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「大人のための絵本」 モデル・アンヌさんの名作選 変わることは失うことじゃない。50代生き方のヒントに! ~『まるがいいっ』『ぼくは建築家 ヤング・フランク』~

  • 2026.9.14

渋谷で迷子になりました

こんにちは。アンヌです。
少し前のことです。東京・渋谷で、クレール・ドゥニ監督の映画『美しき仕事』の4Kリマスター版が上映されました。若い頃に観て以来、心に残っていた作品です。再びスクリーンで観られると知り、喜び勇んで渋谷へ向かいました。

知ってるはずの渋谷で! 変わりゆく街

ところが、駅に降り立ってみると、見慣れたはずの街はすっかり様子が変わっていました。かつての私にとって、渋谷は勝手知ったる“自分の庭”のような場所。どの出口がどこへつながるか、どの道を通れば目的地にたどり着くのかもよく知っていたはずです。しかし、年月とともに足は遠のき、用事で訪れることも減り、たまに乗り換えで利用するくらい。その間に、街は大きく姿を変えていたのです。
慣れ親しんだ東急百貨店は、本店も東横店もありません。スクランブルスクエア、ヒカリエなど、新しく生まれた大型複合施設の名前を、かろうじて知っている程度。駅の中も工事中……。案内表示を追いながら出口を探して歩いているうちに、とうとう迷子のようになってしまいました。まさしく浦島太郎です。
なんとか外へ出ると、見慣れた『109』が最後の砦のようにそびえ立っています。その姿にほっとして、記憶を頼りに映画館へ向かおうとしました。ところが、なにかがおかしい。いよいよ心細くなって検索してみると、なんと、映画館(Bunkamura ル・シネマ)そのものが移転していたのです。
移転先は、東口方面。斜向かいにはヒカリエが。そのヒカリエの眩い最新デザインを見上げながら、ふと、思い出しました。ここには、その昔、東急文化会館がありました。『ET』や『フラッシュダンス』を観て心を踊らせた映画館です。反対側の西口には東急会館。その横には現在は「渋谷マークシティ」となった京王帝都電鉄渋谷駅ビル。そして国鉄渋谷駅西口ビルも。これらは、戦後の渋谷の風景を形づくったモダニスムの建築群です。設計は、ル・コルビュジエに師事した坂倉準三氏。
ふと、12歳まで暮らした家のことを思い出しました。坂倉氏が手掛けたその家は、もちろん「ザ・打ちっぱなし」。モダニスムを代表するようなコンクリート造りはがっしりとしていて、中はひんやりと冷たく、子どもには危険な場所も多い設計でした。転げ落ちそうになる階段。柵のない渡り廊下。けれどもそこで、鉄棒の練習をしたり、お姫様ごっこをしたり。冷たいコンクリートの空間に、温かな記憶を刻んでくれました。私にとって、モダニスム建築は時代を象徴する理念やデザインだけでなく、紛れもなく心安らぐ「home(ホーム)」。その建築の中で育った私が、渋谷という街にも心地よさを感じたのは、自然なことだったのかもしれません。
けれど、老朽化や再開発、そしてトレンドによって、かつて馴染み深かった建物はひとつまたひとつと、姿を消していきました。渋谷も、私が知っている渋谷ではなくなったのだな。少し、寂しい気持ちになりました。

見つけた! 小さな「知ってる」

ともあれ、ギリギリ上映時間に間に合った、と息をついたその時。映画館前を行き交う若者たちの姿が目に留まりました。
「あら!チビTだわ!」
ピタッと短いTシャツ。ボトムは太く長い。腰の位置をずり下げ、某ブランドのロゴが入った下着を、わざとチラつかせる。
「このコーディネート、知ってる!」
私が20代の頃に流行した着こなしに似ています。思わず笑みが出ました。
若い頃に観た映画、若い頃のファッション。変わってしまった渋谷の街中に、過去の自分と繋がる小さな入口が、ちゃんと残っていたのです!
ヒカリエ、スクランブルスクエア、MIYASHITA PARK ……。これらは紛れも無いインバウンドを支える21世紀の渋谷の景色です。このようにして時代は、その時々の暮らしや人々のニーズに合わせて、機能性だけでなく、スタイルやデザインも変化していきます。時として、見渡す限り知らないものばかり、という感覚に襲われることもあるでしょう。
けれども、誰にでも、歴史ある過去があります。積み重ねてきた経験や知識、そして豊かな感覚は、新しい景色の中から小さな「知ってる」を見出す糸口となっているはずです。新しい景色に自分を見出した瞬間、変わっていくことは失うことだけではないんだな、と思える気がします。そんな瞬間があるからこそ、年を重ねることが楽しく、より自分を好きになっていくのかもしれません。
今回は新しいデザインを入り口に、50代の生き方のヒントにもなる2作をご紹介します。

『まるがいいっ』

作/林 木林
絵/庄野ナホコ
(1,980円 小さい書房)

クマもウサギもキリンもアヒルも、みんな「まる」が大好き。服もバッグも髪飾りも、食べるものも住むところも、何もかもが「まる」。丸い形の大流行は、とどまるところを知りません。ところが、ある時……。林木林(はやしきりん)さんと庄野ナホコさんのコンビが、「右へ倣(なら)え」の風潮にユーモラスかつ鋭く問いを投げかけます。可愛らしい絵と辛辣な視点のコントラストも絶妙。デザインやスタイルが、いつしかクリエイティビティから離れてひとり歩きしてしまう怖さに、「私にも身に覚えがある」とドキリとさせられます。子どもはもちろん、大人にも響く素敵な一冊です。

『ぼくは建築家 ヤング・フランク』

作/フランク・ビバ
訳/まえじまみちこ、ばんしげる
(1,650円 西村書店)

ヤング・フランクは建築家のおじいさんと、高いビルの最上階に暮らしています。毎日、椅子を作ってみたり、ビルを並べて街をデザインしてみたり。身の回りにあるさまざまなものを使って、自由にものづくりをしています。マカロニ、本、お皿、トイレットペーパーの芯などが、思いも寄らない姿に! ある日、本物を見てみようと思い立ったふたりは美術館へ。そこで彼らが出会ったのは? 時代の流れとともに、新しい発想や表現が生まれてゆく。年齢に関係なく、ルールに縛られず、新しいものに触れる楽しさを思い出させてくれるユニークな作品です。


*画像・文章の転載はご遠慮ください


【information】
さまざまな人が1週間の日記をつづるドキュメント番組『旅する日記』(BS朝日)。
アンヌさんが7月24日に出演した模様はYouTubeにて公開中。
YouTube『旅する日記』
https://www.youtube.com/channel/UCQ7n0a3oNWimyA0bJhitX8w

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