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猫の「ニオイを嗅いだ後の変顔」を調べて、個体を見分ける仕組みを発見

  • 2026.8.21
猫のフレーメン反応から分かること / Credit:Canva

猫がニオイを嗅いだ後、突然口を半開きにして不思議な表情を浮かべることがあります。

一見するとただの変顔にも見えますが、この「フレーメン反応」を詳しく調べたことで、猫が尿から相手を見分ける仕組みの一端が明らかになりました。

岩手大学を中心とする研究チームは、猫の尿に個体ごとに異なる特殊な脂肪酸の組み合わせが存在し、猫がその違いを識別できることを発見しました。

研究成果は2026年8月20日、科学誌『Current Biology』にオンライン公開されました。

目次

  • ”猫の変顔”から導く「尿による個体識別」の仕組み
  • 尿には個体ごとの「においの名刺」があった

”猫の変顔”から導く「尿による個体識別」の仕組み

猫にとって尿は、単なる排泄物ではなく、マーキングを通して個体情報を残す化学的なサインにもなります。

しかし、ニオイを作る物質は時間とともに蒸発したり変化したりします。

それなのに、どうすれば「誰が残した尿なのか」という情報を安定して残せるのでしょうか。

研究チームが手掛かりにしたのが「フレーメン反応」です。

これは、猫が尿などを嗅いだ後に口を半開きにして上唇を持ち上げる行動で、ニオイに含まれる化学物質を「鋤鼻器」と呼ばれる感覚器官に取り込む行動と考えられています。

まず研究者たちは、同じ個体の尿を猫に繰り返し提示した後、別の個体の尿へ切り替え、嗅ぐ時間やフレーメンの変化を調べました。

さらに、フレーメンを手掛かりに尿中の脂質成分を分析し、猫の尿から13種類の「分岐鎖脂肪酸」を発見しました。

そして、その組成が同じ猫の中でどの程度安定しているか、尿を25℃で24時間置いた後にも特徴が残るかも確かめています。

加えて、分岐鎖脂肪酸以外の尿中脂質を同じ条件にそろえ、分岐鎖脂肪酸だけを別個体由来の組成に替える行動試験も行っています。

また、体内でこれらの物質がどこに蓄えられているのかを調べ、イエネコ以外のネコ科動物とも比較しました。

その結果、分岐鎖脂肪酸の種類と比率は個体ごとに異なる一方、同じ猫では比較的安定しており、猫自身もその組成差を嗅ぎ分けられることが分かりました。

さらに、その安定性を支える可能性のある「貯蔵庫」が腎臓に見つかりました。

より詳しい結果を次項で見ていきます。

尿には個体ごとの「においの名刺」があった

同じ個体の尿を繰り返し嗅がせると、猫が嗅ぐ時間は次第に短くなりましたが、別の個体の尿に替えると再び長くなりました。

しかも、この「慣れ」は月単位の間隔を空けても確認されました。

また、自分の尿より未知の猫の尿でフレーメンが多く起こり、同じ尿を繰り返すと反応は減少しました。

これらの結果は、猫が尿臭の違いを区別し、そのニオイを長期間記憶している可能性を示しています。

そして化学分析で見つかった13種類の分岐鎖脂肪酸は、その種類や比率が猫ごとに異なりました。

一方、同じ猫では採尿日が違っても比較的安定していました。

さらに、これらは比較的ゆっくり蒸発する「半揮発性」の物質で、25℃で24時間置いた尿でも個体ごとの特徴が比較的よく残っていました。

つまり複数の分岐鎖脂肪酸の組み合わせが、時間がたっても残りやすい「においの名刺」になっている可能性があるのです。

そして重要なのは、猫が本当にこの脂肪酸の組み合わせを区別できると確認されたことです。

分岐鎖脂肪酸以外の尿中脂質を同じ条件にして、分岐鎖脂肪酸だけを別個体由来の組成に替えると、いったん慣れていた猫が再び長く嗅ぎました。

尿全体の漠然とした違いではなく、分岐鎖脂肪酸の組成そのものが、猫にとって識別できる個体由来の情報を持っていたのです。

さらに研究者たちは、分岐鎖脂肪酸を含む脂質が腎臓皮質の細胞内にある「脂肪滴」に蓄積していることを突き止めました。

猫の腎臓に多くの脂肪滴があること自体は100年以上前から知られていましたが、その役割は分かっていませんでした。

今回の結果から、この脂肪滴が分岐鎖脂肪酸の「貯蔵庫」として働き、短期的な変動をならしながら、個体特有の組成を安定して尿へ供給している可能性が浮かび上がったのです。

関連する尿成分や腎臓の脂肪滴は、ライオン、トラ、ヒョウ、ジャガー、オオヤマネコ、イリオモテヤマネコなどでも確認されています。

一方、腎臓の脂肪滴から分岐鎖脂肪酸がどのように尿へ供給され、個体特有の組成が維持されるのか、その詳しい過程には今後の検証が必要です。

研究が進めば、猫の尿臭の制御や腎臓の脂質蓄積の理解に加え、希少なネコ科動物を尿から非侵襲的に識別・モニタリングする方法への応用も期待できます。

猫がニオイを嗅いだ後に見せるあの「変顔」は、ネコ科動物が交わす化学的な“名刺”を知るための重要な手掛かりだったのです。

参考文献

ネコの”あの顔”から見つかった「においの名刺」―尿の個体識別を支える特殊な脂肪酸と腎臓の貯蔵庫―
https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2026/08/008021.html

元論文

Signatures of branched-chain fatty acids derived from a kidney reservoir confer stable chemical individuality on domestic cats
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.07.045

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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