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『バックルームズ』ケイン・パーソンズ監督に問う“映画”との距離、生い立ちからひも解くアイデアの源【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

  • 2026.9.12

北米公開時20歳(現在21歳)にして、長編映画監督デビュー作『バックルームズ』で世界中に“バックルームズ現象”を巻き起こしたケイン・パーソンズのサクセスストーリー、そしてネット掲示板やYouTubeに端を発するそのバックグラウンドのユニークさと作品の革新性については、既に様々なメディアで語られ、本人自身も語ってきたことだろう。今回、日本公開のタイミングに合わせて来日したケイン・パーソンズに直接問いたかったのは、そんな“若き天才クリエイター”と“映画”との距離だ。

【写真を見る】A24公認『バックルームズ』日本オリジナルTシャツを見事に着こなすケイン・パーソンズ監督

映画監督に“映画”のことを訊くのは当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、『バックルームズ』のスコアも(エド・ヴァン・ブリーメンとの共同で)手掛け、映画公開後もこれまでのようにYouTubeの自身のチャンネル、「Kane Pixels」に動画投稿をしているケイン・パーソンズにとって、映画界での成功はそのまま今後のキャリアを決定づけるものではない。そもそも、ビデオゲームやアニメーション、YouTube動画やショート動画に対して、映画というアートフォームの優位性そのものが揺らいでいるこの時代。その時代の申し子とも言えるKane Pixels(この名前で彼のことを最初に知った人も世界中に何十万人もいる)ことケイン・パーソンズにとって、映画制作とは、映画ビジネスとは、そして「映画的」とは何なのか?興味深い家庭環境の話なども含め、このタイミングでしか訊けないであろうことを訊いた。

「映画のことは監督に訊け」最新回に『バックルームズ』で来日したケイン・パーソンズが登場 撮影/興梠真穂
「映画のことは監督に訊け」最新回に『バックルームズ』で来日したケイン・パーソンズが登場 撮影/興梠真穂

「この作品に関わっている身近な人たちのためになるのであれば、できる限り時間を割くようにしています」(ケイン・パーソンズ監督)

――今日はこれからテレビ番組に生出演すると聞いています。長編映画デビュー作を撮って、その作品が世界中で大ヒットし、こうして日本に来てプロモーションをしている。まるで自分がポップスターになったような気持ちになったりはしませんか?そしてそれはあなたの人生にとって、またあなたのこれからの作品にとって、なにか影響を与えることになると思いますか?

ケイン・パーソンズ(以下、ケイン)「もし世間に広く知られる存在になるか匿名のままでいるか、どちらかを選べと言われたら、絶対に匿名を選びます。ですが、確かにいまの状況ではそうはいきませんね。結局のところ、いまの自分は公の人物になってしまっているので、それとうまく付き合う方法を見つけなければなりません。ただ、僕が個人的に感謝していて恩恵を感じているのは、特定の人たちや特定の企業とのミーティングを設定できる機会が格段に増えたことです。そのおかげで、自分の作品のなかで表現したい、ワクワクするようなテーマについて、かなり深くリサーチできるようになりました。今後の作品づくりのために、有益なネットワークを広げるという点ではすばらしい機会になっていると思います」

【写真を見る】A24公認『バックルームズ』日本オリジナルTシャツを見事に着こなすケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂
【写真を見る】A24公認『バックルームズ』日本オリジナルTシャツを見事に着こなすケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂

――映画監督によってはほとんどインタビューを受けないようなミステリアスな存在の方もいますが、将来的に、もしそういう選択肢もあり得るとしたらそうなっていくかもしれない?

ケイン「最終的にはそうなると思います。いまの活動の一部には、契約上の義務であったり、周囲から強く望まれてやっているものもあります。この作品に関わっている身近な人たちのためになるのであれば、できる限り時間を割くようにしています。ただ、この『バックルームズ』のプロモーションを引き受けた時、今回のように受け入れられ、これほど多くの人々に観られることになるとはまったく予想していませんでした。その点は驚きでしたね。でも将来的には、完全に姿を消すわけではないにしても、連絡を取ったり見つけたりするのは難しい状態に戻るだろうと思います。…なんてね(笑)」

「僕にとって音楽は、世界を解釈するうえで非常に大きな部分を占めています」(ケイン・パーソンズ)

――あなたがまだ21歳であるということ、その若さについては散々いろんな場所で語られているわけですが、自分が『バックルームズ』を観てとても驚かされた事実のひとつは、あなたが本作の見事なスコアまで手掛けていることです。今後の作品でも、スコアは基本的にご自身で制作しようと考えているのでしょうか?

