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日常を丁寧に生きるというマインドフルネス

  • 2026.6.27

メンタルヘルスに欠かせない概念となったマインドフルネス。物質的な豊かさに満たされた現代だからこそ、ラグジュアリーには内面に深く作用する心地よさが求められています。そこで世界が注目しているのが、日本人が古くから培ってきた、日常を丁寧に生き、今を大切に味わう姿勢。京都「両足院」の副住職、伊藤東凌さんに、成熟した「内的なラグジュアリー」としてのマインドフルネスについて伺います。

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<Profile>
伊藤東凌(いとうとうりょう)/臨済宗建仁寺派両足院副住職
建仁寺派専門道場にて修行後、15万人以上の坐禅指導を担当。アートを中心に領域を超え、現代と伝統をつなぐ試みを続ける。META(旧称 FACEBOOK)本社における禅セミナーの開催や、アメリカ、アジア、ヨーロッパ各国での禅指導など、海外でも活動を行う。

日常の細部にこそ宿る贅沢

ヒビが入った明治時代の漆器を銀継ぎ。金継ぎ作家ナカムラクニオ氏の作品。(参考商品)(6次元) Teruaki Kawakami(bean)

ここ数年、僧侶である私へのオファーで顕著に増えているのが、ラグジュアリーホテルや富裕層向けセカンドハウスの「マインドフルネス・ディレクター」の依頼です。瞑想(めいそう)ルームを設けたい、バスルームや書斎、共有空間を、心を整える空間にしつらえたい。ラグジュアリーとは豪華さやセンスの良さだけでなく、内面に深く作用する心地よさや、何げない瞬間を深く味わうことだという価値観が、社会に根付き始めたのを感じています。

マインドフルネスが最初に脚光を浴びたのは、2000年代初頭。米国のテック企業が研修の一環としてマインドフルネスを取り入れ、脚光を浴びました。私もシリコンバレーで瞑想指導を行った際、企業内に複数メディテーションルームが設置されているのを目の当たりにし、感銘を受けたものです。その後日本でマインドフルネスが定着したのはコロナ禍のとき。制限された暮らしの中で、今この瞬間に集中して日々を豊かに生きる思想が改めて注目され、今やメンタルヘルスに欠かせない概念となりました。

現代は物質的な贅沢が民主化され、かつての王侯貴族以上に裕福な暮らしができています。物に囲まれ、華美を競うだけでは豊かさの実感が得られない時代ともいえるでしょう。物質主義へのアンチテーゼとして現れたミニマリズムも一巡し、より成熟した内的なラグジュアリーとして、瞑想的な空間やマインドフルネスな生き方が求められています。

そしてマインドフルネス的な感性は、日本人が古くから培ってきたもの。海に囲まれた国土、限られた資源、度重なる天変地異の中で充足して生きるには、自らの内側に意識を向け、仲間と分かち合い、小さな工夫を重ね続けることが必要でした。そうして積み上げた暮らしが、自然の猛威により一瞬で失われる無常も知っているからこそ、今を大切に味わう姿勢がDNAレベルに染み付いているように感じます。

西洋的な外へ外へと拡大して得る富とは真逆の、感覚を研ぎ澄まし、今ここにあるものに集中し、味わいながら生きる贅沢。それはシンプルに言うと、日常を丁寧に生きるということ。丁寧にしつらえた空間に、丁寧に作られた日用品を配し、丁寧に使いながら愛(め)でる。そんな日本古来の暮らしが最高の贅沢とされ、世界が注目する時代になったのは誇らしいことです。

あなたはすでに、それを実践しているのではないでしょうか。マインドフルネスは坐禅や瞑想だけでなく、日常の細部にこそ宿るもの。欠けた陶磁器を金継ぎで美しく蘇らせる。和室を棕櫚(しゅろ)ほうきでつややかに掃き清める。私たち日本人が自然と続けてきたそんな営みに改めて焦点を当て、あなたらしさを添えて表現してください。そして、日本文化に興味を持つ人に、自分流マインドフルネスとは何なのか、語れるようになってください。贅沢とは、生ある今を丁寧に慈しむ生き方だということを、共に伝えていきましょう。

問い合わせ先
6次元
URL/x.com/6jigen

初出:リシェスNo.55 2026年3月27日発売

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