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50代男性「病院に行けないので、前と同じ薬が欲しい」“処方箋なし”で駆け込んできて…無茶な要求に薬剤師が取った対応は?

  • 2026.9.17
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

「今日は忙しいから、診察なしで前と同じ薬だけ出してほしい」と窓口で強く求めた50代の男性会社員。制度上できないことを丁寧に説明しても引き下がらず、10分以上の押し問答に。

しかし、ふと投げかけた一言をきっかけに、彼が受診を避けたかった本当の理由が見えてきました。

閉局間際、駆け込んできた男性の強い要望

調剤薬局で薬剤師として働いていると、さまざまな事情を抱えた患者さんと出会います。

9月上旬の平日、閉局まであと15分という時間帯に当薬局には初めて来局された方でした。処方箋を持たないまま、決して引き下がらない姿勢の裏には、単なる無理難題では片付けられない事情がありました。

「前と同じでいいから」の繰り返し

9月上旬の平日、閉局まであと15分という時間帯でした。ガラス戸を勢いよく開けて入ってこられたのは、50代前半のスーツ姿の男性Eさん。当薬局は初来局の方でした。

「前にもらってた薬と同じやつ、出してもらえますか」

開口一番、そう告げられました。

処方箋の提示を求めると、

「今日は病院に行ってないんです。忙しくて。でも薬は切れそうで、いつも飲んでるやつと同じでいいので」

との返答。

ご事情は理解できるものの、処方箋なしで医療用医薬品をお渡しすることはできません。

「申し訳ありませんが、お薬のお渡しには処方箋が必要です。

かかりつけの病院で受診されるか、時間外の場合は近くの救急外来をご案内することもできます」

と、丁寧にお伝えしました。

しかしEさんは引き下がりません。「前と同じでいいから」「一回分でも構わない」「なんとかならないのか」と、10分近く同じやりとりが続きました。声を荒げるわけではないものの、諦める気配がありませんでした。

他のスタッフも投薬を終え、閉局作業に入りかけている時間帯です。

話題を変えた一言で見えてきた本当の事情

押し問答を続けても平行線。そこで話題を少しだけ変えたことで、彼が本当に避けたかったものの正体が姿を現しました。

受診を避けたかったのは“医師の顔”ではなかった

このまま平行線を辿っても仕方がないと感じ、少し話題を変えてみました。「Eさん、お仕事、今の時期お忙しいんですか?」

すると、Eさんは一瞬言葉に詰まった後、こう打ち明けられました。

「……忙しいのは忙しいんですけど、それだけじゃないんです。実は病院に行くと、血圧の数値見て先生に絶対怒られるんですよ。最近、仕事のストレスで食生活もめちゃくちゃで、多分数値もひどいと思うんです。それが分かってるから、行きたくなくて」

受診を避けたかったのは、医師の顔ではなく、「叱られること」そのものでした。

数値が悪いことを自覚しているからこそ、診察室に入る気力が湧かない。でも薬は切らせない。その板挟みの結果が、今日の来局だったのです。

「そのお気持ち、分かります。ただ、数値が悪いときこそ、先生も現状を把握したいはずですし、Eさんの体を守るためにも一度きちんと受診されることをお勧めします」とお伝えしたうえで、こう続けました。

「もしよろしければ、明日の朝一番で受診されて、その足でこちらにお越しください。処方箋を持ってきていただければ、待ち時間なくお渡しできるよう準備しておきます」

Eさんはしばらく黙った後、「……そうですね、明日行きます」と頷かれました。

無理な要求の裏にある“言い出せない事情”を汲む

この一連のやりとりから、無理な要求への向き合い方について考えさせられることが多くありました。

規則の説明と共感、両立させる伝え方

翌日の午前、Eさんは本当に処方箋を持って来局されました。

「昨日はすみませんでした。先生にも正直に生活のことを話したら、怒られはしましたけど、薬の内容を少し調整してくれました」

そう笑いながら話してくださった顔は、前日の切羽詰まった表情とはまったく違うものでした。

この一件で改めて感じたのは、無理な要求を口にする患者さんの多くは、その裏に「言い出せない事情」を抱えているということです。

「規則ですから」の一言で突き放してしまえば、Eさんはそのまま受診を避け続け、症状が悪化していた可能性もあります。逆に、規則を曲げて薬をお渡ししてしまえば、それこそ患者さんの健康を害することになります。

大切なのは、規則を守りつつ、その方が本当に困っている理由に一歩踏み込むことです。

「なぜ今日、そう言いたくなったのか」を尋ねるだけで、対応の糸口が見えてくることがあります。

読者の皆さんの中にも、「病院に行くのが億劫」「数値が悪いのが分かっているから足が向かない」という方がいらっしゃるかもしれません。そんなときこそ、まずはかかりつけの薬剤師に相談してみてください。

受診のハードルを下げるお手伝いができることも、私たちの仕事のひとつだと思っています。


ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々の中で、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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