ケイン「はい。映画のスコア制作は本当に楽しいです。僕はこれまで映画制作に費やしてきたのと恐らく同じくらいの時間を、音楽制作にも費やしてきました。だから、劇伴を作るプロジェクトがない時でも、頭のなかにある架空のシーンや、まだ作っていない映画のワンシーンのために、劇伴としてしっくりくる音楽をただ作曲してみるのが好きなんです。音楽活動にはかなり積極的に取り組むようにしていますし、正直なところ、自分が制作する作品はすべて自分でスコアを手掛けたいと思ってます」

バックルームズに迷い込む家具屋の店主、クラークを演じるキウェテル・イジョフォー [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
バックルームズに迷い込む家具屋の店主、クラークを演じるキウェテル・イジョフォー [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――音楽の制作もしていることが、映像制作や映画制作にどのような具体的な影響を与えていると考えていますか?

ケイン「僕にとって音楽は、世界を解釈するうえで非常に大きな部分を占めています。音楽は記憶を形成する際の強力な道しるべになりますし、僕自身、音楽を聴く習慣や音楽独自のテクニックを使って、自分の記憶を辿ったり、導いたりしてきました。音楽は場の雰囲気を変え、無数の異なる感覚を生みだすことができます。その人が体験する聴覚的な要素次第で、まったく異なる感情や表情を見せることができるんです。映像制作について正直なことを言うと、多くの場合、映像よりもむしろその音のほうが重要だとすら思ってしまうほどなんです」

「僕たちは同じアイデアを異なる形で何度も発見し続けているんじゃないかと思うんです」(ケイン・パーソンズ)

クラークのカウンセリング担当する医師、メアリー役にレナーテ・レインスヴェ [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
クラークのカウンセリング担当する医師、メアリー役にレナーテ・レインスヴェ [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――ジョン・カーペンターのように自分でスコアを作る監督というのは過去にもいましたが、あなたのこれまでのインタビューを読んでいると、アニメーションやゲームの話はされていますが、実写の長編映画の話をされているのをあまり読んだことがありません。特別な思い入れのある監督や作品を、今日の気分でいいので教えてもらえますか?

ケイン「もちろん実写作品もたくさん観てますし、大好きですよ。あまりそのことを語ってきていないのは、僕のインスピレーションの源について、メディアが意外性のある部分だけを偏って取り上げがちだからだと思います。僕について取り上げられるストーリーの多くは、どういうわけか『どれほど型破りであるか』に焦点が当てられがちなんです。ただ、僕は映画もほかの表現方法を同じ“メディア(媒体)”として捉えています。それがアニメーションであれ、ビデオゲームであれ、自分が好きなのは“ストーリーテリング(物語を描くこと)”なんです。なので、一人の消費者としては、アニメーションでも、ビデオゲームでも、実写作品でも、それらを自由に行き来していて、それぞれの境界線はあまり気にしていません。特別な思い入れのある作品でいうなら、これまで『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』や『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』は、もう500回くらい観返しています」

――でも、それらはテレビシリーズで長編映画ではないですよね?(笑)

ケイン「長編映画でいまパッと思いつくのは、アンドレイ・タルコフスキー監督の『ストーカー』ですね。ほかにも、『バックルームズ』には実写映画からのたくさんの影響源があります」

本作ではインターネットから生まれた不気味な空間“リミナルスペース”が舞台となっている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
本作ではインターネットから生まれた不気味な空間“リミナルスペース”が舞台となっている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――2020年代のアメリカで生活しているティーンがタルコフスキーの映画に出会う機会というのは、なかなか限られていると思いますが、家庭環境的にそういう作品が身近にあったのでしょうか?

ケイン「子どもの頃、両親に映画館へ連れて行ってもらう機会はありましたが、そこまで頻繁ではありませんでした。僕の母はセラピストで、父はプログラマーとしてビデオゲームのバーティカルシステムなどを手掛けていて、特に音楽面では両親がよく聴いていた音楽のテイストを受け継ぎましたが、映画についてはそこまで直接的な影響はないかもしれません。ただ、父は実験的なホラー映像が好きだったので、その影響はあるかもしれませんね」

――父親が「実験的なホラー映像が好き」というのは、自分の世代ではなかなか考えられないことですが(笑)、あなたは自分からすると息子でもおかしくない歳ですからね。そう考えると、確かにそういう環境で育った世代というのは確実に存在するんでしょうね。

ケイン「『バックルームズ』ではよくデヴィッド・リンチの作品が引き合いに出されるのですが、この作品を撮る前に彼の作品は一度も観たことがありませんでしたし、いまでもほとんど観ていません。ただ、父が彼の大ファンだったので、家の中にデヴィッド・リンチ作品的な要素が転がっていて、彼の作品の世界に囲まれて育ったようなものかもしれません。でも、それは自ら探求したものではなく、無意識のうちに認識していたものです。デヴィッド・リンチはいまでも『イレイザーヘッド』しか観たことがないんです。いつかほかの作品も観たいとは思っているのですが、なかなか観る時間を作ることができなくて(笑)」

迷い込んだバックルームズの中で店の家具に似た物体を発見するクラーク [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
迷い込んだバックルームズの中で店の家具に似た物体を発見するクラーク [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――デヴィッド・リンチに限らず、自分が観たこともない作品からの影響について聞かれたり、書かれたりすることも多いんじゃないですか?

