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茶人の小野晶子さんと釜師の三代 角谷與斎さんが語る、「地球儀釜」に込めた世界平和のメッセージ

  • 2026.6.27
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和の尊さを説く「茶の湯」の精神は、争いの絶えない今日の世界において、一層、その意義を強くしています。“世界的な平和活動家”と親族の縁を持ち、ハワイの地で次世代に茶道の学びを導く茶人、小野晶子さんの活動もまた、平和への轍(わだち)を着実に刻むものです。今回は、平和のメッセージが込められた茶釜である「地球儀釜」をめぐり、依頼主の小野晶子さんと、作り手である裏千家出入方釜師、三代 角谷與斎さんが語り合います。

春らしい桜色のきもの姿の小野さんと、袴を召した角谷さん。対談の場、大阪市にある深江郷土資料館別館にて。江戸時代に庄屋を務めた旧家邸宅を修復した、日本家屋が美しいスポット。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

<Profile>
小野晶子(おのあきこ)/ハワイ大学日本研究センター茶道講師

1965年生まれ。国際基督教大学卒業後、外資系証券会社を経て、ロンドンでインテリア・デザインの資格を取得。2007年夫とハワイへ移住。’19年より現職に就き、裏千家茶道を学生に伝授。茶名「宗晶」。

<Profile>
三代 角谷與斎(かくたによさい)/釜師

1965年、大阪市で代々鋳物を製造する角谷家の長男・和彦として生まれる。大学卒業後、父與斎に師事。大阪工芸展知事賞などを受賞し、2017年「三代與斎」を襲名し、裏千家今日庵出入方の釜師となる。茶釜に加え、鉄瓶やかん鍋も制作。

世界地図とピースサイン。“平和”をまとった茶釜

<strong>世界地図紋丸釜<br></strong>「平和茶会」と銘打った茶会を催すに当たり、小野さんが裏千家出入方釜師、三代 角谷與斎さんにオーダーし完成した茶釜。丸釜の鋳肌には世界地図が克明に描写され、蓋の摘みは銀で仕立てたピースサインが。通称「地球儀釜」。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

――お二人が会うのは、2025年6月に軽井沢で開催された、小野さんの「平和茶会」以来だそうですね。

小野晶子さん(以下「小野」敬称略):はい。ご依頼した「地球儀釜」を、茶会前日にご持参くださいました。

角谷與斎さん(以下「角谷」敬称略):ぎりぎりまで試行錯誤がありましたので、まさに作りたてほやほやでのお届けでした。

対談の間での角谷さん。春日大社の鹿曼荼羅の軸が背景に。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

小野:手にしたときはうれしかったです。他のお道具と合わせた全体のバランスが思っていたようにしっくりときて、心底ほっとしました。

角谷:お茶席のなかで、釜は最初から最後まで動かずそこにあるものですから、他の道具との取り合わせの邪魔をしない、最もオーソドックスで目立たないものというのは基本です。皆さんもそのあたりのことをよくご存じですから、少し遊びのある個性的なものは、風炉の釜でのご依頼が多いように思います。

立礼にしつらえた地球儀釜を、客側から眺めて。大西洋を挟み右にヨーロッパ、左に南米大陸が見える。地図の表現は、伝統的な鋳造技術と三代與斎さんの技の結晶。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

小野:茶会に参加くださった皆さんも、「これ、地球儀じゃない?」と、すごく喜んでくださってました。

角谷:私は「頑張って!」と釜を見守る感じで…。変わった鳴り音がしようものなら、は!と心配にもなります。いい音が鳴るようにと無事を祈る、親心のようなものですね。

小野:鳴りは大切ですね。

角谷:釜の音は、水の温度が上がるに従い変わります。昔から例えられるのが、「松風の音が鳴ったら、お茶が飲める温度ですよ」と。

小野:おかげさまで、おいしいお湯が沸き、大変おいしいお茶を点てることができました。

地球儀釜の設計図。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

――還暦の区切りの茶会と伺っていますが、平和茶会と地球儀釜のアイデアは、どこから?

