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【注目アーティストfile.34】アナログとデジタルのはざまに浮かぶ幽霊を作品にーー吉田志穂

  • 2026.6.29
CEDRIC DIRADORIAN / Hearst Owned

ファッションのスタイリングを楽しむように、もっと気軽にライフスタイルにアートを取り入れてほしい――そんな思いで気鋭の現代アーティストの作品をELLE SHOPで販売中! 今回は六本木のアートギャラリー、YUMIKO CHIBA ASSOCIATESの千葉由美子さんとタッグを組み、写真家の吉田志穂さんに注目。アナログ写真とネットやデジタルの世界を重ね合わせた独自の作風の根源にある思いをインタビューした。作品の詳細・購入はELLE SHOPへ。

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YUMIKO CHIBA ASSOCIATES 千葉由美子さん Hearst Owned

「吉田さんは写真を学んできた方で、作品も写真というジャンルに属しますが、非常にユニークな特徴をもっています。デジタルネイティブと呼ばれる世代の作家として、“フィルムで撮ってプリントする”という従来の写真の概念ではなく、写真がもつイメージ性を重視しています。そのイメージに置き換えたとき何が生まれるのかを考えながら解体していくその手法は、絵画的でもあります。そして、見た人はまず“これは一体なんだろう?”と感じる。反転しているのか、もともとそういうふうに撮っているのか、どうやって生まれたものか判断ができないし、明かされません。それが見る人の想像力を掻き立てるのです」

アナログ写真のプロセスに、現代の膨大な情報をかけ合わせる新手法

誰もがスマホで写真を撮れ、簡単に加工できる時代になった。写真は現実であり「証拠」のようなものから、妄想や象徴のようなものを表現するツールに変わりつつあるのかもしれない。しかし吉田志穂さんの作品は、そんな時代を裏切るような不思議な現実感がある。何か映ってはいけないものが見えてしまうような緊張が走る。被写体のうちの何かが、こちらに何かのメッセージを送ろうとしているようにも感じる。いや、もっと違う感覚が呼び覚まされる人もいるだろう。

そこにあるのは、どこか現実離れした風景や、輪郭の曖昧なイメージ。何が写っているのか、どのように撮影されたのか、一見しただけではわからないものも多い。いつの時代か、どこの国なのかも判然としない。「アナログ写真の伝統的なプロセスに、インターネットやGoogleマップ、画像検索、SNSなど、現代の膨大なイメージを組み合わせて、新しい写真表現を探しています」と吉田さんは語る。

写真集の色校正作業を進めている様子。 Hearst Owned

きっかけは、高校時代にたまたま入った写真部。「作家やカメラマンになりたいというような夢をもっていたわけではありません。絵を描くのも得意ではないし、音楽の才能もない。それでも何か自己表現の方法はないかと探していたときに、写真ならできるかもしれないと思ったんです」。被写体を探し、自分なりの選択を重ねながらシャッターを切り、一枚のイメージを作るという行為にのめり込んだ。大学に進み、本格的に写真を学ぶなかで、アナログ写真と出会った。「モノクロフィルムで自分で撮影して、自分で現像して、自分でプリントするというプロセスにすごく魅力を感じました」。そこに、日頃慣れ親しんでいるインターネットやデジタルといった現代の情報やツールを入れ込むことで、独自の表現を生み出している。

Shiho YOSHIDA「The Vestiges of the Unseen」(H355×W279mm (print size)、H500×W630mm (frame size)、2025) (C) Shiho Yoshida, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