ケイン「本当にそうなんです。でも、そうしたものの多くは潜在意識のなかに漂っているだけで、僕たちは同じアイデアを異なる形で何度も発見し続けているんじゃないかとも思うんです。なので、僕自身がその作品を知らなくても、そこにはいくらかの真実があるのかもしれません」

「恐怖を感じるためには、自分が認識している“現実”との強い結びつきが不可欠なのだと思います」(ケイン・パーソンズ)

――ちょうど自分も『バックルームズ』のレビューを日本の新聞に書いたばかりなんですけど、そこで「登場人物の記憶やトラウマを反映した空間へと“壁抜け”する描写はまるで村上春樹の小説の映像化のようでもある」と書きました(笑)。もちろん、あなたが村上春樹の諸作品を読んでいるかどうかは別にして、という前提で。

ケイン「村上春樹の小説も、ぜひ読んでみたいと思っています。人々が『バックルームズ』に関連して挙げている作品がどういうものなのか、純粋に興味があります。きっとあなたもお気づきの通り、『バックルームズ』がテーマとして扱っていることや語っていることのすべては、決して新しいものではありません。何千年もの間、人々はずっとそうした概念を芸術的に解釈し続けてきました。だからこそ、『自分はそうしたアートの歴史のなかでどの位置にいるのだろうか』と理解したくなるんです。『ほかに似たような発想にはどんなものがあるのか?』、『そうした先人たちとの大きな意味での対話の文脈のなかで、自分の作品はどこに着地しているのか?』。そういうことを自分の頭で理解しようと努めたいと思っています」

無限に続く黄色い壁紙の空間が、言葉にできない恐怖を誘う [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
無限に続く黄色い壁紙の空間が、言葉にできない恐怖を誘う [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――あなたがこれまでほかのインタビューなどで指摘してきた通り、『バックルームズ』はジャンルとしてのホラー映画ではありませんが、やはりホラー表現と実写というフォーマットにはほかにはない相性のよさがあるように思います。アニメーションやCGなどでもホラー表現は可能ですが、そこで“本当の怖さ”を生みだすのは相当難しいんじゃないかと常々考えているのですが、あなたの意見を聞かせてください。

ケイン「僕も似たような感覚を持っています。僕にとって、現実との繋がりを彷彿させる作品であればあるほど――ファウンド・フッテージ形式のフィクションが好例ですが――夜も眠れなくなるような恐怖を感じやすいんです。そう考えると、特にアニメーションはそこからかなり遠い位置にありますね。もちろん、アニメーションやCGでもダークな表現はできますし、ホラー作品としての切迫感や物語の重みを実写と同じレベルで持たせることは間違いなく可能です。ですが、個人的な感覚としては、恐怖を感じるためには、自分が認識している“現実”との強い結びつきが不可欠なのだと思います。アニメーションに限りませんが、表現におけるデフォルメ(抽象化)という概念そのものが、恐怖を感じるうえでは障壁になるように思います」

A24公認の『バックルームズ』日本オリジナルTシャツを着用してくれたケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂
A24公認の『バックルームズ』日本オリジナルTシャツを着用してくれたケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂

「自分が恐れているのは、あなたがいつか『映画なんて作ってもおもしろくない』と言って、ほかのジャンルに行ってしまうことです」(宇野)

――今後、長編映画の監督としての仕事はあなたのすべての仕事のうちで何%くらいを占めていくことになりそうですか?

ケイン・パーソンズ監督がYouTubeに投稿したシリーズ一作目の動画「The Backrooms (Found Footage)」は9400万再生を突破 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
ケイン・パーソンズ監督がYouTubeに投稿したシリーズ一作目の動画「The Backrooms (Found Footage)」は9400万再生を突破 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

ケイン「今回の映画制作は本当にやりがいを感じましたし、僕にとって初めて長編映画というフォーマットに向き合う機会になりました。長編映画は、特定の種類の体験を届けるのにはとても向いていると思います。ただ、なにかアイデアが浮かぶたびに毎回長編映画に戻ってきたいかというと、そういうわけではありません。現在温めているアイデアの多くは――むしろ大半と言っていいかもしれませんが――テレビシリーズやウェブシリーズのような、連続したシリーズ形式のフォーマットのほうが合っていると感じるものが多いんです。きっと自分は、一つのアイデアに対して(長編映画の標準的な時間である)90分以上の時間をじっくりとかけたいタイプなんだと思います。もちろん今回の『バックルームズ』のように、長編映画向きのアイデアもいくつか存在します。時間的に120分以内でコンパクトにまとまっているからこそ、観客や視聴者にとって消化しやすい題材もあって、映画には映画のよさというものも確実にあると思いますが、すべてはアイデア次第ですね。今後の数年間はゲーム関連の仕事にも挑戦したいと思っていますし、企画開発を進めているテレビシリーズのプロジェクトもいくつかあるので、しばらくはそれらを巡っていくことになると思います」

