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イッカクの牙が”まっすぐ伸びる”秘密は「逆向きの二重螺旋」にあった

  • 2026.8.21
イッカクの牙には、外部と内部で逆の螺旋構造が隠されていた / Credit:Canva

イッカクの頭から突き出す牙は、2mを超えることもある巨大な「歯」です。

しかも驚くべきことに、これほど長く成長しながら、ゾウの牙のように大きく曲がることなく、ほぼまっすぐ伸びていきます。

では、なぜイッカクの牙は長くなっても曲がらないのでしょうか。

デンマークのオーフス大学(Aarhus University)を中心とする国際研究チームがその内部構造を詳しく調べたところ、外側と内側で逆方向にねじれる特殊な構造が見つかりました。

研究成果は2026年8月18日付で科学誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • イッカクの「まっすぐなのに螺旋状」牙の構造を分析
  • 外は左巻き、内は右巻き――逆向きの構造が牙を支えていた

イッカクの「まっすぐなのに螺旋状」牙の構造を分析

「海のユニコーン」とも呼ばれるイッカクの牙は、角ではなく上顎の犬歯が長く伸びたものです。

典型的なオスでは左側の歯が上唇を突き抜けて成長し、長いものでは2mを超えます。

しかもイッカクは80年以上生きることがあり、牙も一生を通じて伸び続けます。

不思議なのは、その表面にははっきりした左巻きの螺旋があるのに、牙そのものは大きく湾曲せず、ほぼ一直線に伸びることです。

一般にゾウなど多くの動物の牙や角は、成長に伴って重力や噛む力の影響を受けて大きく湾曲することが多く、自然界では「長く伸びるほど曲がる」のがむしろ一般的です。

これまでの研究から、イッカクの牙の内部に特殊な繊維構造があることは予想されていましたが、肉眼で見える螺旋とナノレベルの構造がどう結びついているのかは分かっていませんでした。

そこで研究チームは、グリーンランド由来のオスのイッカクの牙を使い、X線CT、X線回折、偏光顕微鏡などを組み合わせて、牙の構造を大きなスケールから微細なスケールまで調べました。

さらに特殊なX線技術を使い、牙の内部にある微細な構造がどちらを向いているのかを3次元で地図のように可視化しました。

では、分析の結果、どんなことが分かったのでしょうか。

牙の大部分を占める象牙質と、その表面を覆うセメント質は、主にコラーゲン線維とハイドロキシアパタイトという硬い鉱物からできています。

解析すると、これらの石灰化コラーゲン線維は基本的に歯の長軸方向へ並んでいましたが、完全な直線ではなく、場所によって規則的に少しずつ傾いていました。

そして、この小さな傾きが積み重なることで、外側のセメント質では左巻き、内側の象牙質では右巻きという、互いに逆方向の螺旋が作られていたのです。

では、この構造は牙の強さや「まっすぐさ」と、どのように関係しているのでしょうか。

より詳細な結果を次項で見ていきます。

外は左巻き、内は右巻き――逆向きの構造が牙を支えていた

3次元解析では、象牙質とセメント質の境界付近で線維の傾きはほぼ0度でした。

そこから内側や外側へ離れるにつれて傾きが大きくなり、内外の表面付近では約60度に達していました。

つまり、繊維が牙に横向きに巻き付いているのではなく、ほぼ縦向きの繊維が少しずつ傾きを変えることで、牙全体として左右逆向きの螺旋を作っていたのです。

さらに、この構造が単なる模様ではないことを示す現象も確認されました。

縦方向に二つに切られた牙を調べると、切断によって内部のねじり応力が解放され、半分になった牙は根元から先端にかけて180度以上、長いものでは200度以上も左向きにねじれていました。

また研究チームは、牙の主成分である象牙質だけを切り出して3点曲げ試験を行いました。

その結果、長軸方向に切り出した試料の曲げ弾性率は平均17.6GPaだったのに対し、横方向では10.8GPaとなり、牙が方向によって大きく異なる力学特性を持つことが分かりました。

長軸方向にそろったコラーゲン線維と硬い鉱物は牙を縦方向に強くする一方、繊維の配列は力の向きによって亀裂の進み方も変化させます。

さらに象牙質には木の年輪のような年間の成長層があり、層ごとに鉱物結晶の性質が変化していましたが、右巻きの大きな配列はそれらの層をまたいで維持されていました。

研究者たちは、こうした強い方向性を持つ内部構造と、外側と内側で逆向きになった螺旋が、曲げやねじれに対する安定性を高め、イッカクの牙が長くなってもほぼまっすぐ伸びられることに関係していると考えています。

ただし、成長中の牙がどのようにして左右逆向きの構造を作り出すのか、その形成メカニズムまでは今回の研究でも明らかになっていません。

それでも、2m級の牙の形が、ナノレベルの繊維のわずかな向きの違いから組み上げられていることを示した今回の研究は、生物が巨大で丈夫な構造を作る巧妙な仕組みを浮かび上がらせました。

イッカクのまっすぐな牙は、外と内で逆方向にねじれる構造を備えた、自然界ならではの「巨大な複合材料」だったのです。

参考文献

The extraordinary engineering that builds nature’s only straight tusk
https://newatlas.com/biology/secret-narwhals-nature-defying-tusk/

元論文

The narwhal tusk assembles its macroscopic helix from building blocks with opposing twists
https://doi.org/10.1038/s41467-026-75689-z

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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