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ドラマ『月夜行路』原作者と脚本家の密なやりとりによって実現したミステリーエンターテインメント。楽しく「文学」に触れるドラマ制作のねらい【プロデューサー水嶋陽インタビュー】

  • 2026.6.10

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ドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』(日本テレビ系)は秋吉理香子氏の小説『月夜行路』(講談社文庫)、『月夜行路 Returns』(講談社)を原作にした文学ロードミステリー。銀座のバーのママとして働くトランスジェンダー女性の文学オタク・野宮ルナ(波瑠)と、自身の選択に後悔を抱える専業主婦の沢辻涼子(麻生久美子)が出会い、旅先で起きる事件を解決していく。

文学と謎解きを題材にして描かれる本作。プロデューサーをつとめる水嶋陽氏に作品の魅力や原作者と脚本家の密なやりとりが実現した経緯、そして、今夜10時に放送される最終話の見どころを伺った。

ハードルの高い「文学」を楽しく学べる作品に

――最初に本作をドラマ化しようと思ったきっかけを教えてください。

水嶋陽さん(以下、水嶋):最初は「面白い本があるよ」と紹介されたことがきっかけです。僕は『THE突破ファイル』『カズレーザーと学ぶ。』(日本テレビ系)といった教養バラエティを担当していたこともあって、もともと新しい知識に触れることに興味があり、本を読んだときもすごく知的好奇心をくすぐられました。文学の知識で謎を解いていく物語も新鮮で、1話ごとの連作になっているので連続ドラマとの相性もいい。大阪で文豪にゆかりのある場所を巡りながら、毎話、さまざまな文学の名作も学べるので、いろいろな要素を楽しんでもらえる作品になると思いました。

――本作は「文学×ミステリー」という一見、難解なジャンルでありながら、深い知識がなくても入り込みやすい物語になっています。ドラマ化する際に、何か意識していたポイントはありますか?

水嶋:幅広い視聴者の方々に向けたテレビドラマという特性を考えると、当初は「文学の要素をあまり前面に出さずに、あくまでルナと涼子のシンプルな旅物語としてアピールした方がいいんじゃないか」という意見もあったのですが、僕はやっぱり本作の圧倒的にユニークな部分は文学で謎を解く部分だと思ったので、そこは怖がらずに推していこうと。実際、夏目漱石や太宰治という名前はみんな聞いたことがあるはずなので、詳しくは知らなかったとしても取っ掛かりがあるなら興味をもってもらえると思いました。

――ドラマで文学の魅力を伝えるうえで、どのように工夫しましたか?

水嶋:名作とされる小説は重厚な作品が多いのでどうしても敷居が高いですよね。なのであくまでライトに、文学作品を全く読んだことがない人でも安心して楽しんでもらえるよう工夫をこらしました。たとえば、聞き手である涼子の設定は原作だともう少し文学に詳しいんです。一方、ドラマ版では全然本を読まない人という設定にしています。そうすることでルナの説明も一段と易しくなりますし、結果的にルナの文学の魅力を伝えたいという熱量がのりやすくなり2人のギャップも相まってオタクキャラが強まりました。ほかにもイラストを入れたり、テロップを入れたり、文学を楽しく学べる作品にするために何度も話し合いました。

――話し手のルナが楽しそうに作家や本の話をしてくれるのも、文学に興味をもつきっかけになりますね。

水嶋:まさにそこは皆がこだわった部分です。特にその回のテーマとなっている文学を紹介するブロックでの、ルナの抑揚のある活弁士風のしゃべり方は監督のこだわりです。きっと文学オタクのルナなら大好きな涼子にも文学を好きになってもらいたいから、一生懸命工夫をこらして話すだろうと。文学愛は作品の大テーマのひとつですので、実勢にSNSでドラマをキッカケに本を手にとってくれる人を見かける事もあり、とても嬉しいです。それは彼女の個性でもあるので、そう感じてくれたなら嬉しいです。

