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WWDJAPAN編集長として活躍する傍ら、会社終わりにボランティアへ。循環していく社会貢献の輪 vol.3

  • 2026.9.15
Hearst Owned

ファッションには、人と人をつなぎ、新たなコミュニティを生み出す力がある。その力を生かし、環境保全や人権保護、社会福祉など、さまざまな社会課題に向き合う3名を取材。活動のきっかけから、その思いを持続可能な支援へとつないできた歩み、そして根底にある信念をひもとく。第3回は、『WWDJAPAN』編集長の村上要さん。障がいのある子どもを支える個人活動を続ける一方で、ファッションメディアとして循環型のプロジェクトも拡大。「伝えること」を通して社会課題と向き合う、その思いに迫った。

知らない世界とつながることで見つける新たな自分

「ボランティアや社会貢献をしたいというより、知らない世界とつながりたいという思いで続けているんです」——そう語るのは、『WWDJAPAN』編集長の村上要さん。大学時代は教育学部で障害児教育を専攻し、課外活動などを通じて障がいのある子どもたちと関わる機会が多かった。また村上さん自身も右耳の聞こえが悪く、障がいのある子どもたちと関わることに特別なハードルは感じていなかった。大学卒業後は、新聞記者を経てファッション業界へ。仕事に打ち込む日々を送っていたが約16年前、仕事以外の自分について考えるようになった。

静岡新聞社会部での記者時代。 Hearst Owned

「ちょうどフィービー・ファイロ時代のセリーヌや、ステラ マッカートニー、阿部千登勢さんのサカイなど、多面的な生き方を体現するデザイナーたちが注目を集め始めた頃でした。彼女たちのブランドが支持される理由について、ある人が『母であり、妻であり、仕事をしている。いくつもの顔を持っているから、多くの人が共感するんじゃない』と話していて、とても納得したんです。私自身、仕事人であるという自負はありました。でもそれ以外の自分の顔を持っていないと、これからそういう人の洋服に共感できなくなってしまうのではないかと思ったんです」

2017年、「WWDJAPAN.com」編集長に就任した頃にデザイナーのフィリップ・リムと。 Hearst Owned

そこで思い浮かんだのが、大学時代に学んだ経験だった。自宅近くで、発達障害のある子どもたちを学童保育へ迎えに行き、保護者が仕事から帰宅するまで一緒に過ごすNPO法人の活動を知り、参加することを決めた。自閉症の子どもは新しい環境に慣れるまで時間がかかることから、基本的には同じ子どもを担当する。以来15年以上、週に1回この活動を続けており、出会った頃は小学生だった男の子も、今では20歳になった。

親の偉大さ、そして支え合いの大切さ

活動を続けるなかで、村上さんは親という存在の偉大さや、これまで気づかなかった日常の景色を知った。

東北大学教育学部で障害児教育を専攻していた際のボランティアの様子。 Hearst Owned

「家族の一員とまでは言えないけれど、その家族の隣にいるような感覚はあります。親御さんたちはこういうことを感じながら日々子育てをしているんだなというさまざまな発見がありました。例えば、仕事を終えて駅から走って迎えに行っても、間に合わなかったら最初に言うのは『遅れてごめんなさい』なんですよね。世の中のお母さんたちは毎日こんなにがんばっているのに、謝らなければいけない。理不尽だなと感じましたし、その大変さを知れたことは大きかったです。それ以来、街ですれ違う親子が交わす何気ないコミュニケーションにも自然と目が向くようになりました」

さらに仕事以外の世界で得た経験は、人々の暮らしや価値観をより身近に感じながらファッションを見つめる変化にもつながっていった。「さまざまな洋服を見る中で、『これは働く女性たちに人気なんです』と言われると、『理由は、このデザインかな?』と自然と考えられるようになりました。そう思える自分でよかったなと思います」

学生時代からボランティアを通して社会とのつながりを築いてきた村上さん。 Hearst Owned

大学時代からさまざまな社会活動に携わってきた村上さんが、今も変わらず感じているのは、日本では社会課題に関わることへのハードルが高く捉えられすぎているということだ。その背景には、日本人の真面目さゆえに「完璧でなければならない」という思い込みがあるのではないかと話す。

「組織や制度に思うこともありますが、日本人は真面目だからこそ『完璧じゃないとダメなんじゃないか』と思ってしまう。私には無理だと一歩引いてしまい、それが世の中の“無関心っぽさ”につながってしまっていると思うんです。私も最初は聞きづらかったですが『週に1回でもいいですか』と聞いてみると、『もちろん大丈夫ですよ』と快く受け入れてくれました。そうやって少しずつ関わる人が増えていき、みんなで支える社会になればいいなと思います」

「楽しさ」がサステナビリティへの一歩に

個人での活動の一方で、『WWDJAPAN』では循環型ファッションに関する取り組みも積極的に発信している。昨年に引き続き第2回となる体験型フリーマーケット「WWDJAPAN REUSE MARKET」の開催や、思い入れのある一着をクリーニングやお直しをして再び着るYouTube連載企画「re:Wear」など、メディアとして情報を届けるだけでなく、人が実際に体験しながら循環を考える場づくりにも力を入れている。

2026年4月に開催された、2回目となるWWDJAPAN REUSE MARKET。 AI OKUBO

「『WWDJAPAN』は7年ほど前からサステナビリティと向き合っています。ただ、環境問題をそのまま伝えるだけでは、どこか『怒られている』と感じてしまう人も多いと思ったんです。楽しさや高揚感を届けてきたファッション業界だからこそ、僕たちがやるべきなのは、楽しみながらサステナビリティについて知ってもらうこと。そこでメディアとしてできるのは、一着の洋服にまつわるストーリーや、その人の愛着を届けることなのではと思いました。そうした物語に共感してもらうことで、ただ消費するだけではない、新しい洋服との付き合い方も見えてくるはずです。トレンドはあっという間に移り変わりますが、人の思いほど長く残るものはないですよね」

さらに「re:Wear」企画から派生し、クリーニング店を舞台にしたミニドラマも7月から4週連続でYouTubeにて配信。環境問題を大きく訴えるのではなく、物語を通して人の心に届く伝え方を目指している。また近年、サステナビリティのあり方は多様化しているという。「ハイブランドからファストファッションまで取材していますが、どの企業もそれぞれのやり方で真剣に取り組んでいると感じています。だから現状では『これが正しいサステナビリティ』というルールを作る必要はないと思うんです。大切なのはその取り組みにきちんと思いがあること。それが唯一のルールではないでしょうか」

ファッションやビューティ業界のおもしろさは、無数のオルタナティブがあることだと村上さんはいう。その考え方はサステナビリティにも当てはまると話す。「ファッションスタイルがたくさんあるからおもしろいように、サステナビリティにもいろいろな形があっていい。それがファッションやビューティ業界におけるクリエイティビティの醍醐味だと思っています」

選んだ道を、自分の正解にするために

SNSやAIによって、あらゆる答えがすぐに見つかる時代になった。だからこそ、自分の選択を信じることが、以前にも増して難しくなっている。そんな今、村上さんが大切にしているのは「正解を探すよりも、自分が選んだものを正解にしていく」という考え方だ。社会問題に関わる方法はひとつではない。週に一度、子どもを迎えに行くこと。思い入れのある一着をもう一度着ること。フリーマーケットで誰かの物語に触れること。そうした小さな選択の積み重ねが、人と人をつなぎ、新たな価値観を育んでいく。

「選んだものを正解にする」——。村上さんの言葉は社会貢献だけではなく、自分らしく生きることへのメッセージにも聞こえた。

村上要:東北大学卒業後、静岡新聞社に就職。退職後、ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを専攻。帰国後にINFASパブリケーションズに入社。「WWDJAPAN.com」編集長を経て、2021年4月より現職。 Instagram: @1977kaname

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