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大作を撮り続けるなかで感じた“渇き”… ヨン・サンホ監督とパク・ジョンミンが明かす『顔 -かお-』自主制作への挑戦

  • 2026.8.23

『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)やNetflixオリジナルシリーズ「地獄が呼んでいる」「寄生獣 -ザ・グレイ-」などで知られるヨン・サンホ監督が長年構想を温めてきた『顔 -かお-』(8月28日公開)。40年前に失踪した母ヨンヒの白骨遺体を発見されたことをきっかけに、主人公のドンファンが顔さえ知らない母の人生をたどっていくサスペンス・ミステリーだ。来日したヨン・サンホ監督と、主人公ドンファンとその父親ヨンギュの一人二役に扮した主演のパク・ジョンミンに、本作誕生の背景や低予算、インディペンデントな制作環境に挑んだ裏側などを語ってもらった。

【写真を見る】息ぴったりのヨン・サンホ監督とパク・ジョンミン!見つめ合う和気あいあいカットを撮りおろし

『顔 -かお-』で3度目のタッグを組むヨン・サンホ監督とパク・ジョンミン 撮影/興梠真穂
『顔 -かお-』で3度目のタッグを組むヨン・サンホ監督とパク・ジョンミン 撮影/興梠真穂

「市場に好まれるような作品ばかり撮っているのではないか? という渇きのようなものがありました」(ヨン・サンホ監督)

――監督の作品はエンターテインメント色の強い大作が多いイメージですが、なぜ今回『顔 -かお-』を製作しようと思ったのでしょうか?

ヨン・サンホ監督「最初に『顔 -かお-』の脚本を書いたのは随分前のことで、ちょうど『我は神なり』を作っていた時でした。次の作品として、インディペンデントのアニメ映画を構想していました。『ソウル・ステーション/パンデミック』と『顔 -かお-』の2本が候補だったのですが、周りから『社会的な作品が続いているから次はジャンルものをやってみては?』と言われて『ソウル・ステーション/パンデミック』を撮ることにしたのです。それが自然と『新感染 ファイナル・エクスプレス』につながっていき、『新感染 ファイナル・エクスプレス』が予想外のヒットを記録したので、その後長い間、実写の大作が続きました。『顔 -かお-』を映画化するのは難しいのでは、と思いながら、漫画というかたちで執筆を続けていました」

『新感染 ファイナル・エクスプレス』より前から温めてきた企画がいよいよ実写映画化 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
『新感染 ファイナル・エクスプレス』より前から温めてきた企画がいよいよ実写映画化 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

――そして2018年に「顔」のグラフィックノベルが韓国で発売されました。

ヨン・サンホ監督「いろんな作品を撮っているうちに時間が経ちましたが、自分のなかに、市場に好まれるような作品ばかり撮っているのではないか? という渇きのようなものがありました。当時、私は黒沢清監督やエドワード・ヤン監督などアジアの巨匠の作品をたくさん観ていました。ちょうど、その頃『ガス人間』の脚本を書いていたのですが、監督を探している時に片山慎三監督を紹介してもらいました。片山監督の『岬の兄妹』を観たら、低予算ながらもすばらしい作品に仕上がっていて、嫉妬のようなものを覚えたのです。『自分にも、このような低予算の作品が作れるのだろうか?』と考えるきっかけになりました。『顔 -かお-』は出資を受けず自主制作のような形で作ろうと思い、妻に相談したところ、快く『10年間頑張ってお金を稼いできたのだから、好きなようにしたらどう?」と言ってくれて。妻の許可が下りた翌日すぐに、パク・ジョンミンに電話をしたら、彼はなにを思ってか『いいですね』と即答してくれたのです(笑)。その後、製作はスピーディに進みました」

――パク・ジョンミンさんは、その電話を受けた時、どう思ったのでしょう?