自然と日常の中で一緒にいるルナと涼子の関係性

――本作でW主演を務めるのは、波瑠さんと麻生久美子さんです。まずは波瑠さんをキャスティングした理由を教えてください。

水嶋:ルナは涼子にとって、狭い世界で生きてきた自分を非日常に連れ出す存在です。日常に舞い降りて、新しい扉を開いてくれ、この人にならついて行ってしまいそうという存在感を出せるのは波瑠さんしかいないと思いました。ルナは文学オタクでもあるので、知的さがあることはもちろん、神々しさや崇高さを体現できる人がいい。映像を観ていても、波瑠さんは画面に吸い込まれるような美しさがあります。それに最近の波瑠さんはクールな役柄のイメージがあったので、かわいらしくてチャーミングなルナを演じたら、見たことのない波瑠さんが見られるんじゃないかと思いました。

――ルナと一緒に旅をする専業主婦の涼子を演じた麻生久美子さんはいかがですか?

水嶋:涼子は原作では現実に打ちひしがれて、悲壮感が強いキャラクターです。私の人生は本当にこれでよかったのか、自分の選択は間違いだったのではないかと後悔している。でも、ルナとの出会いを経て変化していくので、最終的には彼女を引っ張っていくような力強さがある人がいいなと思って、絶対に麻生さんに演じてほしいとお願いにあがりました。麻生さん自身も2人の子どもを育てるお母さんでもあるので、家族中心に生きてきた涼子ならではの悩みにはちゃんと寄り添いながらも、一方で悲壮感だけで飛び出した訳じゃない、ルナとの旅をちゃっかり楽しんでいる強さももつ愛らしい涼子を演じてくれました。人を包み込むような包容力があって、最終的にはルナも包み込んでいく。そういう涼子のチャーミングさは麻生さんからいただいたものです。

――バディとなるルナと涼子の関係も魅力的です。春ドラマでは女性バディの物語も多く放送されていますが、2人ならではの魅力はどんなところにあると思いますか?

水嶋:僕はやはり2人がまとう、ほどよい距離感。視聴者の方々も毎週水曜日に会いに来たくなる…そんな身近さ、自然と集まるような友達感だと思っています。決して巨大な目標に向かっているわけではないけれど、その場で起きたことが口実になって、自然と2人が日常の中でずっと一緒にいるような感じ。それこそ、よく田村(栁俊太郎)や小湊(渋川清彦)がバーにやってきますけど、あの場に視聴者の皆さんも自分が座っている気持ちになってもらえる、人を招き入れる余白のある関係が魅力だと感じます。

原作者と脚本家の密なやりとりによって生まれたシーンの数々

――ドラマの脚本を務めるのはドラマ『夜行観覧車』(TBS系)や『最愛』(TBS系)など、ミステリー作品を多く手がける清水友佳子さんです。清水さんが脚本を務めることになった経緯を教えてください。

水嶋:僕が今回、初めてのドラマ担当だったので、しっかりキャリアのある人と組んで勉強したい思いがありました。清水さんはもちろんミステリーでも多数の代表作をお持ちですが、描かれる人間ドラマがとても素敵だなと。これまで清水さんの作ってきたものが好きなこともあって、ぜひお願いしたいなと思いました。

――秋吉さんも清水さんのことをSNSで絶賛していました。何度も話し合いの機会を設けたとのことですが、原作者と脚本家の密なやりとりはどのように実現しましたか?

