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「待たせた分、無料にしろよ」ファストフード店でクレームを言う客。だが、店長の説明に黙った瞬間

  • 2026.8.2

土曜の昼のカウンター

学生のころ、駅前のファストフード店でアルバイトをしていました。

土曜の昼は券売機の前まで列が伸び、注文から受け渡しまで10分ほどかかります。

厨房は湯気と油の音でいっぱいで、番号札を持った人がカウンターの前に少しずつたまっていきました。

五十代くらいの男性が、その列を抜けてまっすぐ私の前に来ます。

「いつまで待たせるんだ。こっちは金を払っているんだぞ」

店内の話し声が、すっと止まりました。

「申し訳ございません。ただいま順番にご用意しております」

「謝れば済むと思っているのか」

頭を下げるほど、声はかえって大きくなっていきます。厨房の担当者が手を止めかけたのが、視界の端に映りました。

「責任者を出せ」

あと1分の商品

奥から店長が出てきて、私と男性の間に立ちました。

伝票を確かめ、調理台のほうへ短く声をかけてから、男性に向き直ります。

「お待たせしております。お客様の商品は、ただいまお作りしています」

男性の口が、いったん止まりました。

怒鳴っていた時間のほうが、よほど長かったはずです。

「待たせた分、無料にしろよ」

「お待たせしたことは、重ねてお詫びいたします」

「だったら金を返せって言ってんだよ」

「代金をいただかない対応は、いたしかねます」

店長の声は、最初から最後まで同じ高さでした。怒鳴り返しもしなければ、譲りもしません。

受け取った袋の重さ

男性はそれから5分ほど、同じ文句を繰り返しました。

その間に商品は出来上がり、袋はカウンターの上に置かれたままです。

「みんな並んで待ってるんですけど。自分一人だけじゃないんですよ」

後ろに並んでいた女性が、はっきりした声で言いました。

近くにいた何人かが、こちらを見て小さくうなずきます。

男性の首が、少しだけ動きました。言いかけた言葉を飲み込み、視線が天井のほうへ逃げていきます。

「本部に連絡するからな」

袋をつかむ手つきは乱暴でしたが、もう誰の顔も見ていませんでした。

自動ドアが閉まると、店内の音がゆっくり戻ってきます。

「怒鳴られて、怖かっただろう」

「もっと早くお出しできていれば、と思って」

「あの状況でできることは、全部やってたよ」

店長はそう言うと、湯気の立つトレーを私の横に滑らせました。

あの声は今でも耳に残っています。それでも、あの日から列に向かって顔を上げられるようになりました。

「次にお待ちの、82番のお客様」

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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