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戸田菜穂さんが語る、映画と女優への憧れ。「画面に映るのは、その人の生きざま」

  • 2026.8.29
ATSUSHI YAGI[SIGNO],HITOSHI FUJIMAKI,KEITA FUJIMAKI(ともにフレーム)

往年の映画の空気をまとう人

この秋、出演した映画が3本公開されるという戸田菜穂さん。10代のころからかつての映画の空気に憧れがあったという戸田さんに、映画のなかの美についてお話を聞きました。

画面に映るのは生きざま。だから日々丁寧に。

子どものころから映画の女性の佇まいに魅了されていたという戸田さん。

「フランス映画だったら『男と女』のアヌーク・エーメが真っ先に浮かびます。海辺で襟元を合わせるシーンなんて、大人の女性はなんて格好いいんだろうと観ていました。

昔の日本映画の女性たちの美しさも圧倒的です。スターがスターだった時代、ご本人たちはとても謙虚でいらっしゃいますが、それでも周りが放っておけない匂い立つような美しさがあったのではないかと思います。お化粧や照明の陰影などたくさんの力が、現実世界にはない極上の夢を見せてくれていました。

台詞も美しく、小津映画を観ていると正座やお辞儀姿も麗しい。私自身は昔の女優さんのように和事もできるようになりたくて20代で三味線や小唄、日舞を習いました」

映画に出る側になり、また年齢を重ねて。心構えは変わったのでしょうか?

「年齢とともにお芝居にも“自分”の生きざまや思想が出ることを感じています。前に原田美枝子さんが、後輩から『これからどうしたらいいのかよく聞かれるけれど“ちゃんと生きてください”と答えるだけです』とおっしゃっていました。シンプルだけれど、難しいですよね。私はなるべく心が静かに保てるように、人のことは気にしない、私は私の道を行く、と考えています。

そのためにできるだけゆったりとした生活をしようとしていて、SNSは入れず、スマホも普段は玄関に置いておくようにしています。一度、画面の設定をモノクロにしたことがあって、そうすると見る回数が激減したんです(笑)。代わりに新聞を読むのですが、映画の情報を切り抜いていたら、友人に笑われました」

逆に、何に時間を使うのでしょう?

「いわゆる“丁寧な暮らし”に憧れがあって、梅酒を漬けたりしています。そのひとつの拠り所が静岡の家です。草むしりをして土に触れたり、アジサイやミントを植えたり。夜は真っ暗ですが星が美しく、風が強い日は家が揺れて少し怖いのですが、五感をフルに使って人間本来の感性を呼び覚ましてくれるような気がしています」

ATSUSHI YAGI[SIGNO]

ジャケット/226,600円 シャツ/134,200円 パンツ/100,100円 (すべてマリナ リナルディ/マックスマーラ ジャパン) イヤリング/スタイリスト私物

お問い合わせ=マックスマーラ ジャパン
tel.0120-030-535

その繊細な感性で、タフな撮影現場を乗り切る秘訣はなんですか?

「もともとスポーツをしていたので体力はあると思います。でも、ストイックにジムに通って……ということはしていません。“対応力”も大切で、何事もサラッと受けること。不平を言っているとむしろ疲れてしまう気がします。あとはやはり日頃から早寝早起き、お肌のためにスープを作ったり、タンパク質を摂ったり。

ただ、お芝居中、私は見た目だけきれいに映りたいとは思っていないんです。観る側のときも、必死で何かをやっている人の目の強さにハッとさせられますから。映画はカメラマンや美術さん、すべてのプロフェッショナルが熱量をもって作り上げる『総合芸術』。

監督やカメラマンが凄い眼差しで私を撮影している、そんな生身の手触りがあるアナログな現場がたまらなく愛おしいんです。いまでも撮影の初日の前夜は緊張で眠れなくなり、初日は心臓の音がマイクに拾われるのではと思うほどなのですが、その新鮮な緊張感はこれからも大切にしたいと思っています。演じることは、心を使う仕事です。

作品を通してさまざまな人生の喜びをたくさん味わわせてもらっています。映画は作られた世界ではありますが、だからこそ噓がつけません。日々を丁寧に、幸福だと思って生きていたら、それが自然と美しさになって画面に表れるのではないかと思います。

私が素敵だなと思う女優さんは皆さん優しく温かい方。憧れの先輩たちのように、必死に、ひたむきに心を使って生きたいと思います」

戸田菜穂さんが繰り返し読む、映画美のヒント

HITOSHI FUJIMAKI,KEITA FUJIMAKI(ともにフレーム)

作家・映画評論家の川本三郎さんが、日本映画の黄金期を彩った憧れの“名女優”17人を訪ね、貴重な話を集めたインタビュー集。『君美わしく/戦後日本映画女優讃』川本三郎著(文春文庫)

憧れてやまないスクリーンの大先輩たち。美しいのは圧倒的な品格

©︎2026 映画「遥かな町へ」BARCOS

とだなほ●1974年、広島県出身。数々の映画やドラマで活躍。俳句や三味線を嗜む知性派としても知られる。2025年はNetflix「阿修羅のごとく」に出演。今秋は『遥かな町へ』『沖晴くんの涙を殺して』『ないものねだりの君に光の花束を』と出演作が3本公開予定。よく観る映画は高倉健さん主演の『駅/STATION』。

映画『遥かな町へ』(10月9日全国公開)。
48歳の主人公が故郷の鳥取・倉吉を訪れ、なぜか過去に迷い込み14歳の自分として家族と向き合うことに……。戸田さんは主人公の母として出演。
出演=大谷亮平 及川桃利 磯谷萌々子 戸田菜穂 滝藤賢一/脚本・監督=錦織良成 原作=谷口ジロー

撮影=八木 淳(シグノ) ヘア&メイク=岡田いずみ スタイリング=大沼こずえ(eleven.) 編集・文=本田リサ

『婦人画報』2026年9月号より

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