1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. 「もっと早く知っていれば…」定年後に厚生年金から外れて働いた60代男性→5年後、判明した“もらい損ね”に後悔したワケ

「もっと早く知っていれば…」定年後に厚生年金から外れて働いた60代男性→5年後、判明した“もらい損ね”に後悔したワケ

  • 2026.8.30
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。社会保険労務士の小泉です。

「60歳を過ぎたら、年金のことはもう気にしなくていい」。そんなふうに考えている方はいないでしょうか。60歳以降も働く場合、働き方によっては年金額の計算に反映されます。

この仕組みを詳しく確認せず、数年後になって「もっと早く知っていれば」と後悔することになった、そんなエピソードをご紹介します。

「60歳まで働いたから、もう十分だと思っていた」

65歳のAさんは、60歳で会社を退職しました。

会社員として長く厚生年金に加入していたため、「これまで十分に払ってきた」という感覚があったといいます。退職後は厚生年金の加入対象とならない働き方を選び、65歳を迎えました。

ところが、年金について改めて確認した際、Aさんが気になったのが「60歳以降の働き方によって、年金額にも違いが出る」という点でした。

「60歳を過ぎたら、年金の加入期間はもう関係ないと思っていました」実はここに、Aさんの思い込みがありました。

「受給資格」と「年金額」は分けて考える

undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

老齢基礎年金を受け取るためには、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間などを合算した受給資格期間が10年以上必要です。原則として65歳から受給が始まります。

ただし、「受給資格期間が10年以上あるか」という受給資格の問題と、「将来いくら受け取れるか」という年金額の問題は、まったく別の話です。Aさんのように、すでに受給資格期間を満たしている人であっても、60歳以降にどう働くかを考える際には、厚生年金への加入が続くかどうかを別途確認しておく必要があります。

厚生年金は原則として70歳未満の人が加入対象です。したがって、60歳以降であっても、勤務先の規模や労働時間などの条件(いわゆる社会保険の適用要件)を満たせば、厚生年金に加入することがあります。そして、厚生年金に加入した期間や、その期間の報酬などが、老齢厚生年金の年金額の計算に反映されます。

65歳からの1年間にも「意味」がある

たとえば、65歳から69歳まで、厚生年金の被保険者となる働き方を続けたとします。
65歳以上70歳未満で老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金に加入して働いている方については、一定の条件のもと、毎年9月1日を基準日として、前年9月から当年8月までの加入実績を反映して年金額を見直す「在職定時改定」という仕組みがあります。改定後の年金額は、10月分(12月受取分)から反映されます。

つまり、65歳を過ぎても厚生年金に加入して働くことには、単にその時点の給与を得るというだけでなく、その後に受け取る老齢厚生年金額に、加入期間や報酬が反映されるという側面もあります。
月収約20万円の場合では、65歳以降に厚生年金へ1年間加入すると、老齢厚生年金が年額約1万3,000円増える例があります。ただし、これは一定の報酬を前提とした試算で、実際の増額額は加入期間や報酬額などによって異なります。

Aさんが後になって気づいたのは、「60歳以降も働けば必ず得をする」という単純な話ではなく、「自分の場合、60歳以降も厚生年金に加入する働き方を選んだら年金額はどう変わるのか」を事前に確認していなかったという点でした。

「あと数年働けば」と考える前に確認したいこと

もちろん、すべての人が60歳以降も働き続けるべきだという話ではありません。働くかどうかは、給与、健康状態、家庭の事情、仕事への希望などを含めて判断するものです。

ただし、60歳を迎えたときには、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
・自分の受給資格期間は10年以上あるか
・これまで厚生年金に何年加入してきたか
・60歳以降の勤務先では厚生年金の加入対象になるか
・65歳以降も働いた場合、老齢厚生年金の額はどの程度変わるか
・働きながら年金を受け取る場合、在職老齢年金による支給停止の対象にならないか

特に最後の点は、2026年度(令和8年度)に大きな制度改正があったため、重要度が増しています。
令和8年度(2026年度)からは法律上の基準額が62万円に引き上げられ(スライド改定を加味した令和8年度の実際の支給停止調整額は月額65万円)、老齢厚生年金の『基本月額』と『総報酬月額相当額』の合計がこの額を超える場合、一部または全部が支給停止となる場合があります
(注)65万円は令和8年度の実際の支給停止調整額(適用額)であり、毎年度、物価や賃金の変動に応じて改定されます。

ただし、厚生年金に加入して働けば、その分だけ現在受け取る年金が必ず増えるという意味ではありません。加入期間や報酬は将来の老齢厚生年金額に反映される一方で、在職中は「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計額によっては、在職老齢年金による支給停止が生じる場合もあります。両方の視点を持って働き方を検討することが大切です。

Aさんが後悔したのは、働かなかったことそのものではありません。
60歳以降の働き方を決める前に、自分の年金記録と制度を確認しなかったことでした。年金では、「何歳まで働くか」だけでなく、「その働き方で厚生年金に加入するのか」「加入した場合、年金額や在職老齢年金にどう影響するのか」を確認することが重要です。

60歳は、年金について考えるのを終える年齢ではありません。むしろ、これからの働き方と年金を一度立ち止まって確認する、重要な節目だといえるでしょう。


執筆・監修:小泉@社労士ライター
20年以上の社労士経験を通じて、多くの相談者から「こんな制度があるとは知らなかった」「もっと早く相談しておけばよかった」という声を聞いてきた経験から、専門知識を、必要とする人に、正しく、わかりやすく届けることを大切にしている。社会保険・労働保険、公的年金をはじめ、暮らしや仕事に関わる制度について、専門家としての正確性と、生活者目線のわかりやすさを両立した情報を執筆・発信。保有資格は、社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士など。

の記事をもっとみる

注目コンテンツ