Googleマップに現れる幽霊船。印刷のエラー…現代社会のゴーストを追い求めて

このアナログとデジタルのかけ合わせの間に、「幽霊」というキーワードがある。「例えば〈印刷と幽霊〉という作品は、幽霊というキーワードで検索していると、伊豆大島の幽霊船が出てきたんです。これは伊豆大島の港に本来あるはずのない巨大な船の影が写っている、というもの。つまるところGoogleマップの位置情報のエラーなのですが、今の時代だからこそ生まれた亡霊とも言えます。こういう不安定なもの、実態のないものに興味があって」。写真の技術用語にも「ゴースト」と言われるものがある。カメラのレンズに強い光が入り込むことで発生する現象だ。「デジタルや機械技術の、エラーのようなところに惹かれているのかもしれません。写真集を作ったときには、オフセット印刷を経験したのですが、大量に同じ印刷物を作るためのその技術に、わざと同じものが一枚たりとも出ないようにインクを暴走させて、意図的にスレを作ったんです。それを再度撮影して数千枚刷って、その一部をまた自分で複写してアルミにプリントして…と。アナログとデジタルを何層も何層も行き来しながら、自分の予期しないイメージを作りたい、という欲望があるんです」

Shiho YOSHIDA「The Vestiges of the Unseen」(H325 x W420 (print size, each)、H900 x W700 (whole size)、2025) (C) Shiho Yoshida, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

写真に映らないものを写真で表現したいという渇望

見えないものを見たい。それが吉田さんの原動力だ。「〈砂の下の鯨〉という作品は、自分が生まれ育った土地に、私が知らない間にクジラが座礁して、その後その砂浜に埋められているということを後から知ったんです。そのエピソードに非常に興味をもって調査して何度か撮影に行きました。砂の下に確かに存在しているはずで、でも決して見ることも撮影することもできない鯨を、なんとか表現したいと思ったんです。また同時期の作品〈測量 山〉は、学生時代から撮りためていた膨大な山の写真データを前に、もしこのデータの中の山が本当の質量をもつとしたらものすごい量になるはずで、その山を自分が表現するとしたらどうなるのだろう、という好奇心がわいて」

学生時代は山の稜線を撮影することに魅了された Hearst Owned

視覚体験を更新し、写真のあり方を拡張できる作品を生み出したい

こうした物の見方には、大学での学びも深く関わっている。「授業で先生から『見たことがあるものを作るな』と言われた言葉は常に心にあります。既視感のあるものは作らない。視覚体験を更新できるようなもの、今までの写真のあり方を拡張できるようなものを、なるべく作ろうと思って取り組んでいます」。モノクロが中心なのも、大学での影響が大きいという。「大学で初めてモノクロフィルムを扱って、その白から黒の間にある階調の豊かさ、それを自分の手で作れるということに喜びを感じました。東京工芸大学はモノクロやヴィンテージの良いプリントをたくさん所蔵していて、授業でもギャラリーでもそうしたものに触れる機会に恵まれてきたこともあります。モノクロは場所性や情報量を削ぎ落とすことができる、その匿名性も気に入っています」

2020年の展示「余白の計画」に向けた作品制作風景の一部。小型のプロジェクターを使用し、画像を自作の壁面模型に投影、それを再度撮影した。 Hearst Owned

今は曖昧さが不在の時代、と吉田さん。「みんな生きていくために、曖昧さを許さずに答えを確定させて進んでいかなくてはいけない。だからこそ、ちょっと不安定なものや実態のないもの、正体のないものを探したくなるのではないでしょうか」。アナログとデジタル。実在と虚構。目に見えるものと見えないもの。その境界を行き来することで、真実を掴もうとしているのかもしれない。

Shiho YOSHIDA「The Vestiges of the Unseen」(H500×W650mm (print size)、H900×W700mm (whole size)、2025) (C) Shiho Yoshida, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

SHIHO YOSHIDA

PROFILE 1992年、千葉県館山市生まれ。東京都を拠点に活動。2014年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。「第11回写真 1_WALL」グランプリ受賞(2014)、「第11回 shiseido art egg」入選(2017)、「第46回木村伊兵衛写真賞」受賞(2022)他、多くの賞を受賞。主な展覧会に、「TOKAS-Emerging 2020」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、2020)、「記憶は地に沁み、風を越え 日本の新進作家 vol.18」(東京都写真美術館、2021)、「あざみ野フォト・アニュアル とどまってみえるもの」(横浜市民ギャラリーあざみ野、2021)、「ハルシネーション」(YUMIKO CHIBA ASSOCIATES、2025)など。

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