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「ランチはルー少なめ、ご飯は80グラム」グラム単位で注文する常連客の注文を、私が顔も見ずに当てられた日

  • 2026.8.2

グラムで頼まれた一皿

個人でやっている小さなカレー屋で、二年ほど接客をしていました。

カウンターが七席、テーブルがふたつだけの店です。

その注文を初めて聞いたのは、働きはじめて間もないころでした。

「ランチはルー少なめ、ご飯は80グラム」

顔を上げると、四十代くらいの男性が財布を出しながら立っています。

「ご飯の量、少なめでよろしいでしょうか」

「少なめだと120あるでしょう。80でお願いします」

メニューに少なめの欄はありますが、グラムの指定を受けたのは初めてでした。

厨房に伝えると、店長は嫌な顔ひとつせず、棚からキッチンスケールを出してきます。

「できるよ。ちょっと時間もらうけどね」

チキンカツカレー、ルー少なめ、ご飯80グラム、ほうれん草のトッピング。その日から、この四つがひと組になりました。

火曜と木曜と土曜

その人は週3で来ます。火曜、木曜、土曜。入ってくる時間まで、だいたい同じでした。

そして注文が、一度も変わりません。

夏野菜の限定が出ても、冬に煮込みのメニューが並んでも、頼むのはチキンカツカレーです。

「今日は限定、いかがですか」

「うまそうだね。いつものにするよ」

ダイエットかと思ったこともありました。

ただ、週3でカツの乗ったカレーを食べにくる人が、カロリーを気にしているはずもありません。

厨房では、スケールがもう定位置に置かれていました。

雨の日も、風の強い日も、その人は同じ時間に引き戸を開けます。

傘立ての一番端に傘を差すところまで、いつも同じでした。

顔を見る前に出た言葉

土曜の昼、デリバリーの注文票がプリンタから流れてきました。

備考欄に、ルー少なめ、ご飯80グラム、ほうれん草追加と並んでいます。

「店長、これあの方ですよ」

「名前も住所も見てないだろ、お前」

「見なくても分かります」

伝票を裏返すと、いつもの名字がありました。店長が声を出して笑います。

次にその人が来たのは、その週の火曜でした。引き戸が開く音がして、私は伝票を取る前に口が動いていました。

「チキンカツカレー、ルー少なめ、ご飯80グラムですね」

足音が止まりました。

「……もう覚えられてるのか」

耳のあたりが赤くなっています。カウンターの端に座って、おしぼりで手を拭きながら、少し早口になりました。

「残すのが嫌なんだよ。80だと、ちょうど食べきれるから」

「ほうれん草は、どうしてですか」

「ここのが一番うまいから」

厨房の奥で、店長がスケールを引き寄せる音がしました。

「80、入ります」

その日から、その人は座る前に注文を言わなくなりました。

代わりに、引き戸のところで片手を小さく上げるようになったんです。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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