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妻「楽しめるうちにどうぞ」57歳の誕生日、妻にもらった数千円のマグカップが780万円のポルシェ911に変わった話

  • 2026.10.20
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出典:PIXTA(※画像はイメージです)

幼い頃からポルシェ911に憧れ続けてきたAさん。その夢は長年心に秘められていましたが、57歳の誕生日に妻から贈られたコーヒーカップを見た瞬間、人生が大きく動き出します。

それは憧れ続けた911への切符でした。予想外の展開を重ねながら、現在65歳となった彼が終の車と決めた一台と、夫婦の温かい絆の物語をご紹介します。

57歳の誕生日。妻が差し出した“数千円のポルシェ”

幼い頃に買ってもらったブリキの車から始まり、中学生の時にモーターショーで受けた衝撃から続く長い夢。Aさんにとってポルシェ911は、いつかは手に入れたいと心に描き続けてきた特別な存在だったそうです。しかし、ごく普通の会社員であったご本人にとって、それは決して手の届きやすいものではありませんでした。そのため、長年にわたり妻へ熱い思いを語りながらも、現実的には難しいかもしれないという思いも抱えていたようです。

そのような中で転機が訪れたのは、Aさんが57歳の誕生日を迎えた朝のことでした。いつものように妻が淹れてくれたコーヒーですが、よく見るとその器はポルシェのマグカップだったのです。驚くAさんに対して、妻からは、「楽しめるうちにどうぞ」という温かい言葉がかけられました。何十年も語り続けた憧れに対する、事実上の許可が下りた瞬間だったと言えるかもしれません。ご本人は、本当に買ってもいいのかと何度も確認してしまうほど舞い上がってしまったと、当時の心境を照れくさそうに振り返ってくれました。

気が変わる前に。現車を見ずに買った780万円の991型

妻からの思いがけない言葉を受けた後、Aさんの心にはひとつの焦りが生まれました。それは、妻の気が変わらないうちに行動しなければという、車好きの方であれば共感できるかもしれない切実な思いでした。すぐさまインターネットで中古車探しを始めたところ、四国の高松に約780万円で販売されている991型前期の個体を発見したそうです。

遠方であるため、妻からは実物を見に行ったらどうかと冷静なアドバイスがあったとのことですが、ご本人はそんな時間はないと振り切って購入手続きを進めてしまいました。人生で最も高額な車を現車確認なしで買うという決断に、ご夫婦の温度差が感じられて少し微笑ましく思えます。

しかし、いざ納車の日を迎えると、希望ナンバーが登録されていなかったり、ドアの内張りが浮いていたりと、いくつか問題が発覚しました。特に内装の不具合については、やはり実物を見ずに買ったのは失敗だったかと青ざめたそうですが、販売店が真摯に対応し、新品部品への交換などを丁寧に行ってくれたことで、ようやく心から安心できたそうです。こうして、念願の911ライフが無事に幕を開けました。

突然の全損。喪失感の中で選んだ“即納”の718ボクスターT

ようやく手にした夢の車との生活は、順風満帆に続くかに思われました。ところが、購入から約2年半後、赴任先の山梨県で予期せぬ事故に見舞われてしまいます。休日の昼下がり、走行中に車との衝突事故に遭い、大切に乗っていた911が後部を大破してしまったのです。

事故後、キャリアカーで運ばれていく愛車を前に、ご本人は何の感情も湧かないまま、ただぼーっと見つめていることしかできなかったと当時の深い喪失感を語ってくれました。幸い怪我はむち打ち程度で済んだものの、心に負った傷は計り知れません。その後、車体の修理は難しいと判断されてしまいます。

しかし、不幸中の幸いと言うべきか、車両保険などによりまとまった資金が確保できる見通しが立ちました。そのような悲しみに暮れる中で、ポルシェセンターから提案されたのが、即納可能な新車の718ボクスターTでした。価格は約1000万円と高額でしたが、保険金などの資金的余裕ができたことに加え、ショック状態の中で早く次の車を手に入れたいという焦りもあり、Aさんは購入を決断してしまったのだそうです。目の前にすぐ乗れるポルシェがあったことで、少し冷静さを失っていたのかもしれません。

性能ではなく911が欲しかった。3か月での決断

新車を手に入れて新たなカーライフが始まるかと思いきや、ご本人の中で次第にある違和感が膨らんでいったそうです。718ボクスターTは非常に素晴らしい性能を持った車ですが、Aさんにとっては、運転している時の高揚感が以前の911に比べて少ないと感じるようになったと言います。さらに妻もまた、長年911に憧れていた夫があっさり別のモデルに乗り換えたことや、エンジン音の違いなどに気づき、何か違うと感じていたそうです。

ポルシェなら何でもよかったわけではなく、やはり911独特のフィーリングが欲しかったのだという、ご本人の本質的な思いが浮き彫りになった瞬間でした。

その結果、Aさんは密かに再び911を探し続け、運良く状態の良い991型前期を発見します。そして、新車の718をわずか3か月、約750万円で売却するという痛手を受け入れてでも、再び約900万円の911に戻る決断を下しました。これほどの大きな金銭的負担が生じたにもかかわらず、妻は文句を言わず、やっぱり911に戻るのだねと静かに見守ってくれたのだそうです。長年夫の夢を理解し、寄り添い続けてきた妻の懐の深さが窺えるエピソードです。

玄関に飾られたマグカップ。「終の車」とともに歩む日々

このような紆余曲折を経て、現在65歳になられたAさんは、再び手に入れた911を終の車として大切に維持し続ける覚悟だと穏やかに語ってくれました。年金生活に入っても、ご自身が運転できる限りはこの車とともに歩んでいくおつもりのようです。そして、もう妻には頭が上がらないという言葉の通り、現在の911のナンバープレートは妻の誕生日に設定されているとのことです。長年車道楽を許し、買い替えにも寄り添ってくれた妻への、ご本人なりの深い感謝の表れと言えるのではないでしょうか。

物語の最後にお伝えしたいのは、すべての始まりであるポルシェのマグカップの現在についてです。実はこのマグカップ、食器棚の奥にしまわれているわけではなく、今もご自宅の玄関に大切に飾られているそうです。約780万円の車でもなく、約1000万円の車でもなく、Aさんの背中を押し、人生で一番高い買い物のきっかけを作ったのは、価格では計れないこの数千円のマグカップでした。玄関を通るたびに、妻が夢を許してくれた日の喜びを思い出し、これからもその感謝を胸に走り続けていくのだと思います。



ライター:Masaki.N
自動車メーカーで車体開発エンジニアとして設計・先行開発に携わった後、マーケティング/市場リサーチ領域で商品導入・訴求設計にも従事。さらに自動車サブスク系ITベンチャーでマーケティングを担当し、ユーザー視点のコミュニケーション設計を経験。現在は自動車ライターとして、新車情報、技術解説、モデル比較、中古車相場、維持費、業界動向まで幅広く執筆。SEO記事・コラム・インタビューなど媒体横断で制作し、専門知識を生活者の言葉に翻訳して「買う/持つ」の判断を支援します。加えて、カスタムを含む実車取材・体験を通じて得た一次情報を記事に落とし込み、机上の知識にとどまらない“現場感”のある解説を強みとしています。


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