水嶋:秋吉先生は清水さんのファンですから(笑)。それこそ、講談社にお茶菓子を持っていって、みんなでずっと話し合いをしました。「東京編」ではルナと家族の関係について描いていますが、この部分はドラマの放送に合わせて秋吉先生に書き下ろしていただいた物語なので、(打ち合わせ)当時はまだ描かれていなかったんです。だから、ルナにはどのような背景があって、どんな家族構成なのか、秋吉先生に聞いて理解を深めていきました。本に書かれてあることだけではなくて、その奥に何があるのかを掘り下げていかないと、原作者の思いともズレるし、キャラクターのセリフもズレてしまう。あくまでも秋吉先生の頭の中には何があるのかを清水さんと徹底的に掘り起こしていきました。あと、僕は当時出版されていた原作の面白さをそのままドラマにしたいと考えていたので、1巻分の内容を無理やり10話に引き延ばすより一度5話で「大阪編」として区切りを付けたいと考えていました。なのでその旨を伝えたうえで6話以降の新章をどうするかもそこで話し合いました。

――第5話はルナと涼子が橋の上で再会するシーンが印象的でした。原作とは少し異なる展開ですが、話し合いの中でどのようにしてあのシーンは生まれましたか?

水嶋:原作のラストは颯爽とルナが涼子に別れを告げて去って行く。とてもルナらしいかっこいいエンディングなのですが、ドラマは続編がありますから、ちゃんとルナは真実を明かして涼子と和解する回が必要だろうということで、秋吉先生にも了承をいただいてオリジナルストーリーを作ることとなりました。結果として2人が本当の意味で友達としての絆を深めるキッカケの回となりましたし、以降の東京編も2人を応援し続けたくなる弾みになったと思います。特に橋の上で再会するシーン、2人の間に漂う緊張感やそれがほどける温かさは、秋吉先生の解釈を清水さんが拾って、ていねいに組み上げてくれたことで生まれたシーンです。3月3日にちょうど皆既月食があると知り、大阪を代表する月の名所で川端康成の小説の舞台となった住吉大社の反橋が舞台となりました。ちなみに現地へ向かう麻生さんが阪堺電車の駅の場所を尋ねた通行人は、何を隠そう秋吉先生です(笑)。

――原作にはない描写として、ルナが推理を披露する前のルーティンである「もぐもぐタイム」がドラマでは取り入れられています。何かきっかけはあったのですか?

水嶋:監督が秋吉先生に「トリックを考えるのって大変じゃないですか? どうやってるんですか?」と訊いたとき、「お菓子をもぐもぐ食べながら考えています。だから、作品を書いている間は太っちゃうんです」と話していらしたんです。そのときの雑談から、ルナが推理の前にお菓子をもぐもぐするシーンが生まれました。ほかにも、僕からは監督に文学がテーマなので、もぐもぐしている最中のルナの思考の過程が読み取れるように、手がかりとなるヒントを文字テロップとして入れたいとお願いしました。ドラマを観ている人はテロップで説明が入るのを嫌がるイメージもありますが、やっぱり視聴者の参加感を高めたかったし、このドラマをきっかけに文学を好きになってほしい思いがあり、監督も同意してくれました。もぐもぐタイムやテロップの演出の他にも「つながりました」や「私がこの事件をもとに小説を書くとしたら…」などの決め台詞、その後の展開を予感させるイラストを入れたタイトルバックなど、とにかく視聴者の皆さんが楽しんでもらうことを最優先に、話し合いで生まれたアイデアはどんどん盛り込んでいきました。

最終話は「ルナと涼子の友情を見届けてほしい」

――最終話の見どころを教えてください。

水嶋:東京編を通して描かれてきた『吾輩は猫である』のパスワードの謎とパソコンの中身は何なのか。ルナと父親は再会して、思いを通じあわせることができるのか。実は『吾輩は猫である』だけではなく、第1話の冒頭で登場したアンデルセンの言葉もカギを握っています。『月夜行路』というタイトルも含めて、さまざまな伏線を張っているので、楽しみにしていただければと思います。そして、最終話は涼子が大阪旅を通してルナから受け取ったものを、きちんと恩返しする回でもあるので、ルナと涼子の友情もぜひ見届けてほしいです。

文=ネゴト / ばやし

ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(日本テレビ系)

放送日時:今夜10時 最終回放送

出演:波瑠、麻生久美子、ほか

原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社文庫)、『月夜行路 Returns』(講談社)

脚本:清水友佳子

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