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「イヤホン、してないんだ」朝の車内で動画を見ていた乗客。だが、別の乗客が注意した結果

  • 2026.8.21
「イヤホン、してないんだ」朝の車内で動画を見ていた乗客。だが、別の乗客が注意した結果

静かな車内に、ひとつだけ響いた音

その日もいつもと同じ時間の電車だった。

駅に停まるたびに人が乗り込み、車内はもう身動きが取れないほど混み合っている。

誰もが黙って吊り革を握り、窓の外を眺めるか、じっと足元に視線を落としている。

会話らしい会話もなく、レールを踏む音だけが規則正しく続いていた。

「今日も、すごい人だな」

心の中でつぶやきながら、少しでも息のしやすい位置を探して立ち直したときだった。

にぎやかな音楽と、笑い声のようなものが、ふいに車内へ流れ込んできた。

「あれ、なんの音だろう」

音のするほうへ目を向けると、少し離れて立っている乗客が、端末の画面をじっと見つめていた。

動画を再生しているらしい。耳には何もつけていない。音は絞られることなく、混み合った車内にそのまま広がっていた。

「イヤホン、してないんだ」

周りの人たちも同じことに気づいたのだろう。

ちらり、ちらりと視線がそちらへ向く。誰かが咳払いをすれば伝わるだろうか、と思うほど分かりやすい視線だった。

けれど本人はまったく気づく様子がなく、画面の中の映像に見入ったままだ。

むしろ楽しそうに口元をゆるめていて、自分の端末から出ている音が周りに届いているとは、少しも思っていないように見えた。

誰も言えなかった空気を変えた、静かな一言

沈黙に沈んだ車内に、その音だけが浮いていた。

みんな聞こえないふりをしながら、耳だけはそちらを向いている。居心地の悪さがじわじわと広がっていくのがわかった。

「誰か、言ってくれないかな」

そう思いながら、私自身も何も言えずにいた。

この混みようで声を出す勇気はなかったし、注意して険悪になるのも怖かった。

そのまま電車はいくつかの駅を過ぎ、人が降りては、また乗ってくる。それでも音は止まらない。

もう誰も、そちらを見ようとしなくなっていた。

そのときだった。その乗客のすぐ近くに立っていた人が、ほんの少し体を寄せて、静かに口を開いた。

「電車の中です、音を下げてください」

責めるような調子ではなかった。ただ事実を伝えるだけの、落ち着いた声だった。

乗客ははっとした顔を上げ、あわてて画面に指を伸ばす。

「あ、すみません」

音がすっと小さくなり、次の瞬間には聞こえなくなった。

張りつめていた車内の空気が、ゆっくりとほどけていく。

私も知らないうちに肩へ力が入っていたらしく、大きく息を吐いた。

言うべきことを、責めずに言える人がいる。それだけで朝の車内はこんなにも過ごしやすくなるのだと、降りる駅までの短いあいだに思い知らされた。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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