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「少し奥歯が痛む…」“痛み止め”を飲んで放置した40代男性→数日後、呼吸が苦しくなり始め…搬送先で告げられた“恐ろしい病名”

  • 2026.9.6
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

周術期管理や救急・全身管理において、多様な疾患をお持ちの患者さまの安全管理に携わっている麻酔科専門医の松岡雄治です。

「少し奥歯が痛むけれど、仕事が忙しくて歯医者に行く暇がない。痛み止めを飲んでいればそのうち治るさ」。日々の生活を懸命に送り、つい自分の健康を後回しにしがちなTさん(40代会社員男性)。

しかし、痛みは数日で顎から首へと一気に広がり、彼は喉がひどく腫れて呼吸が苦しくなる事態に陥りました。救急搬送されて告げられた病名は、顎や首の奥深い隙間に膿が溜まる「深頸部膿瘍」。手術で事なきを得たものの、数週間に及ぶ入院と退院後も食べ物がうまく飲み込めない違和感に悩み、「あの時、ただの虫歯だと油断せず、すぐに治療に行けばよかった…」と後悔しています。

今回は、見逃してはいけない「歯の痛みから首へ広がるSOS」について解説します。

深頸部膿瘍は首の奥深くを細菌が進む「解剖学的な連鎖」

なぜ、虫歯が首の奥の重大な炎症を引き起こすのでしょうか。顔から首、そして胸へと細菌がトンネルを抜けるように進んでいくメカニズムは、以下のように進行します。

【首の奥深くに細菌が広がるフロー】

  • 侵入(あごの骨を突破):未治療の虫歯や親知らずの細菌が、歯の根元から周囲のあごの骨を越えて外側へ進出します。
  • 首の隙間をつたって広がる:顔から首、胸へと繋がる筋膜の隙間に、重力に従って膿が流れ落ちます。
  • 気道の圧迫:首の奥に溜まった大量の膿が、舌や喉の粘膜を内側から強く押し上げ、空気の通り道(気道)を急激に狭くします。
  • さらに波及:膿がさらに下方の胸の奥のスペース(縦隔)に達すると、心臓の周囲に深刻な「縦隔炎」を引き起こす恐れがあります。
     

「近くの歯医者は予約が取りづらいし、痛みもいつも強いわけではない気がするから様子を見ておこうと思った」「ただの虫歯から首が腫れるなんて思いも寄らなかった」。毎日を全力で生きる皆さんが、歯の痛みを痛み止めで散らし、受診を先延ばしにしてしまうのは無理もないことです。

しかし、本症例を通してぜひお伝えしたい「注意すべき境界線」があります。

私たちの顔や首の筋肉、血管を包む「筋膜」の間には、脂肪が詰まったゆるい隙間が複数存在します。これらの隙間はお互いに仕切りがなく、「トンネル」のように胸の奥まで繋がっています。そのため、あごの骨を越えた細菌は、まるで坂道を転がり落ちるように首の奥深く、さらには心臓の周りにまで一気に流れ込んでしまうのです。

特に糖尿病を合併している方は、局所免疫や毛細血管の血流が低下しているため、ただでさえ免疫的に手薄なこの環境に、白血球や抗菌薬が十分に届きません。そのため、非糖尿病の方に比べて複数の隙間に炎症が広がったり、気道が狭くなるなどの重篤な合併症を伴うリスクがさらに上がってしまうおそれがあるのです。

重症化する前に、確認すべき3つのサイン

ただの歯痛や喉の風邪と侮り、細菌が血液に侵入して全身に広がる前に、以下の3つの初期サインをご確認ください。

1. 口が指2本分(約3センチ)以下しか開かなくなる(開口障害)

炎症が顎を動かす筋肉の隙間にまで及んでいる証拠です。気道が著しく狭まりつつある危険な前兆です。

2. 首が「赤くパンパンに腫れ上がり」、触ると激しく痛む

皮膚に近い場所だけでなく、首の深いところで膿の袋が急速に大きくなっているサインです。つばすら飲み込むのが困難になります。

3.「横になって寝ると、息苦しさが明らかに悪化する」

仰向けに寝ると、重力で首の膿の袋が空気の通り道をさらに押し潰します。「起き上がっている方が息が楽」と感じる場合は、呼吸への影響が強く出ている危険なサインです。

「たかが虫歯」と油断せずに

「まさか虫歯を少し放置しただけで、首の奥の手術をすることになるなんて」というのは、本当に正直な感想でしょう。ここまでのことになるならもっと早く相談していればと誰もが思うのです。

違和感を感じている方は、まずは「鏡の前で口を大きく開けてみて、指が縦に3本入るか確認する」という、極めて簡単なセルフチェックから始めてみましょう。もし口が開きづらい、あるいは首に激しい痛みや腫れがあるときは、我慢せずに今すぐ「耳鼻咽喉科」や「救急外来」を受診してください。

もし思い過ごしであればそれで構いません。大事に至るまえに、ぜひお気軽に医療を活用して健やかな毎日を守りましょう。


監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。

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