パク・ジョンミンは一人二役で、息子ドンファンと父ヨンギュを演じる [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
パク・ジョンミンは一人二役で、息子ドンファンと父ヨンギュを演じる [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

パク・ジョンミン「監督と仕事をするのはいつも楽しいのですが、短期間で撮れるチャンスを与えてもらえて、とにかくおもしろそうだなと思いました。かなり前に、グラフィックノベルの単行本をプレゼントしてもらって、それを読んだらすごく良かったのを覚えていたので、すぐに引き受けることにしました。監督からは最初、息子のドンファン役をオファーしてもらったのですが、息子だけではなく若き日の父親役も演じたらおもしろそうと思い、父親役も僕に演じさせてもらえませんか?と提案したところ、監督もそうしようと言ってくださり、一人二役という形で参加することが決まりました」

――そうだったんですね。

パク・ジョンミン「より正確にお伝えすると、若き頃の父親役は誰を念頭に置いていらっしゃるんですか?と質問したところ、監督は僕の質問の意図をすぐに把握されて、『一人二役も考えているよ』と答えたのです」

「映画の美学とは『プロダクションにおける欠乏』なのかもしれない」(ヨン・サンホ監督)

――今回、時間やスタッフの制約があるなど低予算での製作という環境下で、今後の糧となった経験や発見はなんですか?また、最も苦労した点はどこでしょうか?

低予算で制作された本作 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
低予算で制作された本作 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

ヨン・サンホ監督「私はキャリアの初期にインディペンデントのアニメを作っていましたが、インディペンデントで実写作品を撮るのは初めてだったので、クオリティを担保できるのだろうか…という不安はありましたが、それ以上に、新しいことにチャレンジしたいという想いが強かったのです。そしてパク・ジョンミンさん、クォン・へヒョさん、シン・ヒョンビンさんといったすばらしい俳優たちと、商業映画の世界でもトップクラスのスタッフたちが集まってくれたので、撮影に入ってすぐに、その不安は消えました。この映画の製作で気づいたのが、ある意味、映画の美学とは『プロダクション(映画製作)における欠乏』なのかもしれないと思いました。予算がないなか、それを埋めるべく現場にいる人たちが数多くのアイデアを出し合ってくれました。俳優陣も無駄なくスピーディに撮らなければいけない環境に置かれ、短時間でできる限りの能力を発揮しようと努めてくれました。プロダクション的な欠乏がむしろ役立っていたのではないかと思いましたね」

パク・ジョンミン「商業的なプレッシャーは比較的少なく、そういう意味では演技における自由度が広がったと感じました。一定以上の動員数を確保するために、安定的な選択をする必要がないというメリットがあったと思います。苦労したのは撮影の時間が足りないということ。僕の場合、自分が感じる‟演技の正解“に近づくためにどうすべきか?という大きな不安を抱えている人間なので、テイクの数が多ければそれだけ気持ちも落ち着きますし、安全だと思えますが、今回はテイクを重ねられないという状況だったので、自分の不安をコントロールするのが難しかったですね」

――先ほど黒沢清監督や片山慎三監督の名前も挙がりましたが、改めてヨン・サンホ監督にとって大切な日本の作品や作家を教えてください。

数々の大ヒット作を手掛けたヨン・サンホ監督が大切に思う日本の作品は? 撮影/興梠真穂
数々の大ヒット作を手掛けたヨン・サンホ監督が大切に思う日本の作品は? 撮影/興梠真穂

ヨン・サンホ監督「たくさんあるんですけど、『ガス人間』を作る際に、奥田英朗さんの小説『オリンピックの身代金』から大きな影響を受けました。また、『ガス人間』や『地獄が呼んでいる』では、漫画『20世紀少年』の影響もあったと思います。一方、『顔 -かお-』を振り返ってみると、劇画の創始者とも言われる、漫画家の辰巳ヨシヒロさんからも多大な影響を受けましたね。また、製作に入る前に、低予算でいかに時代を見せるかという部分について『血と骨』を繰り返し観ました。なにか巨大なものではなく、街角や小さな町一つで、その時代の流れを見せることができると思えました。以前から塚本晋也監督が大好きですし、日本の作品からは様々な影響を受けています」

――顔を知らない母親が白骨死体として突然戻ってくるという強力なフックがある作品ですが、このお母さんの存在について、お2人はどう捉えていますか?