「これからも映画を作ることになると思う」と語ったケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂
「これからも映画を作ることになると思う」と語ったケイン・パーソンズ監督 撮影/興梠真穂

――例えば今年の作品だと『オデュッセイア』のような3時間前後ある作品を、あなた自身は映画館に行って観ることはありますか?あるいは、そこにハードルを感じたりしますか?

ケイン「作品の長さに対する抵抗感はありませんが、そもそも僕はあまり頻繁に映画館には行かないんです。行けば必ず楽しめるんですが、映画を観ること全般に対して同じ課題を抱えていて。なんて言ったらいいのか(苦笑)…映画を観てリラックスしていると、いつも頭のなかで『自分の仕事をするべきなんじゃないか』という声が聞こえてくるような感覚があるんです。その心の声に耳を傾けすぎて、結果的にあまり長編映画を観られないようになってしまいました。ただ、長さということに関して言えば、個人的には長い映画のほうが好きです。もちろん、その上映時間が効果的に使われている限りは、ですが」

本作はインターネット上の都市伝説「The Backrooms」が原案となっている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
本作はインターネット上の都市伝説「The Backrooms」が原案となっている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

――どうしてこんな質問をしたかというと、特にアメリカではあなたと同じくらいの若い世代の人たちが、IMAXのスクリーンで長い映画を観る体験そのものを支持していていると近年よく言われているからです。

ケイン「映画館という場所は、僕と同世代の人たちにとって、最後ではないにしても、ごくわずかな体験の重要なもののひとつであり続けています。インターネット時代にあっても、映画館というのはコミュニティ的な体験なんです。ひとつの場所に閉じ込められ、そこにいるすべての人とほとんど同じ感情と倫理の旅を共有でき、全員の意識が同じものに向けられるという体験には、非常に深く、ほとんど神聖とも言えるなにかがあると感じています。特に、現代のように情報が非同期化された時代において、それはとても稀なことです。僕はインターネットと共に育ち、ほかの多くの同世代と同じようにインターネットを使っていますが、映画館へ行くことが楽しめない体験になったと感じたことは一度もありません。常に魅力的な体験であり続けています。それは映画館という場所が、外の世界のあらゆるノイズを遮断し、気を散らされることなくひとつの物語と向き合うことができる、安全とまでは言えなくても、心地よい精神状態に連れ戻してくれるからなのだと思います」

――自分が恐れているのは、あなたがいつか「映画なんて作ってもおもしろくない」と言って、ほかのジャンルに行ってしまうことです。あなたのような優れた表現者に見捨てられたら、心配になってしまうので(笑)。

ケイン「僕としてはいま、長編映画というフォーマットを経験してみて、この業界の状況がどんなものなのかを把握している最中だと感じています。僕はもともと長編映画に憧れてこの仕事を始めたわけではありません。ですが、映画を取り巻くビジネス上の慣習が確立されているからこそ、いま自分が長編映画に惹きつけられているのだと気づきました。自分の意識が自然と向く物語の形は、多くの場合、長編映画とは別の場所なのですが、これからも映画を作ることになると思いますよ。少なくとも、ひとつの場所に集まり、ほかの観客たちと一緒に同時に映画に没入できるあの体験を作ることには、留まり続けたいと思っています。劇場体験が提供してくれるあの体験自体を、自分も大切にしたいと思っています」

弱冠21歳のケイン・パーソンズ監督は、迷いなく、真摯に宇野からの問いに答えてくれた 撮影/興梠真穂
弱冠21歳のケイン・パーソンズ監督は、迷いなく、真摯に宇野からの問いに答えてくれた 撮影/興梠真穂

――最後に、「映画的」という言葉を聞いた時、あなたは真っ先になにをイメージしますか?

ケイン「『映画的』という言葉を聞いて頭に浮かぶのは…これは僕個人の脳内での話なのですが、過剰な演出や、つやのあるレンズフレアのような、現実が誇張されたり様式化されたものを思い浮かべます。人生のドラマが視覚的、あるいは芸術的なエネルギーを持って大げさに表現されているようなイメージです。その画像が整っていればいるほど、巧みに演出されて細部まで意図的であればあるほど、自分のなかにある『映画的』という定義により近くなります。ただ、これはあくまでも個人的な感覚なので、『映画的』という言葉を自分が一般的な意味で定義づけられるとは思っていません」

取材・文/宇野維正

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