1. トップ
  2. エピソード
  3. 「テラス席にいましたよね」同僚のその一言が、何度も顔を合わせるうちに気になり始めたワケ

「テラス席にいましたよね」同僚のその一言が、何度も顔を合わせるうちに気になり始めたワケ

  • 2026.9.18

休憩室で答えたのは、それだけだった

五年ほど前の夏のことです。四十代に入ってから移った部署と同じ階に、それまで数回しか話したことのない男性がいました。顔を合わせれば挨拶をする、その程度の間柄でした。

金曜の昼、休憩室で紙コップに湯を注いでいると、後ろから声をかけられました。

「週末って、何か予定あるんですか?」

突然だったので少し驚きましたが、深く考えずに答えました。

「友達とお茶するくらいです」

「いいですね。今週は天気もよさそうですし」

「そうですね。雨じゃなければいいんですけど」

会話はそれだけでした。

店の名前も、待ち合わせの時間も話していません。そもそもその時点では、友人と会ってから店を決めるつもりで、私自身もどこへ行くのか知りませんでした。

週明けの月曜、出社して廊下を歩いていると、その男性がこちらを見て声をかけてきました。

「あの、週末…テラス席にいましたよね?」

何のことを言われているのかすぐには分からず、私は足を止めました。

「え…私ですか?」

「はい。テラス席にいましたよね。お友達と一緒に」

同じことをもう一度言われて、ようやく週末に入った店のことだと分かりました。

「…見かけたんですか?」

「そうなんです。たまたま近くを通って。あれ、もしかしてって思って」

男性はいつもと変わらない調子で答えました。

「そうだったんですね」

私もそう返しましたが、少しだけ引っかかりました。

休日に外へ出ていれば、職場の人と偶然すれ違うことだってあります。そのときは、ただの偶然だろうと思うことにしました。

帰りに寄る店でも、何度か顔を合わせた

ただ、その週から少し気になることが増えました。

仕事帰りに時々立ち寄る店へ入ると、その男性を見かけることが何度かあったのです。

飲み物の棚の前に立っていたり、レジへ向かうところだったりしました。

向こうから長く話しかけてくることはありません。目が合えば、いつものように軽く会釈するだけです。

「あ、お疲れさまです」

「お疲れさまです」

それだけなら、何もおかしくありません。

別の日には、退勤するころにエレベーターの前で一緒になることもありました。

「今日もお疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

扉が開けば、そのまま一緒に乗る。会話も、それ以上続くことはありません。

一つひとつを考えれば、どれも偶然で説明できることでした。

それでも何度か重なるうちに、私は少しずつ落ち着かなくなっていきました。

「考えすぎかな」

そう思う一方で、休憩中に週末の予定を聞かれた日のことが何度も頭に浮かびました。

それからは昼食をほかの同僚と取ることが増え、帰りもできるだけ誰かと一緒にエレベーターへ向かうようになりました。

男性とは、それまでと同じように挨拶だけを交わしました。何かをされたわけではありませんし、こちらから問いただすほどのこともありませんでした。

翌年の春、部署が分かれ、その男性は別の場所へ移りました。それから顔を合わせることはなくなりました。

最初の休日も、本当に偶然近くを通っただけだったのかもしれません。

ただ、店も時間も話していなかった相手から突然「テラス席にいましたよね」と二度言われたときの戸惑いは、今でも覚えています。

外の席に案内されると、ときどきあの日のことを思い出し、座る前に何となく通りのほうを見てしまいます。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