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訪問看護でバイタル異常なし、本人も「大丈夫」と答えているが…看護師が見逃さなかった“重要な違和感”

  • 2026.9.17
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターこてゆきです。

訪問看護では、血圧や体温、脈拍などのバイタルサインを確認することも大切な仕事です。

しかし、毎週のように同じ患者さんのもとへ訪問していると、数値だけでは分からない変化に気づくことがあります。

「今日はなんとなく違う」

そんな小さな違和感です。

今回紹介するのは、慢性心不全で訪問看護を利用していた高齢女性のAさんとの出来事です。

バイタルサインには大きな変化がありませんでした。本人も「大丈夫」と話していました。それでも私は、いつものAさんとは少し違うことが気になり、生活の様子を一つずつ確認することにしました。

「こんにちは」と声をかけると、いつもと違う返事

Aさんは普段から、訪問するとよく話してくれる方でした。

「こんにちは。今日もお願いします」

玄関を開けると、

「こんにちはー。今日は暑いね」

「そうですね。最近、テレビ何見てます?」

「昨日はね、ずっと○○見てたんですよ」

そんなふうに、こちらが聞かなくても最近の出来事を話してくれることがよくありました。

ところが、その日の訪問では少し様子が違いました。

「こんにちは、Aさん。お邪魔しますね」

「…はい」

「体調どうですか?」

「大丈夫です」

返事は返ってきます。

ただ、それだけでした。

「昨日は何して過ごしてたんですか?」

「特に…」

いつもなら、

「昨日はテレビ見てたよ。夜は娘が電話してきてね」

など、話が続くAさんです。

しかし、その日は質問をしても一言で終わってしまいます。

最初は、

「今日は眠たいのかな」

くらいに考えていました。

バイタルは問題なし。でも、なぜか気になる

まず、いつも通りバイタルサインを確認しました。体温、血圧、脈拍などに大きな変化はありません。

「血圧もいつもと大きく変わらないですね」

そう伝えると、Aさんは、

「でしょう?何ともないですよ」

と笑いました。

本人の表情も極端に悪いわけではありません。呼吸苦を訴えているわけでもありません。

「じゃあ、今日は大丈夫かな」

そう思って次の確認へ進みかけました。

しかし、どうしても引っかかります。返事が短い。それだけです。

病気の明らかなサインがあるわけではありません。

それでも、普段のAさんを知っているからこそ、

「いつもと違う」

という感覚が残りました。

私はもう一度、Aさんの周囲を見渡しました。そこで、いくつか気になることに気づきました。

「あれ?いつもと違う」看護師が見つけた小さな変化

普段なら、訪問するとAさんが自分で血圧手帳を出してくれます。

「これ、昨日の分も書いといたよ」と、手帳をテーブルの上に置いて待っていてくれることもありました。

ところが、その日はありません。

「Aさん、血圧手帳はどこにありますか?」

「ああ、えっとね…そこらへんにあると思う」

いつもなら自分から出してくれるのに、その日は探そうとする様子もありません。さらにダイニングテーブルを見ると、前日の食事が残っていました。

「これ、昨日のご飯ですか?」

「うん」

「食べました?」

「…ちょっとだけ」

ここで、もう一つ気になりました。普段のAさんは、訪問すると自分で歩いて玄関まで来てくれます。

ところが、その日は玄関まで来ず、椅子に座ったままこちらを待っていました。

「今日は玄関まで来てくれなかったですね」

そう声をかけると、

「今日はちょっと疲れてるだけ」

とAさん。

本人にとっては、本当に「疲れているだけ」だったのかもしれません。

でも、私はもう少し確認することにしました。

「昨日はちゃんと食べました?」

「Aさん、昨日の夜はちゃんと食べました?」

「うん…まあ」

「いつもくらい食べられました?」

「いや、あんまり」

「食欲がなかったんですか?」

「そうね。あまり食べる気にならなくて」

少しずつ話を聞いていくと、前日の夜から食欲が落ちていたことが分かりました。

