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【注目アーティストfile.36】緻密な加賀友禅と九谷焼の技に宿す、毒とユーモア——水元かよこ

  • 2026.6.29
YOKO YAMASHITA

ファッションのスタイリングを楽しむように、もっと気軽にライフスタイルにアートを取り入れてほしい――そんな思いで気鋭の現代アーティストの作品をELLE SHOPで販売中! 今回はアートディレクターの女性ふたりが蔵前に立ち上げたギャラリー「mizusai」とタッグを組み、アーティストの水元かよこさんに注目。石川県金沢市に生まれ育ち、加賀友禅と九谷焼の技法を学び、日本の伝統技術とパンクでビビッドな感性が出合った道のりをインタビューした。作品の詳細・購入はELLE SHOPへ。

Recommended by mizusai 光本貞子さん&進藤尚子さん

mizusai 光本貞子さん&進藤尚子さん CEDRIC DIRADORIAN

「水元さんの魅力はすごくストイックなところと、パンク精神を持ち合わせているところ。ひとりのアーティストとして、とても格好いい女性だと感じます。また彼女はもともと加賀友禅の絵付けの仕事をしていたのですが、一度全てを手放してメキシコに行くなど遊学を経て石川に戻り、九谷焼と出合い、また修行を経て九谷焼の仕事をしています。九谷に対する深いリスペクトがありながら自分の世界観に変換している、すごく緻密な作業をしながら表現している作家さんです」

陶器に描かれているのは、カラフルで、緻密で、エネルギッシュな絵。見知らぬ国の伝統的な文様か、あるいは神話のモチーフのようにも見える。もっとずっとポップでキッチュにも見える。アリス、ハートを撃ち出すピストル、翼をまとったハイヒール、タロットカードやUFO——。「テーマは“日常と非日常”、そして用の美ならぬ“無用の美”の存在として、精神性だとか感情を込めたものを作っています」そう語る水元かよこさんの作品たちは、確かにそれぞれがとにかく何か、強いメッセージを伝えようとしているように思える。この世界は、どのように生まれたのだろうか。

YOKO YAMASHITA

「自分を消す」修行の日々

石川県で生まれ育った水元さんは、高校卒業後に加賀友禅の工房へ入った。「小さい頃から少女漫画を描くような仕事に憧れがあったんです。高校を卒業するとき、たまたま工房の募集があったので入りました。工芸が職業として普通にある環境だったんです。その特異性も後になって気づきました」。例えばケーキ屋さんや学校の先生といった仕事と同じように、“工芸の仕事”が身近に定着しているのだろう。伝統工芸の息づく石川ならではの“たまたま”だ。こうして工房で初めてもの作りに触れ、自分の居場所を見つけたという水元さん。「ここに入って初めて、ものを作るということが、自分にとってなくてはならないものになったんです」。とはいえ、加賀友禅の世界で過ごした7年間は、徹底した修行の日々だった。「自分を消し、先生の言うことにひたすら忠実に、その技法をなぞる、終わりのない探求なんです。7年というのは先生の許しを得て独立する節目の時期でもあります」。そろそろひとり立ちを考える頃、短期留学で訪れたメキシコが、大きな転機となった。「伝統的な世界にずっといた私にとって、メキシコは表現の方法も考え方もぜんぜん違う、自由と解放の世界。みんながアーティストに見えました」。それまである種抑圧され、ふたをしていた自己表現の扉を開けてしまった水元さん。一気にバンと爆発するように、外の世界に夢中になったという。

KAYOKO MIZUMOTO「MAKE ART,NO WAR」(h5.4×w62×d14.1cm)

メキシコで出合った“自由と解放の世界”

色彩にあふれた街並みやクリエイティブ表現に魅了された水元さんは、加賀友禅の道を離れてしまった。とはいえ、程なくしてものづくりやアウトプットのない日々にフラストレーションを感じるようになった。次に出合ったのは九谷焼。これも加賀友禅に並び、石川を代表する伝統工芸のひとつであり、着物と器とジャンルは違えど、いずれも色鮮やかで美しい絵柄が特徴だ。「同じ伝統工芸でも、加賀友禅と違い器なら日常的なアイテムだから、もっと自由度の高い表現ができるかもしれない、と思ったんです」

