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「その話はやめろ、もう降りるぞ」電車で談笑していた男たち。だが、突如話をやめて降りたワケ

  • 2026.8.21
「その話はやめろ、もう降りるぞ」電車で談笑していた男たち。だが、突如話をやめて降りたワケ

向かいの席から、聞くつもりのない話が流れてきた

仕事帰りの電車は、その日も程よく混んでいた。

私は運よく空いていた席に腰を下ろし、鞄を膝に抱えて息をついた。

向かいの席には、男性の集団が並んで座っている。どこかで一杯やってきた帰りなのだろう。

頬がうっすら赤く、姿勢もゆるんでいて、声の大きさだけが車内の静けさと合っていなかった。

「だからさ、あそこで止められると先に進まないんだって」

「わかる。結局こっちが直すことになるんだよな」

最初は、よくある光景だと思っていた。

飲んだ帰りに気が大きくなるのは、誰にでもあることだ。

けれど、話は少しずつ細かくなっていった。誰の担当がどこまで進んでいて、どこで滞っているのか。愚痴のようでもあり、慰め合いのようでもある。

ただ、そこに出てくる中身は、明らかに社内でしか話さないはずのものだった。

「上の人がまた話を変えたんだろ」

「そう。先週に決めたことなのにな」

私は目を伏せた。聞きたくて聞いているわけではない。それでも、向かいの席から届く声は、耳のすぐそばで話されているのと変わらなかった。

周りの乗客も、窓の外を見ているふりをしながら、たぶん同じように聞いている。

誰も注意はしないし、そもそも注意するほどのことでもない。ただ、居心地だけが少しずつ悪くなっていった。

集団の一人が、ふと車内を見回した

やがて、会社の名前らしき言葉が会話に混じった。

続けて、取引先らしき名前も出た。

ここまで分かってしまうのか、と思った。

私は目を閉じたが、耳はふさげない。

悪気がないのは分かる。ただ、外で話すことではない、とだけ思っていた。

そのときだった。集団のなかの一人が、話の輪から少し身を引いて、車内をゆっくり見回した。

つり革につかまった人が視線を落とし、隣の座席の人が本から目を上げる。

誰も何も言わないのに、たしかにそこにある空気に、彼は気づいたようだった。

「その話はやめろ、もう降りるぞ」

短い一言だった。

責めるでもなく、慌てるでもない。当たり前のことを確かめるような言い方だった。

「ああ、もうそんな時間か」

仲間たちは一瞬きょとんとして、それから鞄を引き寄せ、上着の袖に腕を通しはじめた。

声はそこで止まり、あとはレールの音だけが残った。彼らはほどなく静かに降りていき、車内は元の静けさを取り戻した。険しい空気は、どこにも残らなかった。

気が緩んでいただけの人たちなのだと思う。私だって、疲れた日には口が軽くなる。

それでも、あの一人が顔を上げてくれたから、私はそれ以上、聞かずに済んだ。あの人がいてよかった、と胸の内でつぶやいた。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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