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「その絵を描いてください」。霊感持ちの男が命じた“写真の人物を描く”奇妙な確認……紙に現れたものが示す最悪の予兆

  • 2026.8.12
写真はイメージです。提供:アフロ

放送後にファンが小説形式でリライト記事を投稿することでその名を轟かせていった、生配信サービス「TwitCasting」の怪談番組「禍話(まがばなし)」。10周年という節目の今年は、ベストセラー怪談作家たちをゲストに呼んだトークライブを開催するなど、これまで以上に精力的に活動しています。

今回はそんな禍話から、心霊写真を撮影してしまった同僚に巻き込まれたとある男性のお話をご紹介します――。


「まさかあんなことになるなんて思ってなかったんだよ!」

写真はイメージです。写真:Yuto.photographer/イメージマート

Hさんはワンボックスカーを運転しているUさんのほかに、いつものメンバーが1人しかいないことに気がつきました。とりわけ、Uさんといつも一緒のTさんの姿がありません。

「まさかあの写真があんなことになるなんて思ってなかったんだよ。でも、さすがに放っておくのも良くねぇかな~ってさ」

戸惑うHさんなど気にも留めない様子で、事の経緯をまくし立てているUさん。話を整理すると、どうやらUさんたちがTさんの知り合いだという霊感持ちの男性に、例の写真を見せたことが始まりだったようでした。

『他に見せた人はいないか?』

その男性からしつこく問いただされ、Hさんに見せたことを話すと『すぐに連れてきて欲しい』と詰められたというのです。

「くだらない」と一笑に付して車を降りることまで考えたそうですが、万が一彼の話が本当だったとすると、関わってしまった手前何かしらの対処をしないのも心にしこりが残る――Hさんは大きなため息を漏らしました。

2人が向かった先のアパートには…

写真はイメージです。提供:アフロ

ワンボックスカーが停まったのは、あるアパートそばのコインパーキング。

「あそこの3階だから」

先ほどまでの饒舌さはどこへ行ったのか。アパートのエレベーターで上がるにつれてUさんの口数はめっきりと減り、その顔色は青ざめていました。

廊下を歩き、とある一室の前に着いてインターホンを鳴らすと、中から自分たちとは2、3歳ほど年上に見える精悍な顔つきの男性が顔を出しました。

例の“霊感持ちの男”の姿は想像より誠実そうで、肩書きからイメージされる胡散臭さが感じられなかったことにHさんは驚いたそうです。

「本当に急に来ていただいて申し訳ありません。さあ、中に」

「……お邪魔します」

通されたのはごく一般的な単身者向けの1Kの部屋でした。壁際に置かれた黒い合皮のローソファ。棚に無造作に並ぶのはプロテインの缶やサッカー雑誌。等身大の若い男の生活がそこにはありました。

そんな部屋の真ん中のローテーブル脇で座っていたのは、いつものメンバーのうちの1人だけ。てっきり、Tさんら残り3名全員が部屋で待っていると思っていたので、意外に思ったそうです。

しかし、それよりも気になったのは、本来ならばベランダに続く掃き出し窓が見える辺りに作られた、ホームセンターで売っているような大きなパーテーションで仕切られた不審な一角の存在でした。

「どうぞ、ここに」

Hさんはローテーブルを囲むようにUさんら3名と床に腰掛けました。

「さっそくで申し訳ないんですけど――」

「写真に写っていた人物を描いてください」

写真はイメージです。提供:アフロ

霊感持ちの男性がおもむろに取り出したのは、人数分のコピー用紙とクリップボード、そしてボールペン。

「な、なんですかこれ……」

「ああ、聞かされていませんでしたか。あのですね、お互いに見えないようにして、例の写真に写っていた人物の絵を描いてほしいのです。思い出せる限りで構わないので、なるべく詳細に」