小野:お茶会のテーマを考えるなかで、戦争が勃発している昨今、「世界」を意識した釜がいいというのがありました。私自身も海外に住んでいますし。また、多くのご縁に支えられ導かれた人生だとつくづく思うのですが、裏千家15代お家元の鵬雲斎宗匠、義伯父のジョン・レノン、伯母のオノ・ヨーコという3名にはやはり多大な影響を受けました。共通するのは、文化活動や芸術を通じて、「世界平和」という明確なメッセージを訴え続けたことです。私は茶道の世界では歴の浅い半人前で偉そうなことは言えませんが、節目の年に私なりにこのご縁を茶会に生かすことをお許しいただき、偉大な先達の歩んだ道を1人でも多くの方々に知ってほしいと考えたのです。

ジョン、ヨーコ、宗匠…。思いをつなぎ、未来へ

風炉に据えた地球儀釜で、湯を沸かし、茶を点てる。茶室の静けさのなかで、「松風」と呼ばれる湯沸かしの音が耳に心地よく響きます。音色は茶釜の大きな魅力。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

小野:茶道具のなかでもお釜には特に愛着があるものですから、自分の思いを表したいという気持ちが強くありました。角谷先生にはご苦労をかけたのではないでしょうか。

角谷:いえいえ。丸釜は下を合わせる難しさがありますが、幾つか工夫をしています。同じ釜師が見れば「ここはどうやって作ってるのかな」と興味を引くポイントをちりばめて。後世の釜師へのメッセージになれば面白いかなと思っているんです。

小野:それはなおさら大切にして、次世代につなげます。実は軽井沢での平和茶会には、「Imagine」と鵬雲斎宗匠から英語でご銘を賜ったお茶杓も使わせていただきました。義伯父ジョンの他界より45年、そして終戦80周年というタイミングも大きかったと思います。

鵬雲斎好「瑞鳳腰風炉先」(奥村吉兵衛作)、「紫紺釉金彩水指」(宮川香雲作)、茶杓「修磨」(鵬雲斎作)など、角谷さん取り合わせの茶道具。唐銅の雲龍風炉も角谷さん作。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)
摘みや鐶付の型。 Katsuo Takashima(BOW PLUS KYOTO)

角谷:小野先生が昔からこうしたことに力を注がれていることは存じ上げていましたから、地球儀釜のお話そのものも自然に感じました。

小野:地球儀釜でよかったと思ったのは、お茶になじみのない方もご覧になってすぐに、「平和」を想起してくださる分かりやすさです。国籍やバックグラウンドにも関係なく笑顔になっていただけた。遠来のお客さまも多くお見えでした。席中で共に平和に思いを馳せていただくことを望んでいましたので、その意味でも角谷先生に感謝しています。また茶の湯には、鵬雲斎宗匠が「一盌(いちわん)からピースフルネスを」と掲げていらしたように、人と人を穏やかに結ぶ作用があります。かつて鵬雲斎宗匠は国連でお献茶をなさいましたが、その際には敵対する北朝鮮と韓国の代表者が隣同士でお茶を飲んだというエピソードも。共にお茶を喫することで、立場を離れた人間同士に戻れたのだと。まずはそんなところが、平和の第一歩かと思います。

角谷:普段は自分のことで精いっぱいなところがありますが、改めて平和を考える機会を得た思いです。

小野:世界から争いはなくならず、平和を訴える活動をしても意味がないように感じることもありますが、何もしないよりはいい。文化の力は侮れないと思っています。まずは小さな茶室から。そして、隣人への配慮から。平和への思いは、静かに拡散していくと信じています。

【思い出の軽井沢、万平ホテルで開催した「平和茶会」】

ジョン&ヨーコさんとの思い出深い万平ホテルで。 Hearst Owned

「有り難い縁に恵まれてきた」という小野さんが、還暦の区切りの感謝を形にと催したのが、「平和茶会」です。人生で特に影響を受けた伯母オノ・ヨーコ、義伯父ジョン・レノン、茶道裏千家15代家元鵬雲斎宗匠という先達たちの、平和への取り組みへのオマージュでもありました。

ビートルズの『ホワイト・アルバム』を模した「塩瀬総本家」特製菓子。 Hearst Owned
ギター形の容器を水指に見立てて。 Hearst Owned
立礼棚の地球儀釜。 Hearst Owned

茶釜の名門、角谷家の功績を後世に伝える「深江郷土資料館」

本館内部。茶釜や鉄瓶の名品が並ぶ。 Hearst Owned

角谷さんの父である先代の角谷與斎や、叔父で重要無形文化財保持者(人間国宝)の角谷一圭ら、地元、深江に縁のある茶釜の名匠の作品が展示された資料館。伊勢神宮に奉納される菅の手工芸品の展示も。本館に隣接する昭和10年建立の日本家屋を再生した別館は、国登録有形文化財。

大阪市内の隠れ家のような立地の別館。 Hearst Owned
日本庭園では四季折々の草木が育つ。 Hearst Owned

「深江郷土資料館」
所在地/大阪府大阪市東成区深江南3-16-14
開館時間/9:30~12:00、13:00~16:30(土・日曜 9:30~12:00、14:00~16:30)
休館日/不定期休館あり
料金/入場無料
TEL/06-6977-5555
URL/fukae-heritage-museum.or.jp
※別館の見学、使用は要問い合わせ。

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