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演技未経験で「ネトフリ週間1位」に届いた俳優デビュー作 スイス留学と米国バスケを経た長身モデルの歩み

  • 2026.7.28
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2022年9月、ティファニーのイベントに登場したUTA(C)SANKEI

2026年7月、Netflixシリーズ『ガス人間』が配信開始となった。その題名を背負う役を演じたのがUTAである。演技はこれが初挑戦で、俳優としてのデビュー作にあたる。出演の事実は、およそ3年のあいだ伏せられていた。

順序としては、かなり珍しい。世界へ一斉に配信される作品の題名を背負う役=タイトルロールは、実績を重ねた俳優に渡ることが多い。この作品でその席に座ったのは、演技の履歴を一行も持たない人だった。

名字が効かない場所で職を得た

UTAの出発点は、日本の撮影所でもオーディション会場でもない。パリのランウェイだった。2018年にフランスのモデルエージェンシーと契約し、2019年春夏のパリ・コレクションでアンダーカバーとコム デ ギャルソンのショーに立ってデビューする。190cmに近い長身が、モードの最前線でそのまま通用した。2019年には、ファッション誌『Vogue Japan』5月号の表紙にモデルの江原美希と並んで登場している。デビューから1年足らずでの表紙である。

生まれたのは、名の知られた一家だ。父は俳優の本木雅弘、母は内田也哉子。祖父にミュージシャンの内田裕也、祖母に俳優の樹木希林がいる。だが幼少期からインターナショナルスクールに通い、中学でスイスへ留学し、高校からは米国で暮らした。大学ではバスケットボールチームに所属していた。日本の芸能界からいちばん遠い環境で育ち、モデルとして活動をはじめた。

この順番は、見た目より重い。二世としての名が効く場所を通らずに職を得た人は、最初の評価が誰の借り物にもならない。パリのキャスティングが見ていたのは血筋ではなく、190cmに近い骨格と、国境をまたいで育った身体の運び方である。家業を継ぐ形ではなく、まったく別の扉が先に開いた。その入り方が、のちの俳優デビューの意味まで決めていく。

ランウェイを降りていない

モデルの仕事は、俳優デビューの前史ではない。2026年1月、UTAは2026年秋冬メンズコレクションで、Yohji YamamotoとJunya Watanabeのランウェイに続けて立った。パリでのデビューから8年、同じ現場に呼ばれている。

同年6月には、男性ファッション誌『MEN'S EX』夏号の表紙に、俳優の小栗旬と並んで収まった。『ガス人間』で俳優としての露出が始まろうとしていた、まさにその時期である。デビュー作の話題を足がかりに軸足を移す、という分かりやすい動きを彼はしていない。ランウェイとカメラの前を、同じ年の同じ半年のうちに行き来している。

ランウェイは、季節ごとに巡ってくる定点でもある。話題性だけで立ったモデルは、数シーズンで入れ替わっていくことが多い。8年目のいまも第一線のデザイナーの服を着て歩いているという一点が、モードの内側で評価され続けてきたことの、いちばん静かな証明になっている。

経験のなさが資格になる

『ガス人間』は、1960年公開の映画『ガス人間第一号』のリブート作品である。身体を気体に変えられる男という設定を、Netflixは全8話のシリーズとして作り直した。UTAが引き受けたのは、その人間離れした存在そのものだ。準備は長かった。オファーの後に長期のトレーニングと肉体改造を重ね、撮影ではワイヤーを使い、ビルの4階から自ら飛び降りている。演技の経験を持たない人物に課された量としては、相当に重い。

ここで効いてくるのが、モデルとしての8年である。ランウェイは台詞のない仕事だ。歩幅、重心の置き方、視線をどこで止めるか。それだけで服の世界観を伝えきる。言葉を使わずに存在を成立させる技術を、彼は職業として反復してきた。加えて、米国の大学でバスケットボールを続けた身体には、肉体改造にもワイヤーの負荷にも耐えるだけの下地があった。

人ならぬものを演じるとき、頼りになるのはその技術だ。役が言葉で自分を説明しない存在である以上、所作と視線と身体の輪郭が、そのまま芝居の主語になる。台詞の巧拙では埋められない領域を、彼はモデルの現場で先に経験していた。

つまり彼は、何も持たずに現場へ入ったのではない。ランウェイで磨いた身振りと、競技で作った体力。別々に積み上がっていた二本の土台を、演技という一つの出口へ束ね直しただけである。真っ新に見えた人が、この役に限っては最も支度の整った身体を持っていた。デビュー作でタイトルロールという配役は、その逆転の上に成り立っている。

世界に届いた最初の一本

配信が始まると、『ガス人間』は日本のNetflix週間TOP10で初登場1位に入った。俳優デビュー作の届き方としては、望みうる最良の形だろう。この作品は、はじめから日本だけを見ていない。世界同時配信という器に、英語で長く暮らしてきた身体が乗った。パリで職を得た人が、パリと同じ広さの場所で俳優の一歩目を踏み出している。

パリのランウェイに立った長身のモデルと、真っ新な状態で難役を引き受けた俳優。二つは別のキャリアに見えて、同じ身体が通ってきた一本の道である。言葉より先に立ち姿で伝わってしまう人が、ビジュアルの強さを求められる役から俳優の仕事を始めた。その射程がどこまで伸びるのかは、測りはじめたばかりだ。


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