妙に小慣れたその口ぶり。

首筋に嫌な脂汗が浮かんできたHさんをよそに、黙って指示に従って絵を描き始めるUさんたち。いつも冗談めかして過ごしている彼らが妙に従順に絵を描いている姿を見て、これは相当厄介なことに巻き込まれたぞ、と思ったそうです。

「…………」

ですが、ペンを握ったのはいいものの、正直描きようがありません。Hさんはあのとき薄目を開けて見たふりをしただけで、実際にその写真を見たわけではありません。

とはいえ、ここで『実は見ていませんでした』と告白して、Uさんたちにあらぬ難癖をつけられても困ります。悩んだ末、Hさんは彼らがあの日話してくれた内容を必死に思い出し、その姿を想像しながら絵を描きました。

『その人影が両手を前に突き出して、お姫様抱っこみたいになんかボロボロの布の塊みたいなの持ってんのよ!』

悩みつつ描き込んでいったのは“目元が隠れたボサボサ頭で、長袖を着た男性が、ボロボロの虫食いだらけのドレスのようなものを手に抱えているイラスト”でした。

髪型や服装については話していなかったけど、もうこんな感じでいいか……――ボールペンのノックを戻して顔を上げると、皆すでに描き終えてHさんを待っていました。

「ごめんなさい。終わりました」

いつも一緒にTさんとKさんは

写真はイメージです。提供:アフロ

手際よく全員のイラストを回収した霊感持ちの男性は「ハイハイ、なるほど」と呟きながらイラストを見比べました。

「じゃあ、コレ、向こうで燃やしてきます」

「燃やす?」

Hさんの反応を無視するように立ち上がった男性は、部屋の奥のパーテーションを少し開け、その向こうの掃き出し窓をガラガラと開けるとベランダに出てしまいました。

しばらくするとパーテーションの向こうから火の手が上がるのが見えましたが、Uさんたちは下を向いたまま黙りこくっていたそうです。

「……TさんとKさんってどこ行ったの?」

一向に見えてこない事態を探ろうと、Hさんは気になっていることを聞いてみたそうです。すると、返ってきたUさんたちの反応は意外なものでした。

「あ、アイツらは……」
「いないんだよ、今日は」
「ちょっとな……」

堰を切ったように飛び出す、妙に歯切れの悪い返答たち。

ガラガラガラ。

掃き出し窓の開く音がして、パーテーションの向こうからあの男性が顔と手を出してHさんを呼び出しました。

「あの、ちょっとよろしいですか」

ベランダに出ると涼やかな夜風とバケツの中で燃えカスになったコピー用紙の焦げ臭い匂いが鼻をつきました。

「あの人たち親友ですか?」

「はい?」

「あなたは大丈夫です」

写真はイメージです。提供:アフロ

すでに仕事を終えたような落ち着いた目でこちらを見つめている男性。

「まあ、親友っていうか、ただの同僚というか……」

「居なくなったら心に大きな穴が空いて辛くなったりします?」

「…………いえ」

「ですよね。わかりました。やっぱりあなた見てないですね」

「あの……」

「燃やしたのはただのパフォーマンスなんですけど、ほらこれ……」

男性がポケットから取り出したのは、先ほどUさんたちが描いたイラストでした。

そこに描かれていたのは、どれも“ただ前に突き出された男の両腕”でした。

「2、3日したら服も描き始めると思うんですけど、そうなるともう手遅れなんですよ」

男性はHさんの肩を優しくポンと叩きました。

「あなたは大丈夫です。彼らには説明しておきますんで、少しここで待っていてください。呼んだらそのまま何も言わずにお帰りになって大丈夫ですので」

一体、何が起きているというのでしょう。五里霧中のままとんとんと進んでいく事態に戸惑いながら玄関口で靴を履いていると、ふと背後に視線を感じました。

「ごめんなぁ」

それが最後に聞いたUさんの言葉でした。

翌週からUさんたちは会社を欠勤し、そのまま行方不明になったそうです。

文=むくろ幽介

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