40年前に非業の死を遂げ、“顔”を消し去られた女性 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
40年前に非業の死を遂げ、“顔”を消し去られた女性 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

ヨン・サンホ監督「戻ってくる、という言葉が合っているなと思いました。最初にお母さんが白骨の状態で戻ってきますが、その時、息子ドンファンのなかにはこれといった感情はなかったと思うんです。でも、お母さんの足跡をたどる過程で、母親がチョン・ヨンヒという一人の女性であることを受け入れていくわけです。韓国には『コク(哭)』という文化があります。誰かが亡くなると、葬儀の時に『アイゴーアイゴー』と言いながら泣くんです。特に感情があるわけではなく、嘆くだけなんですけど。最初にドンファンが遺体を見た時は、別に感情はなかったと思うのですが、お母さんのことをたどっていく最後に、彼の心の中から出てくる『コク』というものを、この映画で描きました」

パク・ジョンミン「イム・ドンファンという人物を演じていて難しいなと思ったのが、彼はそれまで不満もなく幸せに過ごしていましたが、母親が白骨で戻ってきて、自分のルーティンが崩れてしまうんですね。そのことに彼は不満を感じていたと思うんです。とにかく早く生活を整理したい、と尽力するわけです。でも、彼がすごいのは、40年間存在すら知らなかった人物を捜しにいくことです。もちろん、自分が望んでそうするわけではなく、番組のプロデューサーに言われてついていくわけですが、そういう彼の行動を見ていて、思っていた以上に育っててくれた父親のことを愛していたんだなと思いました。もし自分だったら、彼と同じような選択はしなかったのではないかと思います」

「自分はこういうことができる人間だったんだな、と発見することができました」(パク・ジョンミン)

――パク・ジョンミンさんは第62回百想芸術大賞の最優秀演技賞を受賞しました。改めて、本作に出演した意義をどう考えていますか?

第62回百想芸術大賞の最優秀演技賞を受賞した、パク・ジョンミン 撮影/興梠真穂
第62回百想芸術大賞の最優秀演技賞を受賞した、パク・ジョンミン 撮影/興梠真穂

パク・ジョンミン「そうですね…。この映画でいい成果を得たのはうれしいこと。でも、賞というのは、後から付いてきた贈り物だと考えています。僕は通常、映画に参加する時や演技をする時は、やってはいけないことを削除していくクセがあるんです。この映画の場合、演技の制約はないのですが、限られたテイクで撮らなければいけなかった。なにをしてはいけないかを考えるのではなく、とにかくなにを成し遂げなければいけないのか、果敢に演技に臨むことができたと思います。それによって、自分はこういうことができる人間だったんだな、と発見することができました。それがこの映画に出演した大きな意義なのではないかと思います」

――パク・ジョンミンさんはノーギャラでこの映画に出演されたという噂を聞きましたが、これは本当でしょうか?

パク・ジョンミン「本当です。冗談でギャラをくださいって言ったんです。けど、やっぱり、いいですって言いました(笑)」

ヨン・サンホ監督「私はなんでもらわないんだろう?と思いました(笑)」

【写真を見る】息ぴったりのヨン・サンホ監督とパク・ジョンミン!見つめ合う和気あいあいカットを撮りおろし 撮影/興梠真穂
【写真を見る】息ぴったりのヨン・サンホ監督とパク・ジョンミン!見つめ合う和気あいあいカットを撮りおろし 撮影/興梠真穂

――この映画は韓国で動員100万人のヒットを記録しました。この結果をお2人はどう受け止めていますか?

ヨン・サンホ監督「正確に言うと動員は107万人です」

――あ、失礼しました!

パク・ジョンミン「(爆笑)」

ヨン・サンホ監督「私たちにとって、1万の単位が重要なのです(笑)。実は、この映画は韓国公開前に海外に権利が売れていて、損益という点ではあまり心配はしませんでした。ですが100万人というのは象徴的な数字で、個人的には一生懸命作った作品なので、私たちの映画もそうですが、低予算で製作しようと思っている方たちの目標にもなるのではないかなと思いましたし、達成したいという想いはありました。おそらくパク・ジョンミンさんも、同じような想いだったはずです。先ほど、ノーギャラで出演という話がありましたが、パク・ジョンミンさんはノーギャラだっただけではなく、100万人という動員数を達成するために、誰もサポートしていないにも関わらず、YouTubeなどでPR活動もしていたんですよ。1か月くらい本当に頑張ってくれたんです。とにかく、初めてじゃないかなって思うぐらい、本人自身で色々とPR活動をしてくれました」

『顔 -かお-』は8月28日(金)に公開 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.
『顔 -かお-』は8月28日(金)に公開 [c] 2025 WOWPOINT, ALL RIGHTS RESERVED.

取材・文/小林真里

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