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【ビューティストという生き方】“ハイヒールをはいたお坊さん” 僧侶・メイクアップアーティスト西村宏堂さん編

  • 2026.8.7
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メイクアップアーティストとして、また僧侶としてLGBTQ活動家として。多彩な活躍を見せる西村宏堂さんが、初のアート展「Cells - 細胞 - 」を2026年8月5日~11日まで伊勢丹新宿店にて開催。ユニークなキャリアはどのように築かれたものなのか、心身を美しく保つための考え方、アート作品を発信する経緯……“ハイヒールをはいたお坊さん”流の生き方&ビューティ論をインタビュー!

生まれたときからビューティスト! 独自の感性が孤独を招いた時代も

「小さいころからおしゃれが大好きで! 幼稚園の引き出しの中にあった、いらない布で使ったスカートを女の子たちに選んでスタイリングしてあげるのが得意だったんです」。物心ついたときから、すでに美に目覚めていたという西村さん。ただ、成長するにつれ、そんな自分のキャラクターを周りに出しづらくなり、次第に孤立していったという。「小学校に入ると、自然と男子は男子、女子は女子で遊ぶようになりますよね。そうすると自分はどちらにも属せないような、居心地の悪さを感じるようになりました。さらに、生物学上男性として生まれた自分がおしゃれをするのは後ろめたいことなんじゃないかと考えるようになり、本当に好きなことを隠すように。特に高校時代は本心を打ち明けられる友人ができず、孤独を感じていましたね」

スカートを頭から被って『リトル・マーメイド』のアリエルのヘアを再現してみたりと、想像力に富んでいた。 KODO NISHIMURA
ディズニープリンセスやセーラームーンが大好きだった幼少期。絵を描くのも得意だった。 KODO NISHIMURA

M·A·Cの美しき店員との遭遇が最初のターニングポイントに

高校を卒業した後の進路として選んだのはボストンへの留学。そこで初めて本格的にメイクアップと出合うこととなる。「ボストンのM·A·Cで、男性の体で生まれた方がとても可愛くメイクをし、真珠のように肌を輝かせているのを見て衝撃を受けました。当時の私はアトピー性皮膚炎に悩んでいて、その方のあまりの美しさに話しかけるのをためらってしまうくらい消極的になっていたんです。でもこの“出会い”をきっかけに、誰でもメイクをしていいし、メイクでこんなに素敵に輝けるんだと知り、俄然メイクに興味を持ち始めました。さらにほぼ同じタイミングで、森理世さんがミス・ユニバースの世界大会で優勝されたのを知り、私も日本人を応援するような美しいメイクができるアーティストになりたいと思うようになりました」

TOSHIKI FUKUNAGA

『プラダを着た悪魔』そのもののアシスタント時代に見えてきた美の本質

その後はニューヨークに移り、世界最高峰の美術大学として知られるパーソンズに入学。学校の外では、ミス・ユニバースのメイクを手がけていたメイクアップアーティストのアシスタントとして活動する機会を得る。「そこはまさに映画『プラダを着た悪魔』の世界でした! 撮影が終わった夕方に『明日ラスベガスに行くから、今夜中に100個同じブランドのつけまつげを集めてほしい』と言われ、マンハッタンを下から上へ歩きながら、デュアン・リード、CVS……とドラッグストアをひと通り回ったことも。1つも在庫がない店舗もありましたし、そうしているうちに雨まで降ってきて、『なにこれ、本当に映画の中の話じゃないの?』って思いましたね(笑)」

ミス・ユニバースのプロジェクトでは、世界中から集まるファイナリストのメイクを担当。 KODO NISHIMURA

ハードな日々の中で、メイクの基礎を徹底的に叩き込んだ。「例えば、目の離れている人の場合は、目頭にハイライトを入れるともっと目が離れて見えるから入れないほうがいいとか、誰にどんなメイクが似合うのかも学ぶことができました。また、ミス・ユニバースのプロジェクトに関わっていたので、美しいみなさんがどういうものを食べ、どういう気遣いをし、どういう洋服を選ぶのか? 細部まで神経を張り巡らせて成り立っている美しさや立ち振る舞いというものを吸収することができました。そこで気がついたのは、本当に周囲が応援したくなる美しい人というのは、周りのスタッフのことを気づかってくれたりと、心まで美しかったこと。美は決して外見だけのことではないのだと気づかされました」

2013年のミス・ユニバース ベネズエラ代表、ガブリエラ・イスラーとの1枚。「毎日とびきりの笑顔でスタッフにも接してくれた彼女は天使のような人! もちろんその年の優勝者でした」。 KODO NISHIMURA

