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防災+戦災から暮らしを守る…いま求められる「総合防災性」シェルターとは【後編】

  • 2026.5.1

日本安全保障・危機管理学会(JSSC)民間防衛研究部会の部会長を務める山口忠政さんは、国によるシェルター整備に加えて、民間防衛の重要性を説きます。では、民間による総合防災性シェルター普及には何が必要なのでしょうか。後編では、設置の現場を熟知した山口さんに、その具体策などを聞きました。

『【前編】防災+戦災から暮らしを守る…いま求められる「総合防災性」シェルターとは』 はこちら

大きなシェルターひとつより、生活圏に小さなシェルターを

——民間防衛は、国が進めるシェルター整備とは違うのでしょうか。

サイレンが鳴ったらすぐに逃げ込めるように、シェルターはできるだけいる場所の近くにあることが望ましい。今回の米国のイラン攻撃に参加したイスラエルは、イランから反撃を受けました。イスラエルはシェルター整備が進んでいるはずですが、反撃から命を守るシェルターまでの距離が遠く、多くの人が地下駐車場などに身を寄せているといいます。

大きなシェルターには大勢の人が殺到し、混乱するし、ミサイルの標的にもなりやすいのですが、たくさんの小さいシェルターにすべてミサイルを撃ち込むことは難しいです。本来は立派な大きなシェルターをひとつ作るより、身近な生活圏に溶け込んだ小さいシェルターが分散してある方がいいわけです。

しかし、日本では家庭や企業などへの小型シェルターの設置は進んでいません。日本は周囲を囲む海に守られているというのは過去の話です。核爆弾にしても、もはや飛行機から落とす時代ではなく、ミサイルがだいたい狙い通りのところに飛んできます。

にもかかわらず、国民のシェルターに対する関心は低いままです。企業のBCP(事業継続計画)策定は徐々に進んでいますが、対策は自然災害に偏っていて、戦災まで想定した準備はできていません。

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シェルターが広がらなかった日本 今こそ民間防衛に対する認識を高める時

——日本は太平洋戦争で焼夷弾を落とされて防空壕を作った経験があるし、最近も数多くの自然災害に見舞われています。なぜシェルターに対する関心が低いのでしょう。

これまでは、国民の危機に対する意識の問題もあったと思います。国のために戦った太平洋戦争で国が焦土と化した反省から、戦後の平和教育や経済優先の時代が続いたこともあって、外国がいきなり攻めてくるわけがない、話せば分かるはずだ、という漠然とした意識があるのかもしれません。自然災害が多いのですが、総じて一過性で、東日本大震災までは被災地域が広域にわたる災害も少なかった。他の地域からの支援で、被災から立ち直り、復興することもできました。

しかし最近は、安全保障環境の変化や災害の激甚化を受けて、国民の安全・安心に対する危機感は高まっています。今こそ民間防衛に対する認識を高め、防災機能も兼ね備えた総合防災性シェルターを普及させる好機ではないでしょうか。

——家庭などに設置する総合防災性シェルターは、そもそもどの官庁が所管しているのですか。

軍事的な攻撃からの防護に対する知見は防衛省が持ち合わせていますが、家庭用シェルターは建築基準法に基づいて設置する必要があり、国土交通省の所管になります。より効果的なシェルターを作るには建築基準法に防衛省の知見を入れ込む必要がありますが、今は建築基準法にシェルターの定義すらありません。ハウスメーカーの事業展開や企業のBCPについては経済産業省の所管で、自治体に働きかけて地域単位で導入する場合は総務省消防庁も絡んできます。国が補助金を出すという話になると財務省も入ってきます。

閣議決定された政府のシェルター基本方針は内閣官房の国民保護ポータルサイトを運営する「内閣官房副長官補(事態対処・危機管理担当)付」が取りまとめましたが、総合防災性シェルターについては所管官庁はばらばらで、普及を図る体制はまだ、できていません。

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家庭用シェルター普及を阻むものとは

——国の体制のほかに、家庭用シェルターの普及の壁になっているのは何ですか。

最大の問題は費用です。小型のものでも2000万円以上します。シェルターは地下に設置するのが基本ですから、まずシェルターを作ってその上に家を建てる順番になりますが、地下は浸水の恐れがあるし、湿気でカビが生えやすいので、それを防ぐ必要もあります。

普段は食品や日用品を備蓄する物置としてしか使わないのに、シェルター機能を付与すれば壁は厚くしなければいけません。コストも手間もかかり、工期も延びる地下室は、施主が希望しても、できれば作りたくないのが本音です。「2000万円かけて地下に物置を作っても、シェルターとしては一生使わないかもしれませんよ」とハウスメーカーに言われると、設置を考えた施主も二の足を踏んでしまいますよね。

途中まで工場で作ったユニットを量産し、現場で組み立てる方式にすれば価格は下げられますし、ユニットを容易に組み立てられる構造にすれば、工期も大幅に短縮できるはずです。私は30年前からユニット化による汎用シェルターの開発に取り組んでいます。しかし、なかなかうまく普及しない。シェルターは厚い壁や鉄板を使うので、どうしても大きく、重くなってしまうのです。ユニットを運び込もうとしても、住宅地の道路が狭くてトラックが入れない。何とか運び込んでも、住宅地の上空には電線があって、つり上げて宅地に置くことが難しい。

自然災害用のシェルターに戦争災害の要素を加えても、シェルター自体はコンクリートの箱であることに変わりはなく、それだけでコストが大きく跳ね上がることはありません。でも、総合防災性を備えたシェルターについては、コンクリートの厚さなどについての明確な技術的な指標がありません。どのくらいの厚さにすればいいのか、よくわからないことも、汎用型の量産や普及の足かせになっています。

基本方針では、イスラエルなどの取り組みも参考にしながら、核攻撃など過酷な攻撃や災害に必要な機能を備えた避難施設に関する知見の蓄積を図り、シェルターの技術的な仕様を1年後をめどに整理する、としています。技術的指標の整備では、ぜひ民間防衛の普及という視点を忘れないでほしいと思います。

シェルター設置のコストについても、大規模な造成地に一斉に設置すれば、かなり抑えることができると思います。シェルターは宅地に穴を掘って地下に設置しますが、その際に出た土を運び出さず、設置したシェルターが完全に埋まるまで土をかぶせれば、造成地の宅地全体を道より高くできます。

道より1メートルほど高くして住宅を建てれば、水害を防ぐ機能も高くなります。地価が安く、道が広く、電線がない地方で、街づくり計画に盛り込んで、「世界初の総合防災タウン」としてシェルター付きの分譲住宅を売り出せば、ビジネスベースにも乗せられるのではないでしょうか。震災の被災地の復興モデルとして整備する際に、軍事的脅威にも抵抗力がある総合防災性シェルターを導入することもできると思います。

<取材協力>
山口 忠政氏(やまぐち・ただまさ) 1971年、兵庫県生まれ。東海大学海洋学部海洋土木工学科卒、建設会社社員などを経て、97年日本シェルターシステム社長。2010年、一般社団法人日本安全保障・危機管理学会に入会し、民間防衛研究部会部会長を務める。著書に『究極の民間防衛―戦災・天災・人災に対応するシェルターの勧め―』(日本安全保障・危機管理学会)。

(聞き手・構成 読売新聞東京本社編集委員 丸山淳一)

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