「水分はどうですか?」

「飲んでますよ」

「いつもと同じくらいですか?」

「…たぶん」

そこで、テーブルに置かれていたペットボトルを確認しました。

普段なら訪問までにある程度減っているはずなのに、その日はほとんど手つかずでした。

「これ、昨日からの分ですか?」

「そうかもしれない」

Aさん自身も、そこまで意識していなかったようでした。

「息苦しさはないですか?」

「ないですよ」

「横になると苦しいとか、ありませんか?」

「それはない」

「足のむくみはどうですか?」

「…そういえば、ちょっと靴下がきついかな」

そこで、下肢の状態も確認しました。

すると、普段より浮腫がみられ、体重も以前と比べて増加していました。

本人が「苦しい」と感じるほどではなくても、心不全の悪化を疑う変化がいくつか重なっていたのです。

「苦しいってほどじゃないから、言わなくてもいいと思ってた」

確認を続けると、Aさんがぽつりと話しました。

「昨日からちょっとしんどかったんですけどね」

「そうだったんですね」

「でも、苦しいってほどじゃないから。看護師さんに言わなくてもいいかなって」

その言葉を聞いて、私は少し驚きました。

Aさんにとっては、「苦しくない=伝える必要はない」という感覚だったのです。

けれど、慢性心不全の患者さんにとって、体調の変化は必ずしも「息が苦しい」という分かりやすい症状から始まるとは限りません。

食欲が落ちる、水分摂取量が変わる、体重が増える、足がむくむ、動くのがおっくうになる。そして、いつもより元気がない。

1つ1つは、「今日はちょっと疲れているだけ」と思ってしまいそうな変化です。

今回も、バイタルサインだけを見れば大きな異常はありませんでした。

「いつもと違う」を見逃さない

その後、必要な情報を整理して主治医へ報告し、今後の対応について相談しました。

Aさん自身は、「そんなに悪いとは思ってなかった」と話していました。

私自身も、最初から「心不全が悪化している」と分かっていたわけではありません。

ただ、

「いつもより返事が短い」
「いつもなら自分で出す血圧手帳が出ていない」
「食事が残っている」
「玄関まで来ない」

という小さな違いが重なっていたことが気になったのです。

1つだけなら、見過ごしていたかもしれません。

でも、普段のAさんを知っていたからこそ、「いつもと違う」という感覚が残りました。

訪問看護では、毎回同じように体温や血圧を測定して、身体状態を確認します。

しかし、それだけではありません。

玄関まで歩いてくるのか、いつもの場所に座るのか、会話は普段通り続くのか、食卓に食事が残っていないか。

本人がいつも自分で行っていることを、今日はしているのか。

そうした生活の中の小さな変化も、重要な情報になります。

「何ともない」という言葉の奥にあるもの

Aさんは嘘をついていたわけではありません。本当に「何ともない」と思っていたのだと思います。

苦しくない、熱もない、血圧も大きく変わっていない。

だから、自分では大きな体調変化とは感じていなかったのでしょう。

でも、本人が「大丈夫」と感じていることと、身体に変化がないことは必ずしも同じではありません。

特に、毎週のように訪問している看護師だからこそ分かる「いつもの姿」があります。

普段よく話す人が、今日はほとんど話さない。

いつも自分でできていることを、今日はしていない。

そんな小さな違いが、体調変化の入り口になっていることがあります。

今回の出来事を振り返って、私は改めて「数値を見るだけではなく、その人を見ること」の大切さを感じました。

看護師にとっては何気ない一言だった、

「今日はなんとなく静かですね」

という気づき。

それが、本人も気づいていなかった体調変化を確認するきっかけになることがあります。

「大丈夫です」と言われたときこそ、その言葉だけで終わらせず、「いつもと比べてどうだろう?」と考えてみる。

訪問看護の現場で、そんな小さな違和感を大切にしていきたいと思った出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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