九谷焼の商品制作に携わりながら技術を学んだ。「最初は商品を作る仕事をしていましたが、自己表現の要素をもっと入れたいと感じるようになり、自宅に窯を設け独立しました。だからこそ、作品には自分のリアルみたいなものを織り交ぜたいという思いがあります。九谷焼、加賀友禅、そしてファンシーなものや昭和的なもの、そのほか今の自分が面白いなともうものを全部織り交ぜて制作しています」

KAYOKO MIZUMOTO「恋愛モンスター」(w34×d22×h16.2)

モチーフのもつ物語に込められたメッセージ

こうして生まれた、水元さんだけの世界。そこにはひとつひとつメッセージが込められている。今回ELLE SHOP ARTにも出品する代表的なシリーズのひとつが、『不思議の国のアリス』をモチーフにした作品群だ。「不思議の国のアリスというのは、子どもから大人への過渡期の、不安定なストーリー。誰もがそこを通り過ぎて大人になってしまうけれど、あの子供の頃の感覚はすごく大事なものが隠されていると思うんです。その夢と現実の狭間のような、支離滅裂な不安定さ、儚さ、危うさ、といったものに惹かれてこのシリーズを描いています」

タロットシリーズにも同じような関心が流れている。「タロットの絵札と番号の意味の関連性というのはとても奥深いと感じます。一枚一枚のカードに込められた、数秘術における数字の意味や法則と絵柄の意味が、キリスト教とか神話につながっていて、豊かなストーリーがあるんです」。翼をまとったハイヒールの作品《エルピス》には、ギリシャ神話の“望”が重ねられている。ハイヒールは女性を縛るものではなく、一歩を踏み出す勇気の象徴。「男性から見ればハイヒールというのはとても女性的なモチーフかもしれませんが、私は勇気や強さの象徴のように感じています。最終的に希望は最後まで残っていく、そういうポジティブなイメージをもとに、前を向いて歩いていく女性の覚悟を表現したいと思いました」。ピストルの作品で、銃口から放たれるのは暴力ではなくハートだ。「倒すべきなのは他人ではなく、自分の弱い心。 “戦争をやめてアートを作ろう”というメッセージを込めました」

水元さんのアトリエに隣接する自宅に飾られていた、習作の花瓶に、道端に咲いていたという旬の芍薬が映える。 YOKO YAMASHITA

相反するもの同士がぶつかり合って生まれる個性

これらのモチーフやメッセージが、九谷焼の技法の中で表現されているというのが面白い。「相反するものを混ぜるのが好きなんです。ポップなもののなかにもダークさを入れたり、和の技法を洋に見せたり」。水元さんの作品はどれも、相反するものが同居している。可愛らしさと毒。和と洋。工芸とアート。伝統と反骨精神。その結果生まれる違和感が、見る者に気づきを与える。加賀友禅で培った緻密な絵付け、メキシコで出会った自由な感性、そして九谷焼の伝統が、互いにぶつかり合い、混ざり合うことで、水元さんにしか作れない世界が生まれるのだ。「加賀友禅や九谷焼という要素は私にとってちょうどいい縛り。完全に自由なオブジェよりも、制約のなかでどう遊ぶか、ということを考えています」

作品を見る人にも、遊んでほしい、という。「童心に帰って遊んでほしいんです。日常のなかにある性別とか年齢とかしがらみとか、全部忘れて、遊び心に浸ってほしいと思います」。現実と幻想、日常と非日常の境界をまぜこぜにして、心と脳を自由に解き放ってくれる。彼女の作品には、そんな力がある。

KAYOKO MIZUMOTO「エルピス」(右足w25.3×d10.8×12.8、両足で販売)

KAYOKO MIZUMOTO

PROFILE 1971年、石川県生まれ。加賀友禅工房に弟子入りし、その後2000年にメキシコ アジェンデ美術学校短期留学を経て2001年より九谷焼の窯元で絵付けの仕事に携わる。2010年、自宅に築窯し、2018年、石川県立九谷焼技術研修所実習科修了。九谷の技法で緻密な西洋画風の彩色を施し、これまでになかったオブジェや茶器を制作。茨城県陶芸美術館(茨城)、ハイアットセントリック金沢(石川)に作品所蔵。

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