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記憶を描く、世界に一つだけの服。〈BODE〉のシニア・コード

  • 2026.9.20
記憶を描く、世界に一つだけの服。〈BODE〉のシニア・コード

シニア・コードとは?

1900年代初頭、米・インディアナ州のパデュー大学で始まった慣習。卒業学年の学生が黄色やクリーム色のコーデュロイパンツに、学校名や卒業年、所属クラブ、スポーツ、恋人のイニシャルなどを描いた。新学期やアメリカンフットボールの試合の観戦で着用され、やがて高校にも広がり、50年代に最盛期を迎えた学生文化。60~70年代頃から次第に廃れていった。

事の始まりは、偶然だった。1904年頃、インディアナ州の仕立て屋で、黄色のコーデュロイ生地がセールになっていた。それをパデュー大学の卒業学年の学生たちが買い、パンツを仕立てたのがシニア・コードの始まりとされている。やがてパンツには学校名やマスコット、州の紋章、所属するクラブや内輪のジョークまで、学生生活の様々なものが描かれるようになった。

「子供時代や家族など、人生の100もの出来事や記憶を、一着のジャケットに載せることもできます」。人生そのものを描く一着。

エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラが惹かれたのは、それぞれのユニークさだけではない。「一番面白いと思うのは、それが学年全体をつなぐ行事だったこと。それぞれ服装も個性も違うのに、同じ年に卒業する仲間として、みんながこの伝統に参加していた」。長く続いたこの習慣も、60〜70年代には、伝統に従うことを嫌う若者が増え、次第に廃れていく。エミリーがシニア・コードを復活させたのは、「一度クールではなくなった伝統」に惹かれたからだった。

〈BODE〉では、2018年からオーダーメイドでシニア・コードのプログラムを開始。顧客はまず、イエローのコーデュロイ生地のアイテムを購入し、質問票に答える。自分の出生、ペットについて、好きな食べ物など、描いてほしいことについて細かく答えていく。その後、スタッフとの打ち合わせを経て、アーティストが手描きのイラストを施していく。制作のために思い出の品や写真を預かることもあるが、それをどう解釈し、視覚的に構成するかは〈BODE〉のチームに委ねられる。だからこそ、完成するまで本人にもわからないサプライズが生まれる。

人生そのものを描く一着。シニア・コード
エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ(〈BODE〉デザイナー)

人生とともに育つ、新しいマスターピース

シニア・コードの制作によって生まれるのは、商品そのものだけではない。質問票と向き合うことで、顧客は自分にとって大切なものや思い出に改めて思いを馳せることになる。自分のために作るのであれば、それは自分自身を振り返る時間にもなる。そうして生まれるのは、ただの一点ものではなく、その人自身の記憶や人生に寄り添う、最もパーソナライズされた特注アイテムだ。普段は立ち止まって考えることのない、自分にとって大切なものとゆっくり向き合う時間。それこそが、このシリーズがもたらす一番の豊かさなのかもしれない。

さらに面白いのは、一度完成した服にも、その先があることだ。結婚時に作った一着を再び持ち込み、生まれた子供の誕生日を描き足す人もいる。「シニア・コードは、生きている服です。その人と一緒に生きて、人生とともに新しいものが足されていく」。それは同時に、赤ちゃんのためにキルトを作ることや、ウエディング用の贈り物を手作りするというような、エミリーが「labor of love」(愛情から生まれる手仕事)だと感じる、大切な誰かの人生の節目に手間を惜しまずものを作る、アメリカの手仕事の文化にもつながっている。実際、〈BODE〉のシニア・コードも自分用とは限らない。結婚や卒業、記念日の贈り物としてもオーダーされ、アナ・ウィンターやケンダル・ジェンナーもギフトとして購入しているという。

こうした服はクラシックとして、長年愛用できそうだが、エミリーが考える定番のアイテムとはどんなものだろう。彼女の答えは、「誰かが着ている写真を見ても、その人がどの時代の人なのかわからない」タイムレスな服。さらに彼女がクラシックの条件として挙げるのが、ユニセックスであること、そして「着れば着るほど良くなる」ことだ。具体例を挙げると、〈リーバイス®〉の501やカシミヤのセーター、フリンジジャケットは「オールシーズン使えるから」、エミリーにとっての長く愛用できる定番アイテムだという。

人生そのものを描く一着。シニア・コード
「自分の高校にもこの伝統が残っていたら。私自身も経験したかった」とエミリー。詳細は、公式サイト(bode.com/pages/senior-cord)にて。問い合わせはBODE Tokyo (TEL:03-6407-1875)まで。
人生そのものを描く一着。シニア・コード
人生そのものを描く一着。シニア・コード

シニア・コードには「最初に誰が絵を描いたのか」という記録が残っていない。何十年も続いた、大きな文化だったにもかかわらず、正式な記録は少ない。それはあまりに日常的な文化だったからかもしれない。「とある学生が絵を描いてみたことからそのアイデアが雪だるま式に広がり、やがて一つの歴史や技法そのものになった。そこが、本当に魅力的です」

アイテムも時間を重ねることで変化していく。5年ほど着て色褪(あ)せた一着を〈BODE〉に持ち込み、色を濃く、再び鮮やかにしてほしいと依頼する人もいるという。

制作の第一歩は、〈BODE〉が用意するQ&A。完成品を見た時、感動して泣く人も多くいる。

シニア・コードが教えてくれるのは、「Well‒Made」の価値は、上質な素材や稀少性だけでは測れないということだ。自分の人生を振り返り、記憶を作り手に預ける。既製品の一点ものやイニシャルを入れるだけのパーソナライズとも違う。費やされた時間と手仕事、そして自分自身の物語が、その一着をかけがえのないものにする。これは、込められた時間と物語で測る、一歩先を行く、マスターピースなのかもしれない。

profile

エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ(〈BODE〉デザイナー)

米・アトランタ生まれ。パーソンズ美術大学でメンズウェアを学び、他校で哲学も専攻。19世紀を中心とするヴィンテージテキスタイルや伝統的な手仕事から着想を得た現代的な服作りで知られる。

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