“世界の超一流”が集まるNYでパワーは本物に宿ることを知る

パーソンズ美術大学に入学した西村さんの周囲にいたのは、世界中から集まった個性豊かな学生たち。皆が皆、“誰よりも飛び出た杭になって突き抜けたい”というマインドを持ち、自分のルーツにも誇りを持っていた。「バーレン、ミャンマー、コスタリカ、プエルトリコ、南アフリカ。パーソンズにはいろんな国から学生が集まっていて、それぞれの人が作り出すアートのストーリー性だったり、背景にある文化的なものがとても重視されていました。そしてユニークであればあるほど評価される世界。そんな環境に身を置いて、今までの自分の中の美の基準が、欧米に憧れたうえでのものだったと、はっとさせられました。またあるときは、ブロンドの友人が『Kodoの目ってすごくきれいだね』と言ってくれて。私は目を大きく見せたくてアイプチを使っていたこともあったのに、素の目の状態でそんなことを言われたので面食らいましたね。結局はないものねだりだったんだなぁと。何かの真似をするのではなく、大事なのは自分の目の形や頭の形、体形を生かすこと。さらに、着物のように日本の美しいものの長所も現代風にうまく取り入れることができれば、世界でも自分らしく輝けるのかなと思うようになりました」

パーソンズ美術大学で学んでいた学生時代。 KODO NISHIMURA
大学時代の作品。 KODO NISHIMURA

私たちは平等であると改めて教えてくれたのが仏教

実家は浄土宗の寺院。幼い頃から仏教がごく身近な環境だったが、仏門に入ろうと思ったのは留学を終えてからのことだった。「ずっと昔から、なぜお坊さんは尊敬されて、なぜ同性愛者は差別の対象にされているんだろうと、もどかしく思っていました。だからこの両方を自分が体現したら、人はどういう反応をするのかな? という興味はどこかにありました」。ただ若い頃は、仏門にあまり興味を持てなかったという。「ピアノをやっている母から『例えばモーツァルトの曲が嫌いだというなら、モーツァルトを弾き、理解したうえで初めて批判ができる。何も知らなければ、批判することはできないよ』と言われ、それならば私も修行に行ってひと通り学んでみよう、理解したうえで判断しようと思うようになり、修行に入りました。いざ学んでみると、仏教では“月の光がみんなに平等に降り注ぐように、どんな人も平等に救われる”と説いていることが分かりました。もっと堅苦しい世界だと思っていたけれど、案外私のような人間のことも批判せず、応援してくれる優しい世界がそこにはありました」

ドレス/VIF Collection(西村さん私物) TOSHIKI FUKUNAGA

LGBTQ活動家として発信するのは誰もが自分らしく輝くことの大切さ

ジェンダーに囚われず、自由にメイクを楽しんでいるアメリカの人々の姿は西村さんを大いに励ましたが、一方で海外では、宗教上の壁に悩む人たちの現状も目の当たりにしてきた。「海外にたくさんの友人ができると、宗教上の理由で同性愛をカミングアウトできずにいる人も多くいることを知りました。私は仏教の修行で『みんながそれぞれの色で輝いていい』という教えを学んだので、もちろん他の宗教のことを否定する気はまったくありませんが、仏教のような考えもあるということだけは世界に向けて発信したいと思うようになりました。誰もがそれぞれの色で輝けて安心して生きていける社会ーーその実現のために、私の経験や知識が少しでも役立つならと。特に、私にLGBTQとして生きる楽しさを教えてくれた海外の皆さんに、それで少しでもお返しができたらうれしいなと思っています。また、何かしら抑圧されていて本当は今とは違う風に生きたいと思っている方が、僧侶で、こんなメイクをして、ハイヒールを履いている私を見て『自分ももっと好きに生きてもいいんだ』と思うきっかけになったらと!」

輝く素肌のために欠かせないのは保湿とクレンジング

美しい素肌を保つために、実践しているのはごくシンプルなケア。「落とすケアを大事にしています。いろいろなクレンジングを試したのですが、『シュウ ウエムラ』のものは目に入ってもしみないし、ぐるぐると摩擦しなくても、素早くアイライナーやマスカラが落ちるので気に入っています。あとは保湿も大切。私がメイクのアシスタント時代にボスから学んだのは、人差し指で頬を触ったとき、指の腹が一秒くらいペタっと吸いついたら保湿されている証拠だということ。逆に、手の甲に触れたときのように全然吸いつく感じがしなかったら乾燥しているので、時間帯は関係なく化粧水やクリームを塗り足すようにしています」。悩んでいたアトピー性皮膚炎は、自分のセクシュアリティをカミングアウトし、ストレスから解放されることで快方に向かった。「あとはアルコール、乳製品、アミノ酸系のうまみ調味料、辛いものなどを控えるようになって、さらにずいぶんよくなりました。食が肌を作るということだと思います」

アルティム8∞ スブリム ビューティ クレンジング オイルn/シュウ ウエムラ、ウルトラHDリップブースター 01/メイクアップフォーエバー(全て西村さん私物) TOSHIKI FUKUNAGA

自分らしさをブラッシュアップできるアイテム選びがメイクのキー

メイクアップに関しても、あれもこれもと使わないのが流儀。ミニマルであることを貫いている。「人によって、メイクで足すべきものは違うなと思っています。私の場合は唇に血色感がないので、ローズ色のグロスが役に立つ。これを塗るだけでも顔に生気を宿すことができます。大事なのは、何を足すと自分は一番自分らしく変われるのかを見極めること。例えばマスカラを塗るだけで、ばっちりメイクをしているように見える人もいますし、眉毛を描くだけでムードが変わる人もいます。ちなみに私はアイライナーやマスカラも大好きですが、そこはブランドではなく、パフォーマンスで選んでいます。またあまり物にこだわり過ぎるよりも、どういう色や質感が似合って、どういう角度で塗るべきなのか、そういうテクニック的なことを自分なりに研究することのほうが、メイクでは大事だと考えています」

“怒りの火消し”術を覚えることが心の美容メソッドに

心を美しく保つためにたどり着いたのは、仏教の教えを軸とした“怒り”という感情に自分を支配されないセルフコントロール術。「例えば嫌なことをいわれたら『なぜあの人はあんなことを言ったんだろう? どういう気持ちで生きているんだろう?』と考えてみます。自分が被害者であるところから一歩引いて、傍観者の視点で考えてみると、一気に怒りが相手を思いやる気持ちに変わるんです。これはとてもいい心の健康法だと思っています。ちょうどリカちゃんハウスの住人から、リカちゃんハウスを真上から俯瞰する人にスイッチする感覚(笑)。燃えるような感情や悲しみも人生に彩りを加えるエレメントであって、それ自体は悪いことだと思いませんが、そういった気持ちに浸り続けると自分を見失ってしまうので、自分の心の中の火消し作業は大切にしています」

TOSHIKI FUKUNAGA

香り・お茶・音楽の力で自分を癒やし自己肯定感を上げる

それでも気分がざわつくとき、頼りにしているのがお香やお茶、音楽。「お香やお茶の香りを嗅ぐことで、フーッと力が抜けてリラックスできることってありますよね。そういう副作用がないものを利用して、自分のマインドを平和に保つように心がけています。音楽に関しては、一種のアファメーション効果があると思っているので、自己肯定感が高まって自分を大事にできるような歌詞の曲を聞き、歌うようにしています。例えばセーラームーンの初代エンディング曲だった『乙女のポリシー』を歌っていたら元気が出てくるし、諦めないで頑張ろうと思えます。それからメーガン・トレイナーの『Bestie』もお気に入り。これらの歌が心のインナーケアというか、自分の中の声をポジティブに変えるスイッチとして聴いています」

心を癒やすアイテム。(写真左から)チュロスのような甘い香りのするお香。「もやもやするとき、これを焚いて癒やされています」。芳輪 堀川 スティックタイプ 80本/松栄堂、夫にプレゼントされたレインボーカラーのクリスタルはお守り的な存在。「公演の際など、緊張するときにポケットの中に忍ばせておきます」(全て西村さん私物) TOSHIKI FUKUNAGA

“心の処方箋”として新たにアートを発信!

初の個展「Cells-細胞-」に向けて、この2年半はコツコツと制作活動に励んできた。新たな一歩となるこの個展の原動力は、抑圧された人や社会の歪みに対する思いからだ。

個展の作品『Lotus of Power』。 KODO NISHIMURA

「あるお寺にお手伝いに行ったとき、そこの奥さまに同性愛者はホルモンの異常だと言われたことがありました。当時は怒りを感じましたが、よくよくその方との会話を思い出してみると、彼女は女性だからと身内に反対されて大学進学を諦めたり、お寺に嫁いでからはボランティアも旅行も禁じられ、とても抑圧された環境で生活されていたんです。だから好きなことを自由に選択している私に対して、自分との環境の違いに戸惑いや苛立ちを感じたのかもしれません。そもそも女性だから勉強しなくていいだとか、誰かにやりたいことを抑圧されるというのはおかしなことですよね。誰もが平等で、自由に活躍できる機会を得られる社会になってこそ、みんなが自分の心も守れると思うんです」

TOSHIKI FUKUNAGA

人同士は小さな細胞のように互いにつながり合っていて、誰かの苦しみは社会全体の傷になるーー個展を彩るたくさんの細胞からなる作品には、上記の体験からたどり着いた、そんな思いが込められている。「あとは絵を見てくださったみなさんが、ご自身を内観するきっかけになればいいなと。アートを発信することで、見た方が自分の心とポジティブな対話をするお手伝いができたら、これ以上うれしいことはありません」

個展の作品『Green Dragon』。 KODO NISHIMURA

西村宏堂/Kodo Nishimura

1989年東京生まれ。アーティスト・メイクアップアーティスト・僧侶・LGBTQ活動家。ニューヨークのパーソンズ美術大学を卒業後、アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。2015年には浄土宗の僧侶となる。LGBTQ活動家として「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信し、ニューヨーク国連人口基金本部、ハーバード大学、増上寺、ディズニーなどで講演を行う。著書『正々堂々私が好きな私で生きていいんだ』は9か国語で出版されている。この夏には初の個展「Cells-細胞-」を開催し、150点以上もの作品を発表。

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「Cells-細胞-」

会期:2026年8月5日(水)~8月11日(火・祝)各日午前10時~午後8時まで(※最終日は午後6時まで)
会場:伊勢丹新宿店 本館6階 催物場(東京都新宿区新宿3-14-1)
入場料:無料

photo:TOSHIKI FUKUNAGA stylist:Chris Isaza text:CHIHIRO HORIE editor:RIE KUROIWA(ELLE)

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