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6年前、カンヌを震撼させた“借金だらけの危うい美女”。NHKドラマに引っ張りだこの「実力派女優」とは

  • 2026.6.30
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2018年3月、映画『去年の冬、きみと別れ』大ヒット舞台あいさつを行った土村芳(C)SANKEI

朝ドラの親友役で覚えた顔が、化粧品のCMに現れる。深夜ドラマで揺らぐ女性を運び、BSドラマの静かな主演で看取りの時間を担う。立ち位置はそのつど違うのに、画面の重心の取り方だけは変わらない俳優がいる。土村芳(つちむら・かほ)である。

主演でも親友役でも、深夜の作家性の現場でもCMでも、姿勢が崩れない。商業のオーディションでスター候補として吸い上げられたのではなく、映画の現場で4年かけて身体を作ってきた人だ。だから派手な売り出し方をされなくても、生活の場でじわじわ「あの人か!」が起きていく。その地味な信頼の重ね方が、この俳優の正体である。

映画の現場で身体を作ってから始まった

土村芳は岩手県盛岡市の出身。高校時代は新体操をインターハイまで続け、芸術大学の映画学科俳優コースに入学した。タレント養成所ではなく、映画の現場と直結したカリキュラムの中で4年間、身体を作っている。

大学在学中に映画デビュー。2013年には林海象監督の映画『彌勒 MIROKU』では永瀬正敏と並ぶ重要な役を任され、画面の真ん中を引き受けた。出てきていきなりベテランの隣で真ん中を任される入り方は、新人として相当の試練である。生活の場での認知は、ここではまだ起きていない。けれど現場側の評価は、デビューから2年でこの位置にあった。

朝の食卓に届いた親友役の温度

全国の家庭の朝に土村芳の顔が届いたのは、2016年度後期に放送されたNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』だった。芳根京子が演じた主人公・坂東すみれの女学校時代からの親友・君枝。子供服ブランドを共に立ち上げる創業メンバーの一人で、明るく芯のある女性だ。

ここで注目したいのは、土村がこの役で果たした仕事の手触りである。半年間、朝ドラの定点で隣に立ち続けて主役の温度を整える役柄は、ともすれば「主役の引き立て役」として消費されかねない。だが土村はそうならない。親友役という独立した席で画面の温度を作っていた。

それは、その前の2年で永瀬正敏の隣に立っていた俳優の姿勢と地続きでもある。真ん中に立っても、隣に並んでも、画面に対する身体の置き方が変わらない。生活の場での「あの人か!」が始まったのは、この朝ドラの半年だった。商業的なスター街道とは別の入り口から、土村芳の顔は朝の食卓まで届いた。

作家性の現場でも消費されない強さ

2019年、メ〜テレの連続ドラマ『本気のしるし』。脚本・監督は『淵に立つ』を撮った深田晃司。土村が演じた葉山浮世は、森崎ウィンが演じる平凡な会社員を翻弄する、嘘と借金にまみれた危うい女性。森崎とのW主演で、容易な役ではない。深夜ドラマとして放送されたこの作品は、翌2020年に『本気のしるし<劇場版>』として再構成され、カンヌ国際映画祭2020の公式選出作品にも選ばれている。

朝ドラで親友役の温度を整える顔と、作家性の強い作り手に呼ばれて難しい女性役を運ぶ顔。並べて見ると一見落差が激しいが、画面への身体の置き方は同じだ。役柄に対して大きな演技で勝負しに行くのではなく、その人物の生活と感情の重さを姿勢のまま引き受けてしまう。深田晃司に呼ばれるというのは、そういう種類の俳優にだけ起きる出来事だろう。

朝ドラを通っても、深夜の作家性の現場でも消費されない。これがこの俳優の不思議な強さである。

看取りの時間を静かに担う主演

そして2021年、土村芳はNHK BSドラマ『ライオンのおやつ』で海野雫を主演した。原作は小川糸の同名小説で、瀬戸内のホスピスを舞台に、29歳で余命宣告を受けた主人公が残りの日々を過ごすという物語だ。

派手な見せ場で泣かせに行く役ではない。仕掛けで盛り上げず、ホスピスという生活の場にただ静かに存在し続ける主演。画面の真ん中で大きく動かない俳優をそこに据える判断は、配役側のかなり明確な選び方である。土村芳という俳優の核がいちばん見やすいのは、おそらくこの一本だろう。

朝ドラで親友役を運んだ姿勢のまま、看取りの場でも姿勢が変わらない。生活の場で「あの人か!」が起きていく延長線上に、看取りの時間の主演がある。そのことを、この主演作は静かに証明していた。派手な代表作で覚えてもらう俳優ではなく、生活のいろいろな場面で繰り返し出会う俳優として、土村芳の輪郭はこの頃にはもう定まっていた。

また生活の場で起きる「あの人か!」

2026年6月から始まるNHK BSドラマ『勿忘草の咲く町で〜安曇野診療記〜』で、土村芳は梓川病院の主任看護師・大滝菜緒を演じる。福本莉子が演じる3年目の若手看護師・月岡美琴を、現場を回しながら温かく見守る、豪快で気配りに長けた先輩看護師の役だ。

若手の隣に立ち、現場の温度を整える主任看護師という位置取りは、これまでこの俳優が積んできた歩みにそのまま重なる。主役を張る人と、隣で支える人。映画の真ん中で永瀬正敏と並んだ身体と、朝ドラで芳根京子の親友として立ち続けた身体と、ホスピスの主演で看取りの時間を担った身体。化粧品『ちふれ』や『チョーヤ梅酒』のCMで生活の場に届いた顔も含めて、別々の引き出しを開けているのではない。同じ一つの姿勢で、その都度違う場所に立っているだけだ。

病院という生活の場で、若手を支える主任看護師として、もう一度「あの人か!」が起きる。代表作一本で覚えてもらう派手な俳優ではない。けれど何度目かの「あの人か!」が積み重なって、生活の場のいくつもの席に静かに居場所を作っていく俳優というのは、こういう人のことを言うのだろう。土村芳の浸透の仕方は、そういう地味で確かな重ね方で、これからも続いていく。


※記事は執筆時点の情報です

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