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「悲しい」愛犬を失った60代女性→数時間後、突然胸の痛みに襲われ…搬送先で告げられた“病名”に「すぐに助けを呼べばよかった」

  • 2026.9.4
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。周術期管理や救急・全身管理において、多様な疾患をお持ちの患者さまの安全管理に携わっている麻酔科専門医の松岡雄治です。

「愛犬が旅立ってしまって胸が苦しいけれど、悲しいのだから当たり前だ。少し休めば落ち着くはず」。長年連れ添った愛犬との別れに直面し、深い悲しみに暮れていたMさん(60代女性)。

数時間後、彼女を襲ったのは、胸を引き裂かれるような激しい痛みと呼吸困難でした。救急搬送されて告げられた病名は、強烈なストレスが物理的に心臓の動きを止めてしまう「たこつぼ心筋症」。
入院加療によってことなきを得ましたが、「あの時、ただの心の痛みだと我慢せず、すぐに助けを呼べばよかった」と後悔を漏らします。

今回は、心に受けたストレスが心臓に及ぼす「たこつぼ症候群」について解説します。

ストレスが引き起こす「心臓のたこつぼ化」

たこつぼ症候群は、精神的・身体的なストレスによる自律神経の過剰な反応が原因です。

【心臓が変形するフロー】

  • 過度なストレスとホルモン放出:強烈な悲しみや怒りにより交感神経が興奮し、アドレナリンなどのホルモン(カテコラミン)が血中に大量放出されます。
  • 微小血管の収縮による血流低下:カテコラミンが心臓の微小な血管を締め付け、一時的な血流の低下(虚血)を招きます。
  • 心尖部の動きの停止と変形:心臓の先端(心尖部)が突然動かなくなる一方、根元は過剰に収縮します。心臓が「タコを捕る壺」の形に変形し、うまく血液を送り出すのが難しくなって、急な心不全を起こします。

「気のせい」と「放置してはならない心臓のSOS」に潜む境界線

「悲しいから胸が痛むのは当たり前」「大騒ぎしたくない」。そうやって自分の心の動揺を隠し、痛みを我慢してしまうのは、周囲に心配をかけたくないという大人のごく自然な心理です。悲しいときに大騒ぎをしたくないと思う気持ちを、誰も責めることはできません。

しかし、ただの心の痛みと物理的な心臓の不調の間には、見逃してはならない明確な境界線があります。本症は閉経後の女性に多く発症します。女性ホルモン(エストロゲン)の低下によって血管がカテコラミンに敏感になり、微小な血管が血流低下を起こしやすくなっていることの関与が考えられています。

基本的には数日から数ヶ月で心臓の機能が正常化する一過性の病気ですが、決して放置してはいけません。

発症直後の急性期には、危険な不整脈や肺に水が溜まる肺水腫、心臓の壁が傷つく「心破裂」、血圧が保てなくなる「ショック状態」など、命に関わる重大な合併症を引き起こすリスクがあります。回復する病気だからと自己判断で耐え忍ぶのは、あまりにも危険なため、我慢せず直ちに受診や救急要請を行いましょう。

重症化する前に、確認すべき3つのサイン

取り返しのつかない事態を防ぐために、強烈な悲しみや怒りの後に生じる以下のサインを、「心臓の悲鳴」として捉えてください。

1. 冷や汗を伴うような、突然の激しい胸痛と息切れ

心筋梗塞と区別がつかないほどの激しい痛みと呼吸困難にみまわれることがあります。この場合は自家用車やタクシーでの移動を避け、すぐに119番通報(救急車の要請)を行ってください。

2. 閉経後の女性(50歳以上)であり、ストレス直後に発症した

発症者の9割を閉経後の女性が占め、精神的ストレスが引き金となることがあります。

3. 横になると息が苦しく、起き上がると少し楽になる(起座呼吸)

心臓の動きが低下し、肺に血液が滞っている(うっ血性心不全)強いサインです。一刻も早い医療機関への連絡・救急要請が必要です。

「悲しみ」で不調を感じる時には要注意

大切な存在を失ったとき、ご自身のからだの異変を後回しにしてしまうのは無理もないことです。

しかし、その悲しみは、物理的に心臓に負担をかける実体を持ったものかもしれません。胸が締め付けられたら、決して一人で抱え込まず、すぐに循環器内科や救急外来を受診してください。たこつぼ症候群は適切な初期治療を行えば、再び元の健康な心臓に戻ることが期待できる病気です。

医療はあなたを責める場所ではありません。傷ついた心に寄り添い、あなたの大切な日常を再び取り戻すための、いつでも温かい味方なのです。少しでもおかしいと感じたら、いつでも私たちを頼ってくださいね。


※プライバシー保護のため、実際の症例をもとに一部の設定やエピソードを改変・再構成しています。

監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。

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