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キリンの「ひづめ」が伸びると、命にかかわる…人も命がけで積み重ねてきた、動物園の挑戦【北海道帯広市・おびひろ動物園】

  • 2026.8.23

数多くの「絶景」を持つ北海道。
観光情報にはなかなか載っていない、「日常の絶景」も多くあります。

HBC帯広放送局のカメラマン・大内孝哉さんが撮影した北海道の景色をご紹介する連載「テレビカメラマンがとらえた“一瞬”の北海道」。

今回は番外編です。全国で数人だけしか持たない技術でキリンの命を守る飼育員と、キリンの家族の様子を取材しました。

キリンの命を守るための挑戦

Sitakke

北海道・十勝の帯広市にある、おびひろ動物園。

1963年に開園。札幌の円山動物園に次ぐ、北海道で2番目に開園した歴史のある動物園です。

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65種類、およそ290の動物が暮らしています。

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「アミメキリン」の家族です。
動物園の中でも、この一家は子どもたちの人気の的です。

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メープル(12)

「メープル」は一家のお父さん。

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左:ユメタ(4)右:ユルリ(9)

お母さんは「ユルリ」、子どもの「ユメタ」は4歳です。

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この家族の飼育を担当しているのが、片桐奈月(かたぎり・なつき)さんです。

キリン担当になって8年目。キリンたちが一番に信頼を置いている飼育員です。

「キリンはやっぱり表情が豊かなので、顔を見ると色々な表情をしていて魅力的」と教えてくれました。

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片桐さんには、キリンの命を守る大切な作業が待っていました。

キリンの「ひづめ」が命にかかわる

片桐さん「通常のひづめであればまっすぐ前に向かって生えているのですけど、それが後ろ脚を見ると、少し外側に伸びていっています。ここが余計な部分、ひづめが伸びてきているところですね」

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左:通常のひづめ 右:伸びたひづめ

片桐さん「ひづめが伸び続けると重心がずれて、関節が開いていく。その後、歩き方が悪くなっていって、そのまま放置していると関節炎とか炎症が出てきて、今度は立ったり座ったりが難しくなってしまう」

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提供:おびひろ動物園

この状態を「過長ひづめ(かちょうてい)」といいます。

手入れができずにいると前方に長く伸びていってしまいます。
最悪の場合、死につながります。

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身長はおよそ5メートル。長い脚が1トンもの身体を支えます。
メープルは「削蹄(さくてい)」と呼ばれるケアが必要でした。

しかしキリンは野生動物。

警戒心も強く、環境の変化にも敏感。
思わぬ一撃を受ける危険性もあり、キリンのひづめに触れることは容易ではありません。

キリンの「ひづめ」が命にかかわる

桜が咲き誇る4月。

「命を守る」トレーニングが始まりました。

まずはひづめに触ることができるのか、柵に寄せることができるのか。反応を細かく確認しながら作業は始まります。

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その作業に慣れてくると、ノコギリやハサミを入れ、伸びたひづめを少しずつカットしていきます。

しかし、キリンのひづめは硬い。何かに例えるなら「乾いた木材」のよう。ときには石のように固くなります。

メープルも何か少しでも嫌なことがあれば、片桐さんのそばから離れていってしまいます。

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そしてキリンのひづめを削蹄する専用の道具もありません。ホームセンターで売っている道具を駆使することも。

片桐さんも試行錯誤をしながら作業を進めていきます。

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片桐さんは休憩中も、目を離すことはありません。

片桐さん「危ないことをしていないかとか、休んでいるか、何をしているかをとりあえず見ています。昼休みも」

「彼らのいつもの顔を見ているのが私の幸せなので」

野生のキリンはどうしている?

では野生のキリンはどうしているでしょうか。

野生のキリンは、南アフリカの広大な荒野を広範囲に行動します。
さまざまな質感の荒野を走り回るだけで、自然とひづめは削られていくのです。

たんぽぽも綿毛へと変わってくる5月。

トレーニングを開始して一ヶ月がたちました。

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「ガリ…ガリ…ガリ…」

硬い質感を削る音が響きます。

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片桐さん「メープル嫌だ?これ、大丈夫でしょ?」

ひづめの裏を平らに整える、最も重要な工程が始まりました。

ヤスリを使い削っていきますが、痛くはないそうです。

麻酔をかけて眠っている間に削ってしまえばと思う方もいるかもしれませんが、これだけ首が長い動物に麻酔が効き始めると、いきなり倒れて壁に頭を打ったり、胃の内容物が逆流し詰まったり、血圧の管理も大変だといいます。

麻酔のリスクは大きく、キリンは「麻酔をかけたくない動物」といわれています。

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片桐さんは6年前に、道内で初めて麻酔なしの削蹄を成功させました。

そして、この作業を出来る飼育員は全国で数人といわれており、その中の一人が片桐さんです。

メープルは2020年に片桐さんの手により、一度削蹄に成功しています。

しかし、その後は新獣舎への引越しトレーニングなどが重なり、思うようにトレーニングができませんでした。

その間に少しずつ、ひづめは伸びていきます。

第一印象は「こわい」だったけれど…

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削蹄時、片桐さんの隣で補助を担当しているのは、西村彩夏(にしむら・あやか)さんです。

東京都出身、大学進学を機に帯広へ。その後、帯広市役所へ入庁し、2025年の4月からおびひろ動物園で働いています。

現在はラマや、アメリカンビーバーなどを担当しています。

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西村さん「キリンの第一印象は『怖い』でした。キリンの削蹄風景を見ていて、シンプルにすごいなと感じています。でもすごいなと思うだけではなく、自分もやっぱりこれをできるようにならなければいけない、すごいなと思うだけではだめだ!という気持ちになっています」

片桐さんの技術を引き継ぐ貴重な後継者です。

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西村さんも現在、ユメタを柵に横付けさせるトレーニングを片桐さんと一緒に進めています。

実は柵にキリンの身体を横付けさせること自体がとても時間がかかる大変なトレーニング。

西村さんもユメタとの信頼関係を築くため、日々奮闘中です。

何度も積み重ねて

Sitakke

太陽の日差しが身体に刺さるように強くなり、入道雲が湧き始める7月。

夏に入っても削蹄作業は続いていました。

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削蹄はメープルの機嫌によって、その日の作業は変わります。

メープルの集中力がない日は全く削ることができず、雨や風が強い日、暑い日にも作業は中断されます。

一度や二度の作業では決して終わりません。

月日をかけながら少しずつ、少しずつ、ひづめを削っていきます。

片桐さん「大変な作業なんですけど、地味な作業です。でもやっぱりそこが命を守るというか、キリンを助けることにつながっていると思う。精一杯やって助けたい」

キリンも人間も命がけ

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ひづめは本来の形に

くる日も、くる日も作業を繰り返し、メープルのひづめは本来の姿に近づいてきました。

Sitakke

片桐さん「本当に命を守る作業かなと思っていて、そのときそのとき、最善を尽くしてキリンに向き合うことが、飼育員としては大事なのかなと思う」

西村さん「人間側も危険が伴う作業。命懸けでこちらも削蹄をして、キリンの命を守る。全力でやらなければいけない作業」

Sitakke

これから削蹄はできそうですかと尋ねると、「できそうというよりやる!やらないと守れないので!やるしかないですよ」と話します。

お二人の笑顔の先には、命を守っていくという強い信念を感じます。

Sitakke

命を守るため。
きょうもまた、一歩ずつ信頼を重ねていきます。

***

いかがでしたでしょうか?

動物園の裏方の仕事は多岐に渡り、その中には決して手を抜くことができない、動物の命に直結する作業があります。

撮影を通して、私たちが動物園に行き、いつもの楽しい雰囲気、動物たちの明るい表情、愛くるしい仕草を見ることができるのは、飼育員さんが愛情を持って動物たちに接しているからなのだということを実感しました。

最後までご覧いただきありがとうございました。

連載「テレビカメラマンがとらえた“一瞬”の北海道」

撮影・文:HBC帯広放送局 大内孝哉
2015年からテレビカメラマンとして、主にニュースやドキュメンタリーを撮影。担当作品に映画/ドキュメンタリー「ヤジと民主主義」「クマと民主主義」や、ドキュメンタリー「核と民主主義」「ベトナムのカミさん〜共生社会の行方〜」「101歳のことば ~生活図画事件 最後の生き証人~」など。
2023年10月から帯広支局に異動。インスタグラム@takayasunset0921では、プライベートで撮影した北海道の写真を公開中。

編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は記事執筆時(2026年8月)の情報に基づきます

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