜物だろう。

一方で、一度切りの登場の選手の中には、ファンであれば「ああ、あの頃、活躍していたな」と当時を懐かしく思い出させてくれるインタビューもあるはずだ。そしてインタビューを読み終わり「あの年ってどんなシーズンだっけ?」とファンの“思い出連鎖”が続く頃、年ごとに区切られた各パートの最後に、その年のシーズン総括が個人成績とともにまとめられている、かゆいところに手が届く構成もうれしい。

そして、読み手の思い出連鎖は続く。あの年はまだ大学生だった、新入社員だった、子どもが生まれた年だった……。一つのチームのファンを続けていると、いつのまにかチームと選手が、自分の人生の歩みとともにあるような感覚を得られる。仕事で立ち直れないほどの失敗をした日、同じような立場にあったエースの復活ピッチングにもらった勇気。初めて妻と観戦した日に祝福するようなホームランを打ってくれた四番打者。そんな感情移入ができるのもプロスポーツの魅力だ。

著者のプロフィールには「生粋の横浜DeNAベイスターズファン(厳密に言うと横浜大洋ホエールズファン)」という記述がある。おそらくライターとしての仕事をするずっと前からベイスターズと前身たるホエールズの応援をしてきたのだろう。著者にとってベイスターズとその選手たちのプレーは日常のそばにあるものであり人生の一部。『ハマ街ダイアリー』というタイトルには、そんな思いが込められているのではないだろうか。

だからこそ、良い意味で本書には全体を通して一貫する壮大なテーマやストーリー、問題提起のようなものはない。時系列に沿って、毎年毎年、必死に戦う選手たちの言葉がただただ紡がれている。言うなれば選手とファン、双方にとっての尊き日常の言葉と感情。それは『海街diary』が描いているもの、あるいは読後感にも似ている。

象徴的なのは本書を締めくくるインタビュイーが、牧秀悟や宮﨑敏郎、筒香嘉智といったスター選手ではなく、8年目の今季にブレイクした苦労人・勝又温史であることだ。2022年のパートで投手としてもがき苦しんだ末に打者転向を決めた心情を吐露してから4年。ついに夢の舞台へとたどりついた勝又は、当時の自分にかけてあげたい言葉を問われ、こう答える。

引用----

「諦めないでくれて、本当にありがとう、ですかね」

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何度叩かれても屈しない野球人生に差した一筋の光。それはスターが放つ派手な光とは異なる、市井の人々にもあり得る光。『ハマ街ダイアリー』の締めくくりにふさわしい光である。

文=田澤健一郎

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