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「その時計、どこのですか?」母から譲られた時計を何度も聞かれた入学式。返事に困った気まずい時間

  • 2026.9.14

受付の列で、手首をのぞきこまれた

娘の入学式の朝は、よく晴れていました。

校門から昇降口まで保護者の列が続き、受付の長机の前で少しずつ足が止まります。

私が名簿に名前を書いていると、隣にいた保護者の視線が手元に向いていることに気づきました。

見ていたのは、私の左手首でした。

母から譲られた古い時計で、革のベルトもすっかり色が変わっています。

すると、その人が少し身を寄せてきました。

「その時計、どこのですか?」

突然だったので、私は一瞬返事に迷いました。

「これですか?母から譲ってもらったものなんです」

「へえ。ブランドとかは分からないんですか?」

「私も詳しくは知らなくて」

そう答えると、その人は「そうなんだ」と笑いました。悪意があるようには見えません。ただ、ずっと手首を見られているのが少し落ち着きませんでした。

受付を離れたあと、その人が今度は別の保護者に声をかけているのが聞こえました。

「そのバッグ、素敵ですね。どちらのものですか?」

相手は笑いながら答えていましたが、私は先ほどのやり取りを思い出してしまいました。

体育館へ向かう渡り廊下で、またその人と一緒になりました。

私を見ると、すぐに時計へ目を落とします。

「さっきの時計、やっぱり気になるなあ。本当にどこのか分からないんですか?」

「ええ。母からもらったものなので、それ以上は分からないんです」

今度はそうはっきり答えると、「そっか、残念」と笑って先へ歩いていきました。

私は無意識に袖を少し引いていました。

体育館でも、持ち物の話が聞こえてきた

体育館にはパイプ椅子が整然と並び、保護者たちが次々に席についていました。

私の少し後ろから、またその人の声が聞こえてきます。

「そのコート、きれいですね。新しく買ったんですか?」

「いえ、前から着ているものですよ」

「そうなんですね。よく似合ってます」

ただ褒めているだけなのかもしれません。それでも朝から何人もの持ち物を見ている様子が、どうしても気になりました。

開式が近づいたころ、担任の先生が保護者席の前まで来ました。

「もうすぐ子どもたちが入ってきます。そろそろ前を向いてお待ちくださいね」

あちこちに残っていた話し声が、少しずつ小さくなりました。

先生は入口を振り返りながら、笑顔で続けました。

「みんな緊張していると思います。ぜひ、最初の姿を見てあげてください」

ほどなく扉が開き、真新しい制服を着た新入生たちが入ってきました。

私もすぐに娘の姿を探しました。少し緊張した顔で歩く娘を見つけた瞬間、時計のことは頭から消えていました。

式が終わり、昇降口へ向かっていると、近くに座っていた保護者が小さな声で話しかけてきました。

「朝から、いろんな人の持ち物を聞いてましたね」

やはり気づいていた人がいたのだと思い、私は苦笑しました。

「私も時計を二回聞かれました」

「ああ、やっぱり。ちょっと答えに困りますよね」

「そうなんです」

それだけ話すと、その人は自分の子どもの姿を見つけ、「じゃあ、また」と手を振って歩いていきました。

持ち物を褒めたり、興味を持ったりすること自体は悪いことではありません。ただ、何度も詳しく聞かれると、答えに困ることもあります。

入学式の日を思い出すと、母から譲られた時計と一緒に、少し大きな制服を着て体育館へ入ってきた娘の姿が